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re:plus インタビュー ローファイヒップホップの先駆者が語る、「エモ」「エレクトロニカ」のルーツと美メロビートの秘密

私が「サウンドパックとヒップホップ」「極上ビートのレシピ」の連載を行っていたメディア「Soundmain Blog」のサービス終了に伴い、過去記事を転載します。こちらは2023年4月7日掲載の「極上ビートのレシピ」の第4回です。


SpotifyやApple Musicといったサブスクリプション型ストリーミングサービスの浸透以降、リスナー数が急成長したインストヒップホップ。ここ日本でも活気溢れるシーンが形成され、その中から国境を越えて大きな支持を集めるビートメイカーも増加してきている。この連載では、そんなインストヒップホップを制作する国内ビートメイカーに話を聞き、制作で大切にしている考え方やテクニックなどを探っていく。

第4回に登場するのはre:plus。コンピレーション「IN YA MELLOW TONE」シリーズで知られる国内レーベルの〈GOON TRAX〉からデビューし、今も精力的に活動を続ける現在進行形のレジェンドだ。「美メロ」をトレードマークにしたその作風は、ストリーミングの浸透以前から国境を越えて支持を獲得。いわばローファイヒップホップの隆盛以前からそれに近いものを通ってきた先駆者のような存在である。今回はそんなre:plusに話を伺い、作風のルーツや手法、ローファイヒップホップへの問題意識などを話してもらった。


パンクからエモ、エレクトロニカを経てヒップホップへ

――これまでのリスナーとしての音楽遍歴を教えてください。

ちゃんと自分から音楽を聴くようになったのは中学生の時でした。その時はパンクブームだったんですよ。いわゆる「AIR JAM」(※)世代で、Hi-STANDARDとか、その周辺をすごく聴いていました。しばらくそれが続いたんですけど、18~19歳くらいの時にもうちょっとお洒落なコードを使うタイプのバンド音楽を聴くようになりました。toeとかthe band apartとかですね。それと並行して、Jimmy Eat Worldmaeなどのエモと呼ばれるバンドにもハマりました。その後からようやく打ち込みものを聴くようになり、今に至ります。

――ビートもので最初に出会ったのは何でしたか?

最初は、どちらかと言うとエレクトロニカの人だったんですよ。The Album Leafとかmúmとかを聴いていました。日本のレーベルでは〈SCHOLE RECORDS〉が好きでしたね。小瀬村晶さんやharuka nakamuraさんがやっていたような、そういうエレクトロニカです。ausさんがやっているレーベルの〈FLAU〉も好きでした。あとは、いわゆるジャジーヒップホップ。ジャズのサンプルを使ったものじゃなくて、もうちょっとライトな方向性の作品です。それこそNujabesさんが立ち上げた〈Hydeout Productions〉作品だったりとか、今のローファイに近いようなビートものを聴いていました。

――以前バンドをされていたという話を過去のインタビューで読みました。ジャンルとしてはやっぱり今挙がったようなものになるんですか?

そうですね。20歳まではギター担当としてバンドをやっていました。その後にエモにハマったわけですが、エモロックのバンドはピアノを使うバンドが多かったんですよね。そこで「もう一回ピアノを弾こうかな」と思って電子ピアノを買いました。その後やっていたバンドが解散して新しいバンドを始めたんですが、そこではピアノを担当していましたね。

――「また」ということは、小さい頃とかにピアノを習っていたのでしょうか?

4~5歳くらいから中学生までやっていました。ただ英才教育のような感じではなく、普通の習い事としてやっていたような形でしたね。

――なるほど。そこからDTMを始めたのにはどういうきっかけがあったんですか?

電子ピアノを買ってから、「これにパソコンを繋げるとすごいっぽいぞ」みたいなことを知ったんですよね。その流れでDAWの存在を知りました。その後バンドでの活動が上手く行かなくなって、一人でやりたいと思って本格的にDTMを始めました。

はじめはヒップホップのビートを作ろうとは思っていなくて、当時聴いていたエレクトロニカの方向に行こうと思っていました。でも、僕はリズムの知識が弱かったんですよね。打楽器を打ち込んでいくよりも、ループ主体のヒップホップのビートのほうが簡単そうだと勘違いして、ヒップホップを作り始めたみたいな感じです。その頃から大筋の音楽性としては変わっていないのかなと思いますね。


〈GOON TRAX〉での経験

――特別に意識して研究したビートメイカーがいたら教えてください。

ドラム(ビート)の面では正直Nujabesしかいないですね。ビートではなくピアノではいっぱいいます。一番影響を受けたのは坂本龍一さんで、あとはJazztronik野崎良太さんとか。ふんわりと取り入れているくらいですが、最近だとRobert Glasperのコード進行を研究したりしていますね。

――ビートメイクにバンドの経験が活きていると思うことってありますか?

とりあえず楽器がひと通りわかっているのは大きいと思いますけど、技術的な部分ではあまりないですね。一番大きいと思うのは精神的なポジティブさの部分です。バンドをやっていた時に、お客さんがゼロの会場や出演者しかいないところで披露するみたいなことが色々とあったんですよ。なかなか堪えるんですよね。何とも言えない会場の空気感というか(笑)。その経験を思えば、今たくさん聴いてくれている人がいるので作ることに対して前向きになれるんですよね。

――なるほど。その後、re:plusさんはコンピ盤「IN YA MELLOW TONE」に楽曲が収録されてデビューされますが、当時レーベルメイトやスタッフの方から影響を受けたことはありましたか?

当時、自作曲を5~6曲Myspaceに上げていた段階で拾われたみたいな感じだったんですよ。何の経歴もなくて、自分自身の音楽性も何も確立していない半分素人みたいな状態でした。〈GOON TRAX〉(「IN YA MELLOW TONE」シリーズのリリース元であるレーベル)のマネージャーははっきりと物事を言う人だったので、彼の「これはいいね」「悪いね」という言葉を受け止めつつ、初期作品は相談しながら進めていきましたね。

――マネージャーの方から具体的にどういうことを言われたか、覚えていたら教えてください。

あまり理論的なことは言われなかったですね。シンプルに「良くない」みたいな感じでした(笑)。でもそういうのには慣れていたので、あまりショックには感じなかったです。あと、思い返すと自分から「IN YA MELLOW TONE」に合わせに行っていたところもあったと思います。

――「IN YA MELLOW TONE」は当時CDショップでものすごく売れていましたよね。

近所の小さいTSUTAYAに行ってもバーッて並んでいて、「マジかよ」みたいな感じで見ていました。現実味がない状態がかなり長かったですね。re:plusとして活動し始めてからの下積み期間がすごく長くてそこに行っていたら「うわー、ついに来た!」って感じたんでしょうけど、僕はパッと連れて行かれてしまった感じだったので。

――今の「ローファイ系ビートメイカーが曲を出したらいきなり大型プレイリストに入った」みたいな感じに近そうですね。

それこそ、1回目のインタビューに出ていたRefeeldさんとかはそんな感じだと思うんですよね。彼もLofi Girlから出したりしていて、めちゃくちゃ再生されているじゃないですか。実体としてリスナーの姿を把握することはできないんだけど、すごく回っているみたいな感覚があったんですよね。


良い機材は「80~90点のものを5~10点伸ばす」ためのもの

――DTMのために最初に入手した機材はなんでしたか?

多分オーディオインターフェイスですね。ソフトはSONARを使っていました。その当時は楽器屋さんに行くと、Roland製品が目につきやすかったんですよね。インターフェイスもRoland製品でしたし。SONARはRolandが絡んでいたので、たまたま買ったみたいな感じでした。

――その後、DAWの乗り換えなどはありましたか?

割と早い段階でCubaseに乗り変えました。〈GOON TRAX〉のマネージャーに「Cubaseを使っている人が多いから変えたら?」と言われて「じゃあそうしよう」という感じで、そんなに深い意味もなく乗り換えました。そこから特に不満もなく使い続けています。

――今はどういう環境で制作されていますか?

ソフトサンプラーと……あ、じゃあ今動かしますね(リモート取材中のカメラを動かす)。サンプラーがあって、キーボードがあって。基本はここの中でやっています。どちらかというとアウトボード(=ハード機材)に力を入れていますね。

――すごい。めちゃくちゃいい設備ですね。アウトボードに力を入れている理由は何かあるんですか?

オーディオインターフェイスに関しては確実に値段によって差が出ると思うんですよね。やっぱり2~3万のものと、20万のもので全然レベルが違います。そういうのって、いいイヤホンを買って初めて「いい音」がどういうものかわかるのと同じで、使ってみないとわからない。

あと、アウトボードに力を入れることで、左右のpanがあるのと同じように縦にも音の配置があることを理解できるようになりました。身体的にコントロールできるのも魅力ですね。ほかの機材に関しても、今だとプラグインで全部できちゃうみたいな話もあるんですけど、やっぱり一回使うとみんな良さがわかると思います。

ただ、高い機材を使っても50点の音がいきなり100点になるわけではないんですよね。80~90点のものをあと5~10点伸ばすために使っているという感じです。でも、そこにこだわりたいので買いますね。


「違和感の魅力」を出すためにサンプリングを使う

――今はピアノ以外も弾いて作られているんですか?

そうですね。ギター類やベースは自分で弾いています。ドラムはほぼサンプリング素材から引っ張ってきていますね。ループにしろワンショットにしろ。

――ループも使うことがあるんですね。

たまにですけどね。まんま使っちゃっている曲もあります。「弾きではできない部分はサンプルを使っている」という感じですね。

――サンプルを使うことの面白さはどこにあると思いますか?

ビートものって、普通に弾いたらつまらなく感じる曲も実は多いと思うんですよ。例えば、Nujabesの「Reflection Eternal」という名曲がありますが、あれを普通にそのままピアノで弾いたとしても面白くない。じゃあ、なんで良いと感じるかと言ったら、不自然な切れ目があるところだと思うんですよね。コラージュ的な、良い意味での違和感が生まれている。ビートものにはそういう魅力が必要だと思っているので、それを出すためにピアノ、声ネタ……あらゆるサンプルを引っ張ってきます。

――ピアノ素材を使うこともあるんですね。勝手なイメージですけど、ピアノを弾くことには特別こだわっている方だと思っていました。

いやいや(笑)。メインでは弾いていて、裏ではサンプルのピアノ素材が鳴っているみたいなこともあります。一番こだわっているのは質感ですね。

――ピアノを弾く時は、ループに足りる短い小節数だけ弾いている形ですか? 最初から最後まで全部弾いていたりします?

ループしている部分だけ弾いていることが多いですね。引っ掛かりを作るという意味でもそうしています。でもずっとそれだとつまらなくなってくるので、メインのピアノはループさせておいて、違うところでインプロっぽいフレーズを入れるとかもしています。

――ピアノなどでソロを入れる際には、ソングライティングをした上で演奏しているんですか?

いや、インプロです。でも僕はヘタクソなので、10~20回録ってそれを繋ぎ合わせていくみたいな感じで作っています。

――ビート音楽だからこそできる形ですね。ビートを作る際のルーティーンはありますか?

作業工程に関しては、あえて毎回変えています。ルーティーンでやっちゃうと、内容的にも毎回同じようなことをやり始めちゃうと思うんですよね。頭でフレーズを考えて作っていくとか、サンプルを聴き続けていい一瞬を見つけたらそこから組み立てていくとか、単純にドラムのフレーズを打ってみてその上でピアノを弾いてみるとか……本当にまちまちです。なので、毎回「どうやって作るんだっけ?」みたいになりますね(笑)。


ローファイヒップホップシーンの「不気味さ」とモチベーション維持の秘訣

――制作の上で意識していることや大切にしていることはありますか?

最近特に意識しているのは、メロディを明確に入れることですね。僕は今ローファイヒップホップというジャンルにいると思うんですけど、このジャンルはここ3~4年で飽和しているし、ちょっと不気味だなと思っているところもあって。例えば「ローファイヒップホップ好きです」と言っている人に、「10人好きなアーティストいますか?」って聞いたら多分言えないと思うんですよね。僕らみたいな音楽家だったり、キュレーターだったり、当事者として関わっている人は違うのかもしれないですけど。アーティストとして見られていないというか、ツールとして聴かれているように思うんです。

――プレイリスト名は挙がるんでしょうけどね。

そうなんですよ。でも「この人が好き」みたいにはあまりなっていない。やっぱり僕はそれではまずいと思っているんです。ブームというものは確実にいつか下火になるので、ファンが付いていないとブームが引いてきた時に一緒に終わってしまう。そこで「あなたの音楽が好きです」と言ってもらうものを作るために、自分らしさというか、個性を入れていかなきゃいけないと感じています。僕の場合だとそれがメロディなんですよね。

――ちなみに私はre:plusさんのドラムが好きなんですが、ドラムで工夫していることはありますか?

ドラムに関してはサンプラーを使って実際に打って作っていくことを大切にしています。ドラムは打つ場所だけではなく、リリースタイムや深さなどで大きくノリが変わるんですよね。

DAWに貼り付けているだけだと、そこがわかりづらくて。実際にサンプラーで打ち込むと、どのくらいの長さ・深さがほしいかとか、その音の中で一番気持ちいい打ち方は何かとか、体を揺らしながら自然とわかるようになるんです。また、ミックスに関してもこだわりがあります。最大のプロモーションがプレイリストである以上、他の曲と比べて音が小さくならないようにしています。キック・スネアは大きめに出しているのもこだわりですね。

――ほかに大切にしていることはありますか?

リリースし続けていないと「消える」……自分に対するアテンションがすぐに失われるというのが今のインターネットなので、コンスタントに継続していくことを大切にしています。とにかくやらなきゃいけない。そのモチベーションを意識的にキープできるように、ロジカルに仕組みを作っておくことにも気を付けています。たとえば、小さい目標をたくさん作って、「ここからここまでやる」という風に細かく刻みながら制作しています。楽しいと思ってやっていられる最初のうちはいいんですけど、好奇心だけじゃ持たなくなってきた時にはそういうことも考えなきゃいけなくなってくると思うんですよね。

あとは太陽光を浴びたり運動したりすることによって脳内物質の分泌を活性化させて、やる気を高めるということも大切にしています。僕は今マラソンをやっていて、去年は大会にも挑戦しました。それで明らかに自分のモチベーションが変わりましたね。あまりビートメイクに関係ないように思えるかもしれないですけど、これをやるのとやらないのとでは全然違いますよ。


「バグ」を利用して音の揺れを生み出す

――ビートを作る上でよく使う技法はありますか?

ピアノやエレピの類に深めのディレイやリヴァーブをかけることをよくやっています。全部シンセでやるよりは、生楽器にエフェクトをかけて空間を演出するほうが好きですね。あと技術的な話だと、ローファイヒップホップでよくある音の揺れを出すために工夫していることがあります。Cubaseには「VariAudio」という単音用のピッチ修正ソフトがあるんですが、それを和音にかけるとバグって「ウオオオ~ン」みたいな揺れ方をするんですよ。その上でいらない部分を削ったりしています。「揺らす」用のプラグインもいっぱいあるんですけど、自分で揺れ方を細かくコントロールすることはできないんですよね。こうすることによって劣化していい感じになったりもするので、ローファイヒップホップをやっている人にはおすすめのテクニックですね。

――なるほど。

あとはサンプルを使う際にもよくやるテクニックがあります。サンプルって便利なんですけど、人と被るじゃないですか。今だとYouTubeのContent IDに引っ掛かったりもしますし、皆さんそのまま使いたくないという意識があると思うんですよね。それを回避するために、ある程度作った曲の中に「ここにサンプルを入れたい」と思った箇所があったら、DAW側でマスターを半音とか一音とか上げて、その状態でサンプルを探すようにしています。いいサンプルが見つかったらピッチを戻して、サンプルのピッチも一緒に下げて使う。そうすることで、ある程度まったく同じ波形が生まれることを回避できるんです。

――近年の作品には声ネタが入ることもありますが、言葉の意味を壊すような刻み方をしていないような印象があります。そこには何かこだわりがあるのでしょうか?

それは言われるまで全然気付かなかったです。「なんでそうなってるか」と考えたら、恐らく曲作りがそのサンプルから始まっている時なんですよね。サンプルから広げて作っているので、結果的に崩してないのかなと思います。でも、そのまま使っているのではなく、ピッチを下げたりはしていますね。

――ありがとうざいます。ちなみに、制作において時間を一番かけているのはどの部分になりますか?

ミックスとマスタリングですね。明日もう一回聴いたらダメだったから直して、明後日聴いたらもう一回直して……みたいに、ちょっとずつ進めているうちに時間が積み重なっていきます。複数の曲を並行して作るのではなく、一曲一曲に集中して作っていますね。


自分の影響で音楽を始めたOsamu Fukusawaとのコラボ

――re:plusさんは以前にもトランペットなどを演奏される島裕介さんとのコラボアルバムを出していましたが、ミュージシャンの方とコラボする時はどういった作り方をすることが多いですか?

例えば相手がトランペットやヴォーカルみたいに明確な役割がある人だったら、メロディを書いて「これをやってください」と言うのが基本ですね。インプロに関してはほぼ何も言わないです。3~4パターンもらって、それをうまく繋いでやっていくみたいな感じですかね。

――ミュージシャンの方との制作で、考え方の違いを感じることはありますか?

普段ライブを中心に活動しているような人と一緒にやると、録音に対してビートメイカーほどこだわっていなかったりするんですよね。僕らはその録音物がすべてなのでワンフレーズの細かいニュアンスまでこだわったりするんですけど、彼らは一回のプレイをそのまま採用したりする。その辺の感覚の違いというのは、ビートメイカーとの共作時との違いとしてあるように思います。あらゆる面で自分が思っている以上に「僕はそういうことにこだわっているんだよ」というのを伝えないと、意外とズレてしまうんだと思ったりもしますね。

――最近Osamu Fukusawaさんとのミニアルバム『Afterimage』がリリースされましたよね。あれはどういったきっかけで始まったプロジェクトなんですか?

Osamu Fukusawa君は、僕より10個くらい年少なんですよ。3~4年くらい前のある日、僕がTwitterにデモか何かをアップロードした時に、当時はまったく面識のなかった彼が「すごくいいですね」とコメントをくれたんです。僕は相手がビートメイカーの場合、そういうコメントをもらった時には一応聴きに行くんですが、そうしたら曲がめちゃくちゃ良かった。それでDMで「いや、あなたの曲もすごいですね」みたいにすぐに送りまして。そうしたら「re:plusさんが好きで音楽始めたんです」と言ってくれたんですよね。「いやいや、またまた~」みたいに思うじゃないですか。でも「福岡のライブを観に行きました」って言われて、そういえばすごく若い子――おそらく彼は当時まだ10代だったんじゃないかな――に声をかけられたな、ということを思い出したんですよ。それで、「あの時の彼か!」と思って共作に誘ったのが始まりですね。

それで最初に作ったのが、今回のミニアルバムにも入っている「Far away from the noize」という曲です。この時は共同の名義ではなくフィーチャリングとして、まず僕が曲を作って、彼にはシンセなどの色付けをやってもらうという形でした。

そうして1曲完成させてみたら、「もうちょっと何かできるんじゃないかな」と思ったんですよね。それで「never」という曲の原曲のリミックスを頼んだら、返ってきたものがまたすごく良かった。そこから「これ、もうちょっと曲作ってパッケージしようよ」と言って、アルバム作りがスタートしました。

――めちゃくちゃいい話ですね。

今まで「re:plusさんが好きで音楽を始めました」って言ってくれた人は何人かいるんですけど、実際に曲を聴いてみて「すげえな」と思ったのは彼しかいないです。ある程度「良い」と思うもののフィルターが一緒だからこそ、今回の作品が成り立ったと思いますね。


お互いのデモを交換して作り上げた作品『Afterimage』

――「互いのデモを交換してそれぞれで作り上げて」いったとTwitterで仰っていましたが、どのくらいまで作り込んだ段階で渡していたのでしょうか?

曲にもよるんですけど、そのままリリースしちゃっても大丈夫くらいな段階になっているものを渡すことが多かったですね。ラッパーに依頼されて書いたけど、レスをもらえなくてそのままになっていた曲とか(笑)。

ただ、返ってきたものは原曲のオーディオデータを使いつつも大幅にイメージが変わっていて、それがいつも素晴らしいんです。直すとしても「ちょっと、ここだけどうかな?」くらいでしたね。たまに「ここはこだわっているので、このままがいいです」みたいなこともありましたけど、割合で言うと新しくアレンジされたものの80~90%はそのまま通しています。

――先ほど仰っていた「never」で、途中シンセだけになってピアノが入ってくる展開が個人的にめちゃくちゃ好きでした。あれはどちらのアイデアでしたか?

あれはFukuzawa君がやっていますね。最初は普通の8ビートだったんですが、彼に渡したらああなって返ってきました。でも自分が入れた音はそのまま使われているし、メロディもそのままだし。不思議な感じがしましたね。

ちなみに「Where are you?」は逆パターンでした。Fukuzawa君が8ビートで送ってきたものを、僕が同じような感じで作り直して返して、「おお~!」みたいに驚かれましたね。

――お互いに刺激的なコラボになったんですね。ということは、今回の作品はコンセプトを固めて作ったというより、色々と作った曲をまとめたような形でしょうか?

1曲1曲に関しては特にコンセプトを持たずにやってきましたね。でも、5~6曲溜まった時に全体的なイメージを考えました。コロナとかで色々と変わったことがたくさんあったじゃないですか。ライブハウスがなくなっちゃったりとか、常識が変わったりとか。彼は彼でちょうど福岡から東京に移る時だったりしたんですよね。そういうことが重なって、「時間と物事の変化」を漠然とイメージするようになってきました。それでタイトルにもなっている「Afterimage」……「残像」がキーワードになってきたという感じです。

――今回はミュージシャンの方も参加されていますよね。それぞれどういう経緯で決まったんですか?

島さんとサックス奏者のYuichiro Katoさんは以前にも一緒に作品を作った人たちで、僕が「この人がいい」という希望を出しました。今回初めて一緒にやったギタリストのKazuki Isogaiさんは、このプロジェクトよりも前の段階で、たまたま人づてに紹介してもらっていた人なんですよね。その後、今回の作品が〈Stereofox〉というレーベルから出ることに決まったんですが、そこにIsogaiさんが所属していたんですよ。本当にそこは偶然だったんですけど、「せっかくだし1曲やってもらいたいな」と思って「Town Bustle」という曲を作りました。

――〈Sterofox〉からリリースが決まったのにはどういった経緯があったんですか?

今って、曲をどれだけ広げられるかってプレイリストに入るかどうかに相当かかっているじゃないですか。そこを考えると、日本のレーベルより海外のレーベルにアプローチしたほうが良いだろうなと思ったんです。それで「後でDMを送ろう」と思って海外のレーベルのSNSを色々とフォローしていたら、〈Sterofox〉がすぐに向こうから「ファンです」ってDMを送ってきてくれたんです。「え!」と思って、過去のラインナップを見てみたら相性も良さそうだったので。「じゃあ、やりますか!」みたいな流れでした。

――すごい話ですね。ちなみに今回、レーベルからディレクションは入りましたか?

曲に関してはまったくないですね。ただ、出し方については打診されました。「もうちょっとシングル切らない?」とか。


国内とアジアのシーン、今後やりたいこと

――近年の作品で、以前はやっていなかった新しい試みはありますか?

3rdアルバムくらいの時は、すごく幅広い音楽を作っていたんですよ。1曲目は今考えたらローファイヒップホップっぽいし、普通にポップスっぽい曲もあるし、R&Bっぽい曲もある。結構ぐちゃぐちゃなアルバムを作ったんですけど、評価が低かったんです。それが2015年で、その後にだんだんストリーミングサービスというものが日本にも広まっていったんですよね。それもあってプレイリスト文化の中で一枚で聴いてもらうには、ある程度ジャンルを絞った統一感のある作品を作らなければいけないと思うようになったんです。その結果ビートものでまとめるようになってきたのが、ここ3年の変化ですね。

――私が毎回聞いている質問をしたいと思うんですが、「史上最高のビートメイカー」5人を挙げていただけますか?

まずはNujabes。そしてEVISBEATSさんです。あの人は音がめちゃくちゃ太いんですよ。あの音があるからこそ、音数が少なくても成立していると思いますね。すごくシンプルなんですけど、でもどうやったらああなるのかがわからなくて、ただただすごいなと思っています。

あとはmabanuaさん。今はポップス方面の仕事が目立ちますが、彼のソロの1stアルバムを聴いた時にはめちゃくちゃ衝撃を受けました。センスの半端無さは今も変わっていないと思います。

海外のアーティストだとKeiferが断トツで1位ですね。あと、Rob Araujoというアーティストも好きです。ビートを自分で作っているのかはわからないんですけど、Anomalieとかとも一緒にやっていて、とにかく鍵盤が超格好良いんですよ。やっぱり僕は鍵盤が好きで、その上でビートも格好良ければ最高だと思っています。

――納得するラインナップでした。近年はローファイヒップホップが盛り上がっていて、日本でも若いビートメイカーがどんどん出てきていますよね。比較的最近のリリースで、re:plusさんが格好良いなと思う人はいらっしゃいますか?

活動歴自体は長い方かもしれないんですけど、Kazumi Kanedaさんという人は良いですね。〈Inner Ocean Records〉に所属していて、コンスタントに格好良い作品を出しています。この人も鍵盤奏者でビートメイカーなんですよね。

――re:plusさんはアジアでの人気がとても高いイメージがありますが、アジアのアーティストからコラボの誘いが来ることはありますか?

受けたことは一回もないんですけど、Instagramとかで結構来ますね。あと中国で「网易云音乐」という有名な音楽サイトがあるんですけど、ラッパーが既存のインスト曲を使ってリリースできたりするんですよね。そこで自分の曲がよく使われています。

――そういったサイトがあるんですね。最後に、今後やってみたいことがあれば教えてください。

生活スタイルを変えるというか……旅人になりたいです(笑)。色んなところを回りながら作っていくスタイルをやってみたいですね。さっきのモチベーションの話にも繋がるんですけど、実は最近は家で一から作るのがしんどくて、ノートパソコンと小さい鍵盤だけ持って、常に公演や川のほとりみたいな、外に出て作るようにしているんです。スーパー銭湯に丸一日いて考えたりもしているんですが(笑)、そういうことのもっと幅広いバージョンをやりたいですね。


re:plus プロフィール

Hiroaki Watanabe(Pianist / Trackmaker / Sound Producer)によるソロプロジェクト。 2009年7月リリースのデビュー曲「Everlasting Truth」で、iTunesヒップホップ・チャート1位を獲得。

翌2010年3月にリリースされた1stアルバム『Everlasting Truth』は、これまでに累計25,000枚を越える超ロングラン・ヒットを記録。2011年には2ndアルバム『Ordinary Landscape』、2015年には3rdアルバム『miscellany』を発表、いずれも大ヒットを記録。

2016年シンガーAi Ninomoyaとの全編歌ものの共作アルバム『Finding Stride』、2019年にはトランぺッター島裕介とのコラボアルバム『Prayer』、2020年以降はLo-Fi Hiphopシーンの盛り上がりに沿うように全編インスト曲で構成された『Floating in the midnight sun』『cure』『Afterimage』の3枚のアルバムをリリース。大手配信プラットフォームの公式プレイリストに多数リストされている。またその人気はアジアや欧米など世界中に広がり海外ツアーも多数行っている。

Twitter: https://twitter.com/replusmusic
Instagram: https://www.instagram.com/replusmusic/
Facebook: https://www.facebook.com/replusmusic
SoundCloud: https://soundcloud.com/re-plus
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCcBPpyVwNp9yYFk2u4Bp9Dg


使用機材
C : Mac book air 2020
DAW : Cubase12
オーディオインターフェース : RME – ADI-2 Pro FS /Prism Sound – Lyra2(AD/DAとして使用)
モニタースピーカー : ADAM – A7X & ADAM – Sub7
ヘッドフォン : audio technica – ATH-R70x
キーボード : Nord – Nord Piano/Natime Instruments – Komplete S88
サンプラー : Native Instruments – Maschine MK3 / ROLAND SP-404SX /ENSONIQ – ASR X PRO
エレキギター :Fender – American Professional ⅱ Stratocaster /Line 6 – Variax
アコースティックギター :Yamaha – FG180
ベース : Fujigen – Neo Classic
マイク : Neumann – U87ai /Townsend Labs – SphereL22 /SHURE – SM57 /audio technica – AT4081
エフェクター : Rupert Neve Designs – Shelford Channel /Solid State Logic – Alpha Channel /DRAWMER – 1960 / Empirical Labs – EL7 Fatso.Jr /Solid State Logic – Fusion

※:アボかどと同じ新潟出身である難波章浩を擁するパンクロックバンド、Hi-STANDARDを中心に企画されたロックフェスティバル。1997年に初めて開催され、その後も何回か行われている。

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