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フューチャリスティック・スワッグが残したもの

Rolling Stone JapanのWeb版に、先日亡くなったMigosTakeoffの追悼記事を寄稿しました。

Migosが結成された頃のアトランタのシーン、Migosの歩み、与えた影響やTakeoffのソロ作に見るMigosとは違うセンスなどについて書いています。Takeoffの早すぎる死は本当に悲しい出来事でした。改めてご冥福をお祈りします。

今回の記事では、2000年代後半から2010年代前半にかけて盛り上がったアトランタのムーブメント「フューチャリスティック・スワッグ」に触れています。代表的なアーティストはYung L.A.Fast Life Yungstazなどで、Young Jeezyタイプのトラップを朗らかにしたようなビートやゆるいラップなどが特徴として挙げられるスタイルです。

このムーブメントは気付いたらトラップに吸収されるような形になり、あまり振り返られる機会は多くないですが、かなり重要な動きだったように思います。Migosがその流れを汲んで発展させたような音楽性だったことはもちろんですが、ほかにも何人かの重要アーティストがこのシーンから登場しているためです。

フューチャリスティック・スワッグのシーンから登場したラッパーで、Migosと並ぶ大きな存在として挙げられるのがYoung Thugです。Gucci Maneのフックアップを受けてブレイクを掴んだYoung Thugですが、Gucci Mane以前にRich Kidzの2010年のミックステープ「Straight Like That」収録の「100 Dollar Autograph」に客演しています。Rich Kidzとは以降もたびたび共演しており、さらにフューチャリスティック・スワッグのシーンの重要人物であるYoung Droの作品にも参加。何より歌いまくるラップスタイルもRoscoe Dashなどと重なる部分が多いです。

また、Young Thugとの縁も深いプロデューサーのLondon On Da TrackもRich Kidz周辺から登場した人物です。キャリア初期にはラップグループのDem Savagesのメンバーとして活動していましたが、グループで2009年に発表したミックステープ「Savage City」はビートもラップもかなりフューチャリスティック・スワッグ系。そして、同作にもRich KidzのShad(後のShad Da God)が参加していました。London On Da TrackはRich Kidz作品にもプロデューサーとして関わっており、Young Thugと同様にこのシーンとの関係を深く持っています。

Rich KidzはT.I.率いるGrand Hustleと契約していましたが、同レーベルにはYoung DroやYung L.A.も(一時)所属していました。メインストリームにこのムーブメントを繋いだ重要レーベルと言えると思います。また、レーベルを発展させたようなコレクティヴのBankroll MafiaにはYoung Thugも所属。2016年にリリースされたコレクティヴでのアルバム「Bankroll Mafia」には、London On Da TrackやMigosメンバーも参加していました。

こういったシーンの当事者たちだけではなく、それを聴いて育ったアーティストも活躍しています。Lil Baby作品で中核を担うプロデューサーのQuay Globalは、The FADERのインタビューで「(Fast Life Yungstazの)『Swag Surfin'』やRoscoe Dash、Travis PorterやGucci(Mane)を聴いていた」と語っていました。Quay Globalもエレクトロニックなシンセよりもピアノのような楽器の音を好んで使うプロデューサーです。その作風と「Swag Surfin'」などとの繋がりはしっかりと発見できます。

その「Swag Surfin'」やRoscoe Dashの「All The Way Turnt Up」などを手掛けたフューチャリスティック・スワッグの代表的プロデューサー、K.E. On The TrackもYoung ThugやPeewee Longwayなどの作品に参加していました。2010年代のアトランタトラップの快進撃の裏には、フューチャリスティック・スワッグのシーンが育んだ才能があったのです。なお、「All The Way Turnt Up」やFast Life Yungstazの「Party Time」などで聴けるK.E. On The TrackのDTMっぽいギターと手数の多い808の組み合わせは、エモラップやハイパーポップを通過したリスニング感覚で聴くとまた魅力的に響きます。今後何らかの形で再び光が当たる可能性もあるかもしれません。

そのスタイル自体はメインストリームでの流行になることはなかったものの、大きな才能を多く育んでいたフューチャリスティック・スワッグ。そしてMigosやYoung Thugといったそのシーンにいた(と思しき)アーティストの活躍がヒップホップを変革し、現行シーンの形成に繋がりました。アトランタのどんなアーティストが次にこのバトンを受け取り、新しい何かを生み出していくのか今後も要注目です。


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