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Eminem以降に登場した白人ラッパー

ケンタッキーのラッパー、Jack Harlowが先日新たなアルバム「Jackman」をリリースしました。そして、その収録曲「They Don't Love It」でのラインがヒップホップリスナーの間で話題を集めています。

ゲロとセーターについてラップした人以来、最もハードな白人ボーイ
コメントは控えてくれよ。君の頭に浮かんだ人よりも俺の方が優れているって約束するから

「ゲロとセーターについてラップした人」とは、代表曲「Lose Yourself」で「セーターにはもうゲロがついている、ママのスパゲッティの」とラップしていたEminemのことを指しています。この強気なリリックはリリース後すぐに議論好きなヒップホップホップリスナーの心を掴み、SNSでは白人ラッパーの話題が盛り上がりました。

Jack Harlowは優れたラッパーですが、私はこれに関しては強気すぎると思います。Eminemがブレイクしたのが1990年代後半、その立ち位置を固めたのが2000年代前半だとして、それ以降にも素晴らしい白人ラッパーは多く登場してきました。

例えば2000年代半ば頃にはテキサスのラッパー、Paul Wallが活躍しました。Mike Jonesのヒット曲「Still Tippin'」への客演で名を上げ、2005年には2ndアルバム「The Peoples Champ」をリリース。その太く低い声質から繰り出される安定感のあるラップで、「白人ラッパー」ではなく「テキサスのラッパー」としての人気を集めました。

客演でもThree 6 MafiaJuvenileJon Bなど様々なアーティストの作品に参加。近年はブーンバップ系譜の作品への客演も増加しており、ビートを問わないラップ巧者ぶりで長く活躍しています。私はEminem以上にPaul Wallこそが「最高の白人ラッパー」の称号に相応しいと思います。

Paul Wallとも共演している、メンフィスのLil Wyteも「ハードな」という意味では重要なラッパーです。Three 6 Mafia周辺から登場して2003年に1stアルバム「Doubt Me Now」をリリースしたLil Wyteは、Pastor Troyあたりにも通じるエネルギッシュなラップを聴かせるラッパー。2000年代のThree 6 Mafia関連作には欠かせない人物で、以前AI画像生成の「お絵描きばりぐっどくん」でThree 6 Mafiaの画像を作ろうとしたらメンバーのようにそれっぽい人が出てきました。違うよ!

Lil Wyteの周辺から登場した、Jelly Rollも重要なラッパーです。近年はカントリーへの接近が目立つラッパーですが、元々はラップグループのSNOのメンバーとしてThree 6 Mafia率いるHypnotize Mindsからのリリース経験を持つメンフィスG文脈の猛者。Lil Wyteとのタッグ作も何枚かリリースしています。

タッグ作を何枚かリリースしているといえば、Yelawolfもハードな白人ラッパーです。2010年のミックステープ「Trunk Muzik」で注目を集めたYelawolfは、高い声質での高速ラップとゆるい歌を巧みに用いるスタイル。現在は脱退していますがEminem率いるShady Recordsでも活動し、2010年代のシーンを彩りました。

Yelawolfは白人アーティストとのタッグ作の制作に積極的で、これまでにEd SheeranTravis Barkerなどと共作しています。ラッパーではCaskeyRiff RaffなどがYelawolfとタッグ作をリリースしていますが、彼らもかなり優れた白人ラッパーです。また、曲単位ではMachine Gun Kellyとも共演しています。

Yelawolfが登場した2010年前後には、Action BronsonMac Millerもブレイクを掴みました。Ghostface Killah似の声質とブーンバップ路線で人気を集めたAction Bronson、クラウドラップやネオソウル風の路線など多彩な側面を見せたMac Millerは共に2010年代前半を代表する重要ラッパーです。

よりポップなシーンと近いところでは、G-EazyMacklemoreなども活躍しています。特にG-Eazyの堅実でベイらしいラップは客演でも人気を集めており、ラッパーとしての実力が注目される機会は少ないですがしっかりとした実力者です。

そのほかにもRittzLil DickyLil Peep…などなど、様々な白人ラッパーが「Eminem以降」に活躍してきました。Jack Harlowが今旬なことは間違いないですし、強気な姿勢もラップらしさの一つだと思いますが、数多い強力なライバルたちの中で特出しているかと言われたら私はノーです。

また、ヒップホップ史には、Eminem以前にも多くの白人ラッパーが活躍してきました。今年はヒップホップが50周年の節目なので、例えばBeastie Boysが振り返られる機会も多いのではないかと思います。Beastie Boysはヒップホップ史においてスケーターとしての側面を強く打ち出した初期の例としても知られており、後のOdd Futureなどの走りとしても捉えられます。

そんなスケートボードとヒップホップについての話を、5月17日(水)のJ-WAVEの番組「SONAR MUSIC」で話しました。7日以内ならradikoを使ってタイムフリーで聴くことができます。私のヒップホップ話以外にも、俳優の渡部豪太さんによる音楽とスケートボードの話もあります。皆さま是非。


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