異例のヒット作「会計の世界史」、制作裏話 その1
ありがたいことに今年最後の講演ラッシュ。
今週来週と「会計の世界史」講演が続いています。
受講者からの声もたくさん頂いていますが、なかには私からすると「おや?」と思うものがちらほら。
「『会計の世界史』の構想についての話が面白かった」
そんな感想を数件頂戴しました。
著者の私からすれば「そんな話が面白いのだろうか?」と思うのですが、でもまあ、会計書としては異例と言われる売上を記録中であり、海外翻訳版も各国で売上好調。
だとしたら、この本の構想をまとめるまでの苦労は「ヒット作制作の裏側」と言えなくもない。
「うーん、では有料noteにして売るか?」
そんなことも考えましたが、ケチは止めます。セミナー受講者および「会計の世界史」読者への感謝を込めて、制作裏話をご披露。
当初は世界史の予定ではなかった「会計の世界史」
まずは「会計の世界史」、もともと世界史を扱う予定ではありませんでした。当初企画では「会計の全体像を網羅するガイドブック」的書籍の予定だったのです。
ここに潜在ニーズがあることはわかっていました。
なぜなら「会計を学びたい」読者はとてつもなく多いのです。ただ、初学者の悩みは「どこから手を付けていいかわからない」こと。
書店の会計書コーナーには会計入門・簿記・決算書・経営分析・ファイナンスなどといったタイトルの書籍が所狭しと並んでいます。会計を学びたい初心者は、ここで悩むわけです。どの本から読めばいいのか、と。
そんな迷える子羊に向け、「会計の全体像を明らかにしつつ、それぞれが学ぶべき順番を示す」ガイドブック的書籍を書こうと決めたわけです。
最初にぶつかった難問「おもしろくない」
簿記・決算書・経営分析・管理会計・ファイナンス・・・まずはこれらの内容を整理整頓して目次を作りました。これは比較的短時間で直ぐ完成しました。
ただ、ここで大きな問題がありました。それは・・・
「ぜんぜんおもしろくない」
きれいに整理できたのはいいが、学習参考書のまとめみたいでぜんぜんおもしろくない。私、おもしろくないものを世に出すのは嫌なんです。しかしこれでは「おもしろくない見本」の様な会計書になってしまう。これはダメだ、短絡的な手抜きだ。ぜんぜん工夫がないじゃないか。
「これはなんとかせねば」
熟慮の結果、「歴史軸」を使うことにしました。
簿記・決算書・経営分析・管理会計、これらが「いつの時代・どの国で」生まれたかを丹念に追っていけば、物語性をもたせることができます。
しかもそのような書籍は世に存在しない。「これはいけるぞ」と思ったのですが、ここでひとつ問題がありました。それは私が大の世界史嫌いだったことです。しかしもはやそんなことは言っていられません。
「いっちょやってやるか」
意を決して世界史を整理しながらそこに会計の発達史を重ねる作業を行いました。これには数カ月かかりましたが、なんとか目次が完成したのです。
うまくいくはずが次なる壁が
会計の全体像に世界史を重ねた画期的な書籍。
これで満を持して執筆に取り掛かるはずでしたが、またもや問題が生じました。それは・・・
「ぜんぜんおもしろくない」
そうなんです、おもしろくないのです。会計に世界史を重ねても、それは「よく出来た学習参考書」になっただけ。
これでは会計士や税理士、経理などのオタクには喜ばれても、一般読者を惹きつけることなど夢のまた夢。目次作成中は夢中で気が付きませんでしたが、完成したものを冷静に見ると愕然とするほどおもしろくないわけです。
「これはなんとかせねば」
どうすればおもしろくなるか。
それを考えるのはたいへん難しい。でも「なぜおもしろくないか」なら考えられる。そこで、目次を睨みながら、それが「おもしろくない理由」について考えました。
するとすぐに理由がわかりました。それは「人間が登場しない」こと。
いくら会計の歴史を整理したところで、事実の羅列だけでは読者が感情移入できません。そんなことは学生時代にさんざん経験したじゃないか。これはいかん。こんなものを出版するのは自己満足のマスターベーションだ。いまいちどの立て直しを泣く泣く決意しました。
これでとうとう上手くいく、はずだった
ただ、ここまでわかれば解決策はあります。そう、読者の心を掴んで内容に引きずり込むためには人間ドラマがあればいい! そう閃いたのです。
そうとわかればやるしかない。あらゆる時代の経営者・政治家・技術者などビジネスに関係する人物を徹底的にピックアップして、寄せ木細工のようなストーリーづくりに着手しました。
そのうちに次なる壁にぶつかります。そこそこ上手いストーリーにはなったものの、何かが足りない。物語の底が浅い。最初に比べればマシになったが、それでもやはりおもしろくない。
どうすればいいんだ・・・・。
これを悩むこと約2カ月くらい経ったある日のこと。
日本橋丸善書店を散歩中にとうとう神が降りました。
「絵画と画家をストーリーに使えば上手くいくんじゃないか」
革新的な絵画が生まれるのは経済の中心地であることが多いです。経済が栄えるから金が芸術に流れる--当たり前といえば当たり前のことです。そうであれば、「絵画・経済・会計」を重ねてストーリーを作ることができるはず。
これを思いついたとき、私は心の中で快哉を叫びました。うおぅ、なんという素晴らしいアイデア、勝利まちがいなし! 大ヒットだ! あとはやるだけ。
「いっちょやってやるか」
やる気満々、漲るパワー。
しかしここでまたまた問題がありました。
そういえば私、美術館など行ったことがなく、絵画関係の知識は皆無だったのです。
<つづく>
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