【私の金縛り体験記】エッセイ『夏夜の硬直』
8月某日。
私は自室のベッドで目を覚ました。まだ強い眠気が蟠っている。
寝っ転がったまま腕を伸ばしサイドテーブルのスマホで時刻を確認する。
スマホの液晶にはAM4:02と表示されていた。
今日は休日の為、起きるのにはまだ早い時間だった。
安心して眠気に身を委ね、目を閉じた。
眠気はあるのになぜかなかなか寝付けない。
しばらく横になって目を瞑っていると意識が何かに飲み込まれていくような、身体が落ちていくような奇妙な感覚に襲われた。
このまま眠りについたらもう2度と目を覚まさないのではないか。
そんな予感がするほどにおかしな感覚だったが、引き込まれるような眠気に抗うことができずに恐怖を感じながらも眠りについた。
少し経って私は天井を見つめていた。
よく見慣れた自室の天井ー。
また目が覚めたんだ・・・。
最初はそう思ってぼんやりと天井を眺めていたが、視界に映る景色が次第に祖父母の家の寝室の天井に変わっていった。
これは・・・、夢?
あまりにも鮮明な景色のせいで混乱し、夢だと認識するのには時間がかかった。
薄暗い視界の中に板張りの天井が見え、その中央には四角い木の枠組みに和紙を張り付けた昔ながらのペンダントライトが吊り下げられていた。
そのライトには仄暗い灯りが灯っている。
天井の距離からすると布団に仰向けになっているような視点だった。
日が昇る前の夜明けを思わせる薄暗い部屋で、私の意識はただぼんやりと天井を見つめていた。
思考は靄がかかったかのようにぼんやりとしているのに、なぜか見える景色は現実のように鮮明で、気持ちがわけもなく高ぶっていた。
不意に照明の回りを周るように一匹の蛾が飛んでいることに私は気づいた。蛾はカクカクとした動きで照明の周りを止まることなく飛び続けている。
私は蛾が目に付くなりそれに吸い寄せられるような感覚に陥った。
それと共に「キーン。」という大きな耳鳴りのようなノイズと「ドン、ドン、ドン、ドン。」という機械音にも似た鼓動を大きくしたかのような音が頭の中で響いた。
不快感から耳元に手を伸ばそうとしたその時、身体が一切動かせないことに気づいた。
現実のように意識ははっきりとしているのに、夢から醒めることもできないし、身体は指一本動かない。
そのことに気づいて、ただひたすら恐怖を感じた。
私はこの良くわからない状況にひどく混乱する。
いつのまにか蛾も照明も消え、視界は真っ暗になっていた。
目は開いているつもりなのに辺りは黒い絵の具で塗りつぶされたかのような闇が広がっている。
今もなお耳を塞ぎたくなるようなノイズと騒音が響いているが、指一本動かすことができない身体ではどうすることもできなかった。
一生このままだったらどうしよう。
嫌な動悸がしてきて、息が苦しくなる。
身体が自分のものではないみたいで深呼吸すらできなかった。
誰か・・・。たすけて。
別の部屋で寝ている家族に助けを求めようとしたが、声も出ない。
呼吸がどんどんと浅く早くなっていく。
胸の上に誰かが乗っているみたいに苦しかった。
動けない中、頭がベッドからずれ落ちていくような感覚がして恐怖が加速していく。
パニックになりかける中、
おちつけ・・・、おちつけ・・・。
となんとか自分を落ち着かせた。
身体の力を抜くことだけに意識を向け、息を吸ったり吐いたりと浅い呼吸を繰り返した。
どれくらいたったのだろうか。
しばらくそうしているうちに身体のこわばりが解け、指先から少しづつ動くようになった。
視界も通常に戻り、薄暗い自室の天井が目に入る。
私はほっと胸を撫でおろし、ゆっくりと起き上がった。
初めての経験にいまだ興奮が冷めやらない。
ベッド脇のカーテンを開ける。
ちょうど日が昇るところで淡いオレンジ色の朝焼けが奇麗だった。
窓を細く開け、外の空気を取り入れる。
こうして今日もまた、たわいのない1日が始まる。
↑2、3年前の夏の日に経験した金縛り体験。
当時、書き留めておいたものを投稿してみました。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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