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2万字弱ノンフィクション小説新『雨宿り』原因不明の症状と少年の苦悩 

※以前連載していた小説『雨宿り』の構成を大幅に変更し、新しい場面を多数盛り込みました。

 ー作品紹介 あらすじー

幼い頃から続く吐き気や倦怠感といった原因不明の体調不良。

彼を苦しめる病とは一体何なのか。
それともただの甘えなのか?

頑張る事や生きることに疲れた人、周囲の理解を得られない人、孤独感に苛まれる人ー。
そんな、悩める全ての人に送る私の経験を元にしたお話しです。






〜本編スタート〜

第1章 死の恐怖


「キーンコンカーンコーン。」
「うっ・・・。」
始業のチャイムが鳴った途端、強い嘔気が僕を襲った。反射的に口元を強く押さえ、込み上げてきたものを飲み下す。
僕の嗚咽はチャイムと始業の挨拶にかき消されたので、周りにバレなかったのが幸いだった。
ほっとしたのも束の間、椅子に座るなり今度は急に胸を内側から殴打されるような激しい動悸に襲われた。
動悸が激しくなるとともにまた強い嘔気を感じ、吐きそうになるのを歯を食いしばって耐える。

まただ。

訳も無く強い不安に襲われた後に起こるこの症状。
椅子に座ってじっとしていることも苦痛なほどの不安感と焦燥感。
僅かに動くことさえ憚られるような強い吐き気。
幼少期から高校生の今まで断続的に続いているお決まりの症状だ。
少しでも動いたり顎を緩めたりしたら、すぐに辺りは吐瀉物まみれになる事だろう。
その光景を想像してしまいさっと血の気が引いた。
背中が冷たい汗でぐっしょりと濡れる。
「どっどっどっどっどっ・・・。」
心臓の音がやたら耳に響いてうるさかった。
胃が腐っていくようなあまりにもひどい吐き気に耐えかねた僕は周囲にばれぬよう腕の内側を思い切りつねった。
鈍く痺れるような痛みが走った。
それでも吐き気は治らない。
「うぐっ。」
吐きそうになり今度は唇を噛み締めた。
予想外のことに口腔内に生臭い味と臭いが広がり吐き気がより強くなった。
強い嘔気に自然と目に涙が滲む。
全身の毛穴から多量の冷たい汗が吹き出す。
 歴史の教科担任のいつもはうるさく感じる声が、今日はやたらと遠くに聞こえる。

どうしよう。

僕は制服の裾をぎゅっと握りしめる。
この状況でどうやって保健室に行けばいいんだ。話そうとしたり、少しでも動いたりすれば嘔吐する予感があった。
僕は人前で嘔吐するという恐怖に震える。
シャープペンを持つ僕の手がガクガクと震えるのを隣の席の女子は見てみぬふりをした。
僕は痛みを感じるほどに喉に力を込めひたすらに耐えた。
目だけをそっと動かし教室の丸い掛け時計を見る。
授業はまだ始まったばかりだ。
休み時間まであと48分もある。
先生に申告する余裕はない。どうにか抜け出して一刻も早くトイレに駆け込みたい。
僕は椅子から数ミリ腰を浮かせた途端、2、3度えずいた。
よりいっそう血の気が引き、一瞬目の前が白んだが幸い嘔吐することは無かった。先生の大きな声に掻き消された為、大勢の視線に晒されることもなかったが、近くの席の3、4人がこちらをちらちらと見ている。
僕は羞恥心でかっと顔が熱くなった。両膝の上で拳をぎゅっと握りしめる。
机の上に開かれた教科書とノートの文字がやたらと鮮明に僕の網膜に映った。
「どっどっどっどっどっどっ・・・。」
心臓の鼓動が今までにないくらい早く大きく耳に響く。
「・・・い、・・・らい。」
先生が何か言っているがもう耳に入らない。
僕は肩で息をする。

もう、だめだ・・・。誰か・・・。


(※ご購入を考えている方へ 未完結です。)



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