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ホロヴィッツが逮捕!?〜『ナイフをひねれば』(ホロヴィッツ著、ホーソーンシリーズ第4作)を読んで

毎回新作が楽しみなホロヴィッツ。最近は忙しくて出ていることにも気が付かなかったが、今回も抜群の安定感で楽しませていただいた。

本の基礎情報

タイトル: ナイフをひねれば
発刊年: 2022年
著者: アンソニー・ホロヴィッツ
1955年生まれ、ロンドン出身でイギリスを代表するミステリー作家。アレックス・ライダーシリーズ、ホーソーン&ホロヴィッツシリーズの他、コナン・ドイル遺産管理団体公認のシャーロック・ホームズシリーズ、ドラマ脚本の執筆、舞台作品なども手がける。

概要

自作の戯曲『マインドゲーム』を披露するホロヴィッツ。そこに現れて散々毒舌を浴びせた劇評家ハリエット・スロスビーが翌日ナイフで刺殺された。凶器はホロヴィッツが貰った短剣で、彼は容疑者として逮捕される。
彼の話を聞いたホーソーンは、重い腰を上げて、階下のハッカーに警察システムをハッキングさせて一時的に麻痺させる。その48時間の間に釈放中のホロヴィッツと共に真犯人を捕まえるために聞き込み調査を敢行する。

個人的な感想

ホーソーンのせいで何かと酷い目に遭うワトスンポジションのホロヴィッツであるが、今回は殺人の罪を着せられ逮捕されてしまい、そこで重い腰を挙げるホーソーンがヒーロー役。構図自体は至って王道なのだが、二人のキャラだからこそ面白い。

もっとも、最悪のタイミングで再登場するグランショー警部はホーソーンのせいでホロヴィッツの天敵になったので、彼は不条理の一因にはなっていると言える。ホロヴィッツを犯人ではないとしつつ微塵も褒めていない点がホーソーンらしいところだ。

今回は絶体絶命の窮地でホーソーンに匿ってもらうのだが、そこで浮上する彼の新たな一面が読者を惹きつける。こんな状況下で好奇心を燃やせるホロヴィッツがフィクションっぽい気もするが、この程度のあざとさは著者にとっては強みの類だろう。表題の比喩的な意味を切に感じさせるくだりだ。

今回の被害者スロスビーも誰に殺されていても不思議ではない憎まれ役なのだが、犯人像に対しても深々と掘り下げられているので、動機の面では説得力のある内容に仕上がっている。その反面、著者は犯人の"子供っぽさ"に頼り過ぎたきらいがある。

つまり、決定的な物証を挙げずに犯人を自白させるという強引な落とし方のことだ。ここは読者の間でも賛否分かれそう。また、その糸口となる学校が登場するのだが、訪問した会計士の話もうやむやな印象。ファンレターまで自虐ネタに走らなくても・・・。

全体としては伏線回収のカタルシスは豊富だし、入館と退館の時刻ひとつとっても、その先は予測しがたい緻密なストーリーがあったり、ホーソーンのふてぶてしい人物描写も巧くて終始退屈させない。

同時代人としての社会問題(少年犯罪、同性愛、メディア報道等)を浮上させつつ、そこに無理に寄せることなく、あくまでサスペンスとしての余韻、そしてホロヴィッツとホーソーンの腐れ縁を打ち出しながら幕を引くところが潔くて好感を持った。スロスビーの性悪な印象だけが最後まで覆らない点に、著者の風刺精神は暗黙の形で集中しているのかも。

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最後まで読んでいただきありがとうございました。

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