見出し画像

畠中恵著『とるとだす(しゃばけシリーズ第16作)』を読んで

今回はかなりアクティヴで、活力と機知に富んだ作品でした。



本の情報


著者: 畠中恵
タイトル: とるとだす
発刊年: 2017年7月20日

概要

しゃばけシリーズ第16作。
一太郎のために薬種屋が持ってきた薬を次々服用して病床に倒れた藤兵衛。
一太郎たちは彼を救うために奔走する連作短編5篇。

個人的な感想

『とるとだす』

事件の発端を説明するプロローグを兼ねるが、文章量的に一編として成立している。大事な時に寝付いてしまう一太郎に対して、寛朝が「皆に上手く頼るすべを覚えるのだな」と返すくだりはあらゆるハンデ持ちへの著者の包容力を感じる。

『しんのいみ』

蜃気楼の中で目的な感情を次第に忘れ、見失っていくという設定は、メタファーの解釈次第では、前章に引き続き資本主義社会を切っているなと感じる。五助と六助はどうなったのか、あえて書かない点もまた蜃気楼的といったところか。ファンタジーの常套的な落とし方。

『ばけねこつき』

突如縁談を持ちかけてきた染物屋の番頭。そこから金次や場久が"お節介"を食らう場面が読者を笑いへ誘う。しかし、浩助のキャリアの頓挫はある年齢層が読めば身につまされるかも。「この歳になったとき、ここまで何もないとは、思いもしませんでしたよ」—そりゃあ、何も起こさなければ何もないだろう。こんな彼に再生の機会を与えるオチに人(妖?)情味がある。

『長崎屋の主が死んだ』

断定形のタイトルはあざといまでのインパクト重視。稀代の強敵・狂骨の急襲がサイコホラーテイストを打ち出す。彼の動機は痛々しいほどに責任転嫁の域を出ない、この歪んだ怒りは生真面目を美徳とする僧侶生活の裏返しでもある。なお、鳴家を使うオチは読者サービスだろう。護符の細かい設定はわからないが。

『ふろうふし』

不老不死の薬をめぐり神仙の国で、またしても恋愛絡みの騒動が持ち上がる。あくまで藤兵衛が普通に死ねる薬を前提的に要求しておく点が、長崎屋一行と島子とのコントラストを引き締めている。因みに、女性の名前の末端に「子」が定着のは明治後半以降であって、このような先入観は当時にはない。→ ソースはこちら

総括

今回は設定上、いつになくアクティブで、知略をめぐらして身体を張る一太郎の成長が描かれた力感のある作品に仕上がった。また、変転の入れ方も洗練されており、スピーディに読ませる作風と言える。

マンネリズムが進行すると共に現代社会層に寄せる構図が浮上していているように感じるが、あくまで作品の世界観を壊さない程度にとどめる按配はこれからも大切にして欲しい。

関連リソース

書籍購入用リンク
新潮社
Amazon
絵本ナビ

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,568件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?