リンダ・グラットン / アンドリュー・スコット著『ライフ・シフト』を読んで
今回は人生100年時代の人生戦略を考察した名著『ライフ・シフト』を紹介します。
本の情報
タイトル: 『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』
出版年: 2013年
著者について
リンダ・グラットン: ロンドン・ビジネススクール教授。人材論・組織論のエキスパートであり、経営思想家の世界的権威。
アンドリュー・スコット: ロンドン・ビジネススクール経済学教授。CEPRのフェローも務める。
概要
長寿化の恩恵に最大限浴するには、どうすれば良いのか?
厄災ではなく恩恵にできる可能性について、主に資産・ライフステージの概念の変化や選択肢の多様化の観点から論じる。
キーポイント
AIやテクノロジーの進化に伴い「人間にしかできないこと」、即ちイノベーションが今後重視されるようになっていく。
本書の焦点は、所得や貯蓄といったお金には換算できない「無形資産」にある。
ここでは無形資産を三つに大別している。
1.生産性資産
所得を増やすスキルや知識のこと。
中スキルの雇用空洞化により、高スキル志向が高まると予測。高度な直観的判断、対人関係、チームのモチベーションの向上、そして意思決定に関わるスキルなどが要になる。これには周囲との社会的関係が響いてくる。
2.活力資産
肉体的・精神的な健康のこと。
著者らは低脂肪食、野菜や果物やオメガ3脂肪酸の多い魚食を推奨。
頭脳を使うエクササイズや、バランスの取れた生活習慣も重要。
3.変身資産
多くの変化に対する開かれた姿勢、即ち人生の途中で変化と新しいステージへの移行を成功させる意思と能力のこと。
深い内省に基づく自己理解は、継続性と因果関係の要素を形づくる上で重要となる。
100年人生を謳歌するには、以上の無形資産への度重なる投資を行い、自己をリ・クリエーションしなければならない。
教育→仕事→引退の現在の一般的なライフステージ進行は、4ないし5段階のマルチステージへと拡張する。
選択肢の多様化により、家族・人間関係のあり方も大きな変化が予想される。
個人的な感想
反復が非常に多く、分厚さの割に議論の進みが鈍かった。
長寿化に関しての、科学的・遺伝子学的な裏付けはあまり盤石ではない。
本書で示される100年人生戦略は、健康やバイタリティの若々しさの点において殆ど隙がない、つまり寿命延長がそのまま健康寿命延長につながる前提で練られている。
エクスプローラー期を30歳まで長々と続けることは本当に効果的か?
そのためにどれだけ貯蓄面でリスクが伴うか。
むしろ内省はある程度でケリをつけて、とっとと社会に出てガンガン失敗したり他者理解の壁に体当たりして臨機応変に軌道修正する方が、流動的な人間の性質にあっているのではないか?
特に女性は妊娠できる年齢も絡むので注意が必要だ。
懐状況や結婚&出産のスパン次第では離婚も厳しくなる。
そして60歳、70歳になってもキャリアパスを活かせる適応力はどれだけ残るだろうか。
自己効力感と自己主体感を保持する老い方はサラッと言えるほどに容易なのか。
自分にはジェーン(100年人生モデル)のイメージに違和感を感じた。
この辺りの詰めは「2」に期待したい。
映画『海の上のピアニスト』ほど極端でないにせよ、人間は過度に多くの選択肢を出されるとかえって疲労し自身を見失うことはままあると思う。
最後に
感想には批判的なことを書きましたが、テクノロジー進化と人間の長寿化が抱えている問題は多角的に示唆されています。
自分についての知識、スキルと教育、移行を成功させるための資金、雇用主との交渉力など、これからのリ・クリエーション(自己の再創造)に関するインスピレーションを与えてくれる本だと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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