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日記:ビジネスにゃんこ

 猫カフェに一度行ったことがある。
 その時の話をしようと思う。

 私の親戚は、10年以上前から猫を飼っていた。
 その影響からか、私は物心ついた頃から猫の扱いがそれなりに上手であった。そうであると思っている。

 そのため友達に「猫カフェに行こう」と言われたときには、(カフェ内の猫を全部手懐けてやるぜぐへへ)という汚い心を隠して「行こう!」と二つ返事で承諾し、我々は猫カフェに向かうことになった。

 その猫カフェは大型ショッピングモールの中に入っており、確か時間制でお金を払うといったシステムだった。
 一杯のドリンクと猫に与えるおやつが入ったガチャガチャのカプセルを両手に持った私たち二人は、受付の店員さんの説明を聞いた後、その猫たちのいる空間に放たれた。

 猫のいる空間には、大きいクッションや座椅子などが適当な感覚で置かれており、人間の飲み物を置くようなドリンクホルダーも同じく適当な感覚に置かれていた。中央には天井まで続くキャットタワーがあり、四方の壁には等間隔に置かれた棚のようなキャットウォークが張り巡らされていた。
 それなりに広い空間を、私の肩くらいしかない高さの壁がその空間を迷路のように区切っており、私たちはそのうちの一区画を陣取って、ドリンクを置いた。
 扉のないネットカフェみたいに空間を区切っているこの壁は、おそらく私たちが他の客と顔を合わせずに済むようにしているという目的で建てられているのだろうが、その壁の上を猫たちが渡っていることから、猫にも配慮した空間づくりになっているのだろうと今振り返って考えみたりする。

 さあそして肝心の猫様なのだが、それはそれはたくさんいた。10匹はゆうに超えていたのではないだろうか。
 壁面にはその猫の名前や写真、正確などが大雑把に書かれてあるプロフィールシートのようなものが貼られており、私たちははじめその紙を見ながら、自分好みの猫を探していた。

 その中でも私は真っ白いマンチカンの「おもち」に心を奪われ、早速空間内を歩き回っておもちを探した。

 おもちは猫用のベットにぶてんと寝転んでいた。
 私は、猫は目を合わせたりいきなりこちらから近づいたりすると逃げるということを知っていたため、高い声で「おもち~」と名前を呼びながら目は合わせず、軽く曲げた人差し指をゆっくりとおもちの鼻のあたりに近づけて接触を図った。

 しかしおもちは微動だにしなかった。どころか、(、、、んだよ。またニンゲンかよ)とでも思っていそうな、だるさの中に鋭さを持った目をしたまま、私のこの猫接触作戦を見下すように眺めていた。

 その目をおもちに向けられ、初めて猫に負けてるんだなあ俺は、、、とその時私は1つの悲しさを覚えた。
 前述したように、私は今まで親戚の猫とたくさん遊んできた。その親戚に会う頻度こそそんなに多くはないものの、それでも私は猫に舐められるという経験をしたことがなかった。というか普通、しなくないか?

 また、おもちのその冷たい反応は、近所にいる野良猫のヨシダとも全く違っていた。
 私はこの猫接触作戦を野良猫のヨシダに幾度となく試していた。結論から言うと、この作戦でヨシダに触ることは今までできたことはないが、ジリジリと近づいてくる私から逃げるヨシダは、野生を生きる動物の持つ危機察知能力を十分に活かした緊張の目をしていた。

 その点、おもちの冷ややかな目には、100%の安心を孕んでいたのだ。それがニンゲンより上であるという余裕をもたらしたのだろう。このとき私は猫カフェに来たことを少し後悔した。

 それでも見るからにモフモフのおもちに触りたかったので、額の方から背中の骨をなぞるように優しくおもちを撫でた。
 親戚の猫はこうやって撫でられると目を細めて本当に気持ちよさそうにするのだ。そうして床にゴロンと転がり、喉をゴロゴロ鳴らして甘えてくるのがとても可愛らしい。

 しかし、おもちも気持ちよさそうにしてくれるかなぁ、、、という私の期待は大きくハズレた。この猫、表情の一つも変えやしないのだ!!
 はじめから私という存在がなかったかのように、おもちの表情と立ち振舞は私が初めておもちを見たときと全く変わることがなかった。

「あれ、おもちさん?、、、おもちさーん?」
 もちろん私の呼びかける声に反応する様子もない。そのくせ間違って尻尾の方を触ってしまっただけ嫌そうな顔をするおもち。、、、何だこの猫!!ふてぶてしい!!

 こんな反応をする猫はどうやらおもちだけではなかった。
 他のどの猫もたしかにかわいいし、一切の警戒心をこっちに向けずに好きなだけ触らせてくれるのだが、どの猫からも一様に温かみというものが感じられなかった。

 声をかけても見向きもしてくれず、まるでニンゲンがいないかのように触らせてくれる猫、、、まぁ、それはそれで可愛いから良いんだけどねぇ!!!

 そのくせおやつの入ったカプセルを開けた瞬間に、近くにいる数匹の猫が一気にこちらに群がってくる。私はカプセルを落とさないように腕を伸ばして目の前の猫からおやつを遠ざけようとしたら、今度は私の肩に登って腕を伝って来るではないか!?!?!?
 これには私も驚きを隠せなかった。私がどんな姿勢になっても私の肩に乗った猫たちはびくともしなかったのだ。
 何たる体幹、何たる精神力。

 これがビジネスにゃんこなのか、、、。猫も大変なんだろうと私は思ったと同時に、余計に親戚の猫に会いたくなった。

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