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散文 ここにあるのは

真っ暗になる。
視界から色が無くなる。
音が大きく鳴り響き、私の中を揺らす。
どくどくと脈が打つのがわかる。
その時、舞台の上に明かりが存在した。
彼らは天使だ。彼の歌声が私を包み、透き通る。あの人が出した音が私の身体を震わせる。
彼らは天使だ。だから4人組なのだ。
この場所に降臨しては、人々を浄化する。
私の両隣に空いた席はきっと、誰かが座っている。この満席の会場を埋める椅子の半分は空席。
そこには、きっと、何かが座っている。
座っているものは、彼らの歌を聴いてあるべき場所に戻る。
生きている私たちはまだその場所には戻ることは出来ないだろうけれど、私は少し透明に戻れた気がする。
歌い続けてくれることに感謝する。彼らがそこにいることは、奇跡でしかなくて、その場で歌う彼の感覚を私は得ることが出来ない。それが寂しくて、でも、それでこそ、彼らの奇跡なのだ。
色が生まれる。
黒。黒。
黒が広がり、そこに青が注ぎ込まれる。
ここはきっと、海の中。深く、深く、でもまだ地にはつかない場所を揺蕩っている。
空を掴むしか出来ないのに、何故か心地がいい。
私たちは、彼らによって深海で息をさせてもらっている。
ああ、ああ。
焦燥感に駆られるようで、早く終わって欲しく思う。
でも、永遠に続いて欲しい。
この心地よい環境は、私には長くは居られない。
居られないのだけれど、ここに居たい。
あの人たちのそばに、居たかった。
夢から覚め、外気にあたる。ここは私の居場所の延長線なのだった。

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