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レトリックの練習① 比喩にまみれて

電車は人を吐くガマガエルと成り果てた。真昼の猫の腹の中で眠りにつきそうな長髪の君は、スマホを眺める。来るはずのない電車を知らせる電光掲示板は僕の瞬きよりも早く泥水を啜るペガサスのように点滅していた。
こんなことになるのなら、もっとご飯を食べておけばよかった。靴底が早く布団に連れてけと叫ぶけれど、僕は無視をし続ける。爪は光ることなく、血管を潰す。
何かを食べたいと虚無に包まれた学生のようなカバンの中を、がさごそと若気の至りで掻き回す。
対面に座る誰かのスマホカバーは老害だと罵られてもなお政治家の席にすがりついていた人間の血のような青だった。
窓から見える世界は地の果てまで続いている。全ての地球が見えているとすら思えてしまうほどの夕陽はただ赤くなりきれずに沈んでゆく。
彼女は暗いトンネルで何も身に纏わず踊り狂っているようなものだ。桜の木が夜中に笑い出すように、彼女も僕を見ると僕に赤を見せつける。

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