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散文 不滅にいられない君たちに

夜の霞を食べて生きた。
どれだけ遠くまで歩いても、いつまでもここに居るの、と君は言う。
ああ僕にこの人は守ることが出来ない。
その確信は胸の中にしまってある。
遠い日に貰った手紙はもうくしゃくしゃで、星のように複雑だ。言葉を大切にしていられるのはあの子がいてくれたからなのに、きっともうその事を覚えていてくれないだろう。
お花がきれいね、と言う。
水がきれいね、と言う。
月がきれいね、と言う。
君の世界は美しいもので溢れているのだと思った。だけどそれは、汚いものが溢れていると知っているからこそ、美しさに固執しているのだと気付いた。その時にはもう遅かった。

雨だろうと雹だろうと、僕はあいつの名前を呼ぶ。
動かない体のことなど気にしない。
自分の心こそが僕なのだから。

夜はどこまでも広がっているわけじゃないと知った。
空が青く白く赤く黒く僕を包むのは、愛を教えて欲しいからなんだと聞いた。
もうあの人はいない。

水の流れに足をつけ、僕はまた君を思い出す。僕の中に僕はいる。
君の中にも君はいたのかな。
君のことなどもう誰も覚えていない。

ドレスを翻して野原を駆け抜けるとき、君は全てから解放されたと思っていた。
まだまだこれからも新しい鎖が君を縛るということをあの時間君は知らないふりをした。
縛られ続けた体からも開放された君はもうなにも縛られない。

ああ、僕はまだここにいる。
全てのものが過去になっても、僕はずっと世界を感じている。
でも、それをどう思えばいいかもう分からない。
分からないけど止まれない。
止まることすら許されない。
許されずとも僕は笑うのか。

ああ、今日の空は僕を包むのをやめたのか。

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