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【17日目】日常は非常事態で仲間すらゾンビになったとして生きる

やりたいことはいくつもあった。
叶えたい夢はたくさんあった。

それは別に特別なことじゃない。

ただ、サークルを作って友達と活動したい。

それだけだった。
そのために大学入学が決まった時からSNSで繋がりを作って、
同級生で同じ志を持つ人を見つけて、
活動方針も出す。

わたしは、不登校だった。
だからこそ、大学生として不登校たちと関われる空間が作りたかった。
舞台もやりたいねって言っていた。
コアメンバーは5人。参加希望者は20人はいた。
不登校の人が行ける文化祭みたいな空間を作る。
外にも世界があると伝えれるようにしたい。
傲慢ではあるけれど、そう思っていた。

わたしの人生を書いていて、「試練すぎる」と言われることもあるけれど、
わたしなんて大したことなかったと思うほど、
みんな苦しんで、それでも生きて、大学生になった。

一緒に代表をする友達は、父親からの虐待を受け続け、
精神科病院に強制入院をさせられていたそうだ。
今では元気そうであったが、いろんな痛みの痕跡が見られた。
自殺を何度も繰り返したそうだ。
それでも、生きている。
生きていく希望を芸術で見つけた。

他の子も、高校時代にいじめを受けて精神科に通っていたり、と
傷ついた過去がある。
だからこそ、何かをしたかった。
それぞれが結構強い意志を持っていた。

わたしなんて、恵まれていたものだと思った。
精神科に通わなきゃいけないほど、追い込まれることもなかった。
ちゃんと逃げることを許してもらえたし、自由があった。
それでも、不登校であることを昇華しきれていなかった。

きっとみんな、過去を昇華するために
活動がしたかったんだと思う。
何か生きていた痕跡を残すために、わたしたちは大学生にまでなったんだ。

大学生になれば、きっといろんなことができる。
挑戦も冒険もできる。

ちゃんと進んでいた。

でも、一瞬で崩れた。

そのニュースはじんわりと広がっていった。

「コロナ」

コロナ?
なにそれ?
クルーズ船だけの話?

違うの?
え?
え?

かかると死ぬ?
なに?
家にいなきゃいけない?
外に出たら死ぬかも?

自粛警察?

緊急事態宣言?

きっと、どんな人もコロナで人生が一変したことだろう。
日常が奪われ、死がすぐ近くにある実感が出てきた。

2020年3月中旬、わたしは高校を卒業した。
やるかどうかも微妙だった。
それでもわたしの高校はギリギリ開催された。

朝、登校すると生徒指導の先生が校門に立っていた。
「はい、おめでとう。マスクと消毒お願いします」
厳しいその人の顔にも白いマスクがある。
わたしの顔にも、母の顔にも、すれ違う人の顔にもあって、
まだ違和感があった。

教室に入ると「卒業旅行を辞めた」「行ったー」との会話が起きている。

卒業式の会場に入場する人々の顔にも
からなずマスクがついていて、笑っているのか緊張しているのかどうかもわからない。

まだ見慣れぬ、白いマスクの群衆。
歪な空間。
それも貴重だと思った。
面白いことになったと思った。
それと同時に、恐怖が迫り寄ってきている実感もあった。

もうすぐ入学だというドキドキは、緊急事態宣言の予期により潰されていた。

引っ越してくる予定の同期たちは、引っ越し時期を延長した。
「しばらくは実家にいるよ」
「大阪には引越し契約だけしに行かなきゃいけない」
「これから何ヶ月かの家賃無駄になるわ」
皆が不安を漏らしている。
Twitterでは、繋がりたいタグが大きく流行っていく。
少しでも多くの人とつながらないと、置いてけぼりにされるのではないか。
情報を仕入れられないのではないか。

孤独という病は同時に蔓延していく。

サークルのメンバーもバラバラで、連絡もできなくなっていく。
進めることも少なくて、
そもそも、活動なんてしていたら不謹慎だと言われたから。
人間としての義務を果たしていないように扱われるのが怖くて、
身動きが取れなくなっていった。

だめだ、誰もいない。
だめだ、わたしたちはなにもできない。

許されない。

許されないんだと感じていた。
空気として、自粛をしないことに対する断罪が広がっていき、
吸うだけで息がつまる。

彼らとは、もう連絡ができなかった。

なにもできないという絶望感を拭うことなんて、できなかった。

それでも、何かをする人がすごい人なんだって思う。
でも、あの絶望感に耐えられるだろうか?

入学式は当たり前のようになくなり、
授業開始はいつになるかわからない。
5月までは休みですが、その先もわからないです。

オンライン授業は繋がりが悪い。質が悪い。
あれだけ楽しみだった授業も、テキストだけになっていた。
自分で読んで、200文字程度のコメントを送るだけ。

全サークルは活動停止。
動いて感染でもしたら、晒しあげられ、退学の可能性もある。
文句を言うことも許されない。
だって、高校生の方が可哀想でしょ?
だって、小学生の方が辛いでしょ?

だから、大学生なんて自分で選んで言ってるだけなんだから黙っていろ。

うん、確かにそうだね。
うん、人生最大の青春がなくなるなんて可哀想。
うん、初めての学校がマスク必須の黙食の日々なんて辛すぎる。

わかる、わかる。

勉強できるだけマシだよ、と思います。

2年間、オンライン授業だった。
人にはほとんど会わない毎日だった。

やりたかったサークルは全くできないままで、
彼らが今どうしているかはもうわからない。
お互い多分、諦めたという苦しさから、他人よりもっと他人になってしまった。

生きていたらいいと思う。
死んでるかもしれないという不安もよぎる。

わたしたちは何の罪があったのだろう。
やりたかったことと向き合えず、なかったことにしてしまった。

やりたいことなんかなかったってことにしたから。
自分が逃げたってことが辛かったから。
頑張れなかった自分が悪だと思ってしまうから。

でも、本当はその一つ一つが大事だった。
本当にやりたいことだったはずだった。

置き去りにされたその感情たちは、いまだに大学生にもなれずに泣いている。
孤独病にかかったまま、もう動けない。

だからこそ、わたしは歯車を動かすために別の部分で動き続ける。
まだその子は動けないままだけど、いつかは錆が取れるだろう。

いつかは。

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