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散文 真っ赤な構内アナウンス

JRの窓の曇りは私を不快にさせる。本来なら美しいはずの空の色も、定期的に訪れる激しい警戒色の踏切だって、全部が霞む。全て薄汚れたものに思えてしまう。満開に咲き誇るハナミズキに対して、私は心を動かされるどころか色を認識するのが限界だった。
アルコールの匂いが私の鼻をかすめた。いや、もっと強烈に、頭が痛くなるほどのそれは私のことを気にかけることなどない。不愉快だ。
電車が停車し、横に現れた「ひらくドアにごちゅうい」の文字にもバカにされているように思った。人生上手いこと行かないものだ。そんなこと知ってても、不快感を飼い慣らすことは出来ない。
広い公園で遊びたかった。
何も考えず、その場で知り合った子とその場のノリで鬼ごっこがしたかった。
限界までブランコを漕いで、無重力のようなふわっと浮いた時間を、ハラハラを、楽しみたかった。
あの時間はもう戻らない。
みんなカッコつけて、タバコを燻らし虚無に金を注ぐ。私とあの有意義で無駄な時間を過ごしてくれる人なんてどこにもいない。
鉄棒から落ちたあの日、私は恐怖よりも痛みよりも驚きを感じたはずだ。なのに、いつの間にか痛みを恐怖し、恐怖を避けるための日々を過ごすようになってしまった。最後に驚きを感じたのは何時だったか。
苦しい。
私の耳に囁いてくれる歌手は、薬物で捕まってしまった。世界の苦しみから逃げるための行動こそが、罪となる。彼は一体どんな世界を見ていたのだろう。私が見ているものと同じように虚無を感じてしまったのかな。
体を都会から都会へと運んでくれるこの箱は、同調圧力を起こす一歩手前だ。
いや、もう、完成してしまっているのかもしれない。でも、私たちはその意思なき意志に気づくことが出来ない。
大阪駅は今日も忙しなく、人を包み込む。高すぎるビル群の中で、みな孤独を感じていた。

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