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散文 街頭は無数に

僕はマンションの前にいた。大量に同じドアが並ぶ。僕よりは当然大きくて、スカイツリーよりは圧倒的に小さい。まあリアルで見た事は無いのだけれど。
でも、僕の中ではこのマンションの方が存在感を放っている。
目の前のマンションにはなんの思い入れもない。ただただ、多くの人間が住む家が積んであるだけの建物。きっと、ファミリー向けの間取りになってたりするのだろう。
僕は何故か、恐怖を感じる。
僕にとってはなんの思入れのないものが、誰かにとっては見慣れたもので、そこにノスタルジーを感じるものなのだ。いつかこのマンションの一室は、誰かの実家となる。
もしくは、昔ここに住んでたんだ、子供の頃、この近くの公園でよく遊んでたよ、なんて会話を引き出す存在であるのだ。
僕はその建物にそんな情愛を感じることが出来ない。出来ないのに、僕の知らない誰かはこの建物を懐かしいと思うことができる。
それが僕にとっては恐怖として心のどこかに居座り続ける。
僕は、僕の知る世界しか知らない。
そして、僕は僕の知る世界以外の世界はないものだと思っている。その場所は存在しない。どれだけ思い浮かべようとしても、彼らは存在しない。
彼らは存在しないのだ。

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