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散文 テストなんてくそくらえだろ?

テスト会場はどこまでも静かでうるさかった。いつもは音で溢れる教室が、借りてきた猫みたいに、おすまししたとかげみたいに知らないものとなる。
今ここで私が暴れたらきっともっと別の空気が流れてくれるだろう。
1時間目のテスト監督はあいつだった。紫色のシャツを着た数学教諭。頭がいいのにこんな学校でルートを1から教えてる眼鏡だ。喋りやすいからみんなとよく喋るけど、どこか少し嫌われている。何故か近くにいるとゾワゾワした。
教室は私たちのものじゃない。この机も椅子も他人のものだ。ずっと昔から使われているからそれらは私たちなんて所有者と思うわけがないだろう。
生き生きとした顔で文章を書く同級生は、今日ばっかりは覇気がない。
馬鹿みたいな空間だ。同じ方向を向いて、同じテストを行っている。隣の教室も、その隣の教室も。
マスクの中で私は1人でこらえきれずに笑った。そして止めるために息すらも止めた。
その時どこかで別の笑い声が聞こえた。
みんながそわそわとし始めた。私が気づいたものにみんなが気づき始めた。
「先生これ間違ってる!」
そう叫んだ彼女の声で、私は息が吸えた。
天使が通った。
ガヤガヤとした教室が一瞬だけ鎮まったからそう思った。世界は止まり、また破裂した。
天使はなんのためにこの部屋にやってきてくれたのだろう。私の思考を鈍らせるその空気を吸い取ってまた天国に行ったのか。
笑わないでももう大丈夫。
誰も私のことなど気にしていない。
開放された気がした。それだけで良かった。
チャイムの鳴る音と同時に立ち上がる人々で校舎が揺れる。静かに帰れと言われるけど、私たちはつかの間の快楽を得て、舞うように帰った。電車の中で教科書を開いてみるが、自分がこの時間にこの場所にいることの優越感に浸るほうが大事で何も覚えられなかった。
誰もいない部屋の中で、私は半袖半パンになり布団にダイブした。自分の体は自分のものじゃない。だから何をしてもいいじゃないか。こんなもの覚えなくたっていいじゃないか。そう叫んでみて、私は眠りにつく。起きたら頑張って覚える、そう思う。

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