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『ズールー戦争』 マイケル・ケインの名を高めた記念すべき初主演(級)映画

1964年に公開され、俳優マイケル・ケインの知名度を一気に高めた作品『ズールー戦争』を観た。1879年に起こったズールー戦争の中でも、砦に立て篭もった150名ほどの英国軍がズールー軍3000人による猛攻をなんとかしのいだ「ロルクズ・ドリフトの戦い」を描いている。

すでにテレビドラマや舞台では出演歴のあったケインだが、映画作品で主演級の役を演じるのはこれが初。もともとは端役を演じる予定だったものの、持ち前の長身、金髪、整った顔立ちが監督の目に止まり、ブロムヘッドという上流階級出身の将校を演じることとなった。

実際の戦闘から85年目にあたる1964年1月22日にプレミア上映が行われた

ケインは後にこのキャスティングについて「監督がアメリカ人だから(イギリスに根付いた階級社会について深く理解していないため)実現したのであって、これがイギリス人監督だったら絶対に無理だった」と述懐している。そんなわけでケインは、持ち前のコックニーなまりを封印してブロムヘッド役に臨んでいるわけだが、聞くひとが聞くと(例えば上流階級の人が聞くと)イントネーションに僅かながら違和感を覚えるところもあるのだそうだ。ただし僕が観た限りでも演技そのものは素晴らしく、ドラマ部分では上流階級特有の涼しげで知的な表情を浮かべ、それが戦闘シーンになると泥だらけで髪を振り乱しながら砦を守ろうとするギャップが非常に観る者を惹きつけてやまない。

ちなみにこの映画の出演をめぐっては、マイケル・ケインの親友で、当時すでに人気のあったテレンス・スタンプもオーディションを受けたとのこと。ケインはその時の演技がボロボロだったというが、結果的にそのケインが将来性を見込まれ起用されるに至り、映画会社側が強く推していたとされるスタンプは出演が叶わなかった。人生何がどう転ぶかわからないものである。

また、本作におけるズールー軍の戦い方には驚きがいっぱいだった。劇中、ケインは「はて、どこからか列車の音が聞こえる」と首を傾げる。鉄道の敷かれていないこの地に列車が走っているわけがない。地響きのように聞こえる音は、すべてズールー軍の兵士たちが武器を打ち鳴らして生じているもの。まだ応戦準備が整っていない中、大軍はすでにその地に到着し、切り立った崖の上から孤立無縁の砦を見下ろしている。そしてさささっと風に草木がなびくかのように数百人が陣形を移動させ、瞬く間に攻め入ってくるのだ。

ズールー軍の攻撃は盾と槍だけかと思いきや、先の戦いでイギリス兵士から奪った銃器を数多く駆使して攻めてくる。そうやって右から撃ってきたかと思えば、左からは肉弾戦で突入し、その繰り返してもう砦はおおわらわ。しかしこの後、イギリス軍はなんとかこの猛攻を食い止めて砦の陥落を免れるのだ。奇跡とはまさにこのことである。

『ズールー戦争』は、BFIがアンケート集計した20世紀における最も優れたイギリス映画ランキングの31位に位置付けている。

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