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『デイズ・オブ・サンダー』 ドラマ部分は高品質とは言えないものの、トム映画として見逃せないポイントがいっぱい

それほど高い評価を受けていなくとも、見過ごすことのできない作品ってたくさんある。例えば、最近見たもので言うと、トム・クルーズの1990年主演作『デイズ・オブ・サンダー』は私の中でその筆頭に躍り出る映画だった。

タイトルからして、なんとも80年代、90年代を思わせるボリューム感。口にするだけで体感温度が2、3度増しそうだ。けれど、冒頭の数分間、明け方のサーキットの静寂から日中の怒涛の興奮へと移行していくセリフなしの映像詩は見ているだけでトニー・スコット監督の美的感覚の高さを伺わせる。これほどの情緒を持ち合わせてカーレース映画を展開できる監督は当時ほかにいなかったろう。

トム・クルーズ、ジェリー・ブラッカイマー(&ドン・シンプソン)、トニー・スコットと言えば、80年代『トップガン』で時代の頂点を極めたトリオだ。実はその後も「続編を作ろうぜ」という話が何度も持ち上がっていたらしいのだが、なかなか実現には至らず、その代わりのトムの持ち込み企画として、『トップガン』のカーレース版とも思しきこの映画にゴーサインが出されたのだそう。

ここでちょっと踏まえておきたいのは、そもそも『トップガン』の監督としてトニー・スコットが起用される決定打となったSAABのCMだ。

乗用車と戦闘機を「よーいどん!」で競わせるなんて、今考えても斬新な発想だ。

とにもかくにも、トニー・スコットはもともとこういった自動車メーカーのCMなども手掛けていた人ゆえ、いざ「カーレース映画を作ろうぜ!」となっても渋ったりしなかったはず。そして「激走」という部分で言うと、彼は遺作となった『アンストッパブル』に至るまで、常に何かの激走をひたすら骨太に撮り続けた人だった。

この『デイズ・オブ・サンダー』で興味深いのは、脚本にロバート・タウンと共に、トム・クルーズの名前も並んでいることだ。原案としていろいろ脚本家とアイディアを練り上げたということらしいのだが、他のどの作品を見ても彼がこれほど脚本にどっぷり携わったケースは稀と言えよう。

その結果、作品内では興味深い現象が起きている、まずはこの時期にトムがハマっていたカーレースの魅力が余すところなく凝縮されているのはもちろん(『ハスラー2』で共演したポール・ニューマンの影響だとか)。

加えて、整備士役のロバート・デュバルとの間に父と子にも似た厚い絆を結んでいく筋書きも特徴的だ。『トップガン』や『トップガン マーヴェリック』を見ても分かるとおり、トム・クルーズ作品には「父の不在」というテーマが濃厚に現れることがある。それはつまり、トムの少年時代に妻子を残して家を出た実父の投影ということでもあるのだろう(『デイズ・オブ・サンダー』の中では酒に酔っ払いながら「昔、親父に裏切られたんだ」と打ち明ける場面が描かれている)。

他にも、公開年に結婚することになるニコール・キッドマンがヒロイン役で出演していたり、はたまた近年では『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のヨンドゥ役でお馴染みのマイケル・ルーカーがトムのライバル役で登場しているのも面白い。二人はサーキットで激走したかと思えば、負傷して運ばれた先の病院の廊下でも競い合い、その後も「決着つけようぜ」とレンタカーを借りて激しくやりあったり。「喧嘩するほど仲がいい」を地でいく関係性が微笑ましい。

アクションとドラマに多少バラつきあるように感じるが、そんなことよりもこの作品はまさに情熱こそが全て。トム・クルーズのライフステージ的に見て、成功しようと失敗しようと、ただそこにひたすらやりたいことを全部詰め込んだ”経験”に大きな意味があった作品と言えるのではないだろうか。

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