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『事故物件 恐い間取り』感動したとこと惜しいとこ

 8月28日(金)公開の『事故物件 恐い間取り』を見た。お笑い芸人・松原タニシによるノンフィクション『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房)を基にしたホラー映画だ。

 主演はKAT-TUNの亀梨和也。メガホンは、『女優霊』や『リング』シリーズ、最近でいうと『スマホを落としただけなのに』の中田秀夫が取った。

 説明するまでもないが、日本の映画・ドラマ業界は、ホラーブームになりつつある。興行収入14億円超えの『犬鳴村』、Netflixの『呪怨:呪いの家』、中田も監督として参加する『恐怖新聞』、9月からはテレビ東京で『闇芝居(生)』も始まる。また、2021年には『犬鳴村』に続く“恐怖の村”シリーズとして『樹海村』も控えているなど、Jホラーがぐんと増え、また話題作として上がるようになった。

■『事故物件』の感動したところ

 ハリウッド映画なども入れてしまえば、飽和状態になりつつあるといっても過言ではないホラー業界で『事故物件 恐い間取り』は、何が凄いのか。

①霊に懲りない主人公

 ホラー映画は基本的に理不尽だ。やっと家を買ったと思ったら霊が先約だったり、血筋が呪われていたり、怪物が勝手に地球を侵略してきたり、ビデオ見たり歌を聞いたりしただけで祟られたり、ウイルスが暴れたり…。

 とにかく巻き込まれ型が多い。これは、“死”という抗えない運命に関係がある。“死”は、功績・富・生まれ・年齢など構いもせず、皆に平等に訪れる。平等だからこそ予告なくやってくる“死”は、いつも理不尽だ。だからこそ、死への恐怖を、予め安全が確約された映画館で追体験することで、わたしたちは安心を得る。これがホラーが好かれる要因の1つだ。

 しかし、亀梨演じる山野ヤマメは、これまでの物語とは違う。生きるために“死”を求めに行くのだ。売れない芸人のヤマメは、「事故物件に住む」というバラエティー番組の企画が上手くいき、レギュラーの座を勝ち取る。またとないチャンスながら、いつも心霊現象が現れるのではなく、撮れ高のなさに苦戦する。

 そこでコーナーを続けるために、事故物件担当の不動産屋・横水純子(江口のりこ)に、数多の事故物件を紹介してもらい、次々に引っ越していく。劇中に登場する物件は4つ。アンソロジー的に物語は進む。

 「殺人、自殺、孤独死」と横水がつぶやきながら並べられた物件を、ヤマメは、少し楽しそうに、また淡々と選んでいく。住んでいく中で、怖い目にあったとしても、こりずに仕事を続けていく。この姿勢は、かなり新鮮だった。

 こうして、ヤマメがストーリーテラーのような道標的役割をすることで、111分の時間内に、幽霊のフルコースのごとく様々な種類のホラーを体験することができる。『アナベル 死霊館の人形』のごとく、幽霊大博覧会状態だ。

②観客に寄り添う小坂梓の存在

 それでは、主人公が物語サイドについたとき、観客を置いてけぼりにしない要素はどこにあるのかというと、奈緒が演じる霊感のあるメイクアップアーティスト・小坂梓の存在が活きてくる。

 ヤマメのお笑いコンビ(のちに解散)の唯一のファンである梓は、テレビ局のメイクさんとして働くことになり、偶然にもヤマメと再会し、仲良くなる。『NANA』ばりの人生トントン拍子だ。だが、霊感のある梓は、ヤマメが感じない危険を察知し、事故物件に住むことを止めようとする。

 “見える”梓を通した体験は、ヤマメを通してでは感じられない恐怖を観客に植え付ける。『あなたの番です』ではその狂気の演技が話題になったが、今回は恐怖を受け取る側の熱演っぷりには感動すら覚える。

「BANGER!!!のインタビューによると、演じるにあたって

もともとホラーが好きなんですが、改めて見返しました。『シャイニング』(1980年)や、子どものときから好きな『チャイルド・プレイ』シリーズ(1988年~)など……。

と答えており、そう言われてみれば、シェリー・デュヴァルのごとく、オーバーながらも脳裏に焼き付く表情を見せていた。

結局ホラー映画って “怖がる人”を見るのが怖いんです。(中略)重要なのが“目”。僕のホラー映画に出てもらった歴代ヒロインは、思い切り恐怖に目を見開いてもらってきた。そして、それを観る側の人たちは彼女達の不安や恐怖に乗ってホラー映画を怖がり、楽しむわけです。(「クランクイン!」より)。

と『貞子』のときに語っていた中田イズムを、奈緒もまた継承している。

 亀梨和也、奈緒、 瀬戸康史、 江口のりこと基本的にはこの4人で物語が進む低燃費な映画だ。それでありながら、余った予算を消化するかのごとく、ちょっかいを出すように、知った顔がたくさん出てくる。“緊張と緩和”。ホラー映画の基本だ。と思ったけれど、よく考えたら松竹芸能ばっかりだ…笑 まあ、そんあ遊び心ができるのも松竹映画ならではの強みかもしれない。

■『事故物件』の惜しいとこ

 しかし、まあ100点だったかと聞かれるとそうではない。少し物足りなさを感じたことは否めない。

 “Jホラー”のいいところは、わたしたちの生活に、土足で上がってくることだ。「呪怨 劇場版」のようにシャンプー中の後頭部に手が出てきたり、寝込みを襲われたりと、映画館から帰ったとも作品の恐怖を強制的に持ち帰らされることになる。

 さらに、本作の舞台は“事故物件”。これだけ、観客を徹底的にいじめられる題材であるにも関わらず、“生活感”が薄く感じるのだ。(※微ネタバレ注意)

 例えば1軒目。そこは、赤い服の女性が殺害された部屋だった。まず、奈緒がその姿を確認し、逃走。そして日を改めて、ヤマメと中井大佐(瀬戸)が異なる屋外の場所でビデオ通話しているときに、スマホ画面に赤い女が映り、両者とも事故に合う。

 一見スマートフォンが生活圏のように感じるが、外でテレビ電話する人は少ない。また、せっかく家で殺されているのに、わざわざ幽霊が“出張”する形で襲ってくる。確かに、ずっと家では代わり映えなく、画的にバリエーションが生まれないかもしれない。しかしやはり、助けのいない孤独と絶望がホラーにはつきもので、真っ昼間の屋外というのも白ける。

 また、先程、「様々な種類のホラーを体験することができる」と書いたが、その分、次なる物件に移るシーンの転換が、かなり雑だ。3軒目なんて、「もう終わり?」という印象だった。ペース配分も狂いがある。

 成仏させる霊媒師でもなく、“事故物件住みます芸人”だから確かに住んで終わりと言われればそうなのだが、“事故”の原因を恐怖体験から紐解いていく謎のミステリー要素が、観客と映画を遠ざける。だってこちらは怖い思いをしたいわけで、そんな“答え”必要としてないんだもん…。

 事故物件の怖いところは、自分の家もそうかもしれないというところだ。明確な決まりではなく、単なる通例らしいが「二人目以降の入居者には、事故を伝える必要はない」という暗黙の了解がある。

 ちょっとしたシミや汚れ、謎の音、不可解な欠損、妙に新しい壁や床など、自宅にある“何者か”による痕跡を、もうすこし上手く物語上に乗せられていれば、「うちももしかしたら…」と家に帰るのが億劫だったはずだ。

日本映画界がかつてのJホラーブーム期のような活況となるためには、ジャンルを背負う気概を持った若い世代の映画作家の登場が不可欠だろう(「リアルサウンド映画部」より

とあるように、比較的低予算で作れるホラー映画は、国内外問わず若手監督の登竜門だ。髪の長い女が薄暗い水はけの悪いところから、ぬっとでてくるというワンパターンな点と、製作サイドの意向を反映させたようなドラマ展開、使い古しの恐怖は、これからのJホラーの課題といえよう。

成長すると、怖いものが減っていく。感性も削られていく。わたしは10代の頃の無責任ながらエネルギー溢れる、未熟な文章のほうが輝いていたと、過去を悔やむ。年寄りにホラーを取れないという迫害ではなく、新鮮な恐怖を描いてくれる人が現れるのが、今の楽しみだ。もっというと、2000年前後のきいちゃん(黒沢清)みたいな映画が見たいんだけどなあ。。

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