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AIとつくる音楽について考える【後編】

3月、令和元年度も終わり。
これからの音楽制作の方向性について考えを巡らせることも区切りとしたい時期です。

昨日発見した記事から、AIアシスト楽曲制作ツール"Flow Machine"を探っていくうちに考えたことを付記していきます。

まだ研究段階で、一般には流通していないようですが、このAIツールが導入されたYouTube動画が発表されています。

タイトル通り、Lo-Fiで、チルアウト的な作業用BGMが延々と流れています。
世界観はまるで"CROSS † CHANNEL"のような、別の世界線にいる人を観測しているような感じ。音楽もいいし、逆に予想できない展開があるので大変面白い。
この楽曲制作ツールが本格的に使えるようになったら、ぜひ試してみたい。

とはいえ、こんなにもcalmで有用な作業用BGMがAIで自動制作できるなら、いま自分がやろうとしているようなアンビエント・ミュージックづくりなんて不要だな、と思ったりもする。
改めて、「人はなぜ音楽をつくるのか?」ということを問われた気がしました。
そして、リスナー側においても「アルゴリズム音楽」が明示する"未来観"を考えずにはいられません。
ということで、こういった『人間とはなんぞや?』と問うことに薀蓄も歴史も深いヨーロッパ、特にイタリア人の思想を紐解くことによって、自分の音楽性がより明確な方向性をもたらしてくれるのではないかと仮説を立て、"安西洋之 著 / 「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?"を参考に、これからの音楽を語ります。

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まず引用したいのは、ロベルト・ベルガンディの言葉ですが、

贈り物は、贈り主の気持ちから生まれることが重要で、それは贈り主自身の意味の探索なのである。贈り主としてのあなたが愛せないものを、誰が愛してくれるだろうか?
(中略)
意味とは、贈り主であるあなたと、あなたがつくりだしたモノゴトを受け取る相手とつなぐものなのだ。

(『突破するデザイン』、4頁)
("安西洋之 著 / 「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?" P.45 晶文社 2020)

"意味のイノベーション"の実践となる原則は、この「内から外へ」といわれる、自らの動機にはじまる内発性に重きをおくことです。
つまり、イタリアの"アルティジャーノ(職人)"は「どのように」というHow、功利的な始まりからではなく、根源からくる「なぜ」Whyからものづくりが始まる。
その表れとして、イタリアの"アルティジャナーレ(職人的であること)"は、自身の審美性を重要視して、「美しくないモノは存在に値しない」という態度を持っています。

先般でも紹介した"水野学×山口周 著 / 世界観をつくる「感性×知性」の仕事術"にも、価値創造について、同様のことが書いてありました。

なぜ「好き」なのか。どこが変われば好きになれるのか。理由まで突き詰め感性を磨く。

"水野学×山口周 著 / 世界観をつくる「感性×知性」の仕事術" 朝日新聞出版社 2020

ひるがえって、自身はどうだろう?
新しいテクノロジーが出たら、使えるとなったら、パッと飛びつく。
みなが良いとなったら、なびくように良しになる。
流行っている音楽。世間が語る、おさえておくべき音楽。
ステータスとしてのファッション的な知。
そういった「外から内へ」のモノゴトに心を奪われていないだろうか?

"「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?"では、レッジョ・エミリア教育について言及されています。
土地の歴史とコンテクストに基づき、子どもたちに多くの可能性を提供することでコミュニケーションの機会を増やすアプローチが、意味のイノベーションを起こす素地をつくる。そこで培われた審美眼と誇りをもつことで、メイド・イン・イタリーはしなやかな強さがあることを示唆しています。

わたしたちが住む日本においても、長い歴史や土地に根ざされた美学があります。
イタリアとは宗教も文化的背景もまるで異なるけれど、美意識に対する造詣の深さや日本の豊かさに誇りがあります。
たしかに、日本は「正解」を追求し「意味」を無視した教育が施されてしまっていたかもしれません。しかし、自ら気づきをえて、色眼鏡を外したパースペクティブを持つことで、自分にとって深い意味のある世界観のパラダイムシフトを起こせるかもしれない。
その世界観であれば、もしかしたら、AIでの音楽制作もコンテクストによっては、意味をもたらすかもしれません。
ただ、努努忘れないようにしたいことは、
熱意と希望と強い意志"大義"から、ビジョンを明確に描き、世界観を指し示す。この大義を実現するために「精度(完成度)」のレベルを高め続け、センスを磨き続け、トライアンドエラーを繰り返し、世の中に意味を問い続けること。

さぁ、新年度も励みましょう。

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