見出し画像

コーチングの効果に「エビデンス」はあるのか? ~書籍『ストレングスベースのリーダーシップコーチング』(7)

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しくださり、ありがとうございます。
本日も前回に引き続き「ストレングスベースのリーダーシップ・コーチング」をテーマにした書籍を紹介いたします。

<今回ご紹介の文献>
Strength-Based Leadership Coaching in Organizations:An Evidence-Based Guide to Positive Leadership Development』(組織におけるストレングス・ベースのリーダーシップ・コーチング:ポジティブなリーダーシップ開発のためのエビデンスに基づくガイド)_第5章より
Doug MacKie (2016)

前回のお話はこちら↓↓


コーチングに効果の「証拠」はあるのか?

今回ご紹介の本の第5章のお話。ここでは、ストレングスベースのコーチングに関連した「有効性を示すエビデンス(証拠)」があるのだろうか?に注目をしています。

さて、コーチングはいまや職場において活用される手法です。そして多くの研究でも、有効であると示すエビデンスも多くあるとされています。しかしながら、その結果をどれくらい信頼できるかを測るためには「より厳密にエビデンスのレベルを知る必要があるのでは?」と、著者は述べます。

というのも、コーチング以外の介入や、プラセボ効果、その他のバイアスなどもあるため、純粋なコーチングの効果を知るためにも、各研究含め、その点も厳密に見ていきたいよね、とのこと。そりゃたしかにそうだ…!ということで、早速みてまいりましょう。

エビデンスのレベルとは

「この介入には効果がありました!」というのは簡単ですが、「何をもって効果があったと呼べるのか?」のエビデンスのレベルにはばらつきがあります。

それが、「アンケートで5(大変満足だった)とN=5が答える」などでは、それは効果の証明としては高いとは呼べません。それよりも「実験群と対照群に分けて1000人を超えたランダム化比較の実験で、コーチングの介入した実験群に統計的な有意差があった」のほうが、圧倒的にエビデンスのレベルが高いのは言うまでもありません。

では、「エビデンスのレベル」を測るために、どんな方法があるのか?
以下見てみましょう。

1)メタ分析
・複数の研究を組み合わせることで、被験者の数を大幅に増やす。
・結果、少人数の研究では見えなかった小さな効果も観察ができる。

2)無作為化比較実験(RCT)(被験者間デザイン)
・実験群と対照群への参加を“無作為”とするもの。
・参加者が「自分で選択して参加するバイアス」を排除できる。

3)非無作為化比較実験(被験者間デザイン)
・上記と対象的に、組織の事情などで配置される。
・実験群と対照群にばらつきが生じる可能性があるので、調整が必要。

4)被験者内デザイン
・コーチングを受けた人々の「パフォーマンス指標」を“事前事後”で比較する。(ただし、他の影響もあるもの。純粋にコーチングの効果だけを抽出するのは難しい)

5)ケーススタディ
・コーチングを受けた人々の「個人」を“事前事後”で比較する。(その人がどう変わったのかと大きくみるため、新しい仮説が得られることも多い)

6)アンケートデータ
・コーチや参加者に、コーチングの効果に関する意見を聞くだけのもの。
・観察は洞察力があるが、自己報告の場合、バイアスがかかることもある。

こうしたときに、「アンケート」だけではなく、「被験者内デザイン」「無作為比較実験(RCT)」などを組み合わせることで、エビデンスのレベルも高まると考えられます。

論文、研究、あるいは研修などでもその信頼度を高めるのであれば、アンケート以外にも、個人へのケーススタディ等で聞いてみたり、参加していない人との比較を行うことで、より評価も厳密に行うことができるとなるわけです。

コーチングにおけるエビデンスの現状は?

さて、そんなことを踏まえて「コーチングの成果に対するエビデンスの現状」を考えてみると、”効果的なコーチング研究は、まだ難しい”というのが著者の見解のようです。理由として、以下の4点を挙げていました。

<コーチングの成果の検証が難しい理由>
1)コーチングの成功の成果がどのようなものか基準ができていない
・幸福度、目標設定、自信、リーダーシップなど異なる結果基準が用いられている

2)コーチングの方法が研究によって違う
・コーチングプロセスで何をしているかが見えない

3)コーチングの研究のほとんどが自己報告データに依存している
・よって信頼性に懸念がある。色んな人に尋ねるのは手間がかかる。

4)コーチング研究に同意してくれる組織は比較的まれ
・研究に協力したからといって、投資対効果は得られるのか疑問る

うーん、厳密にみると、まだまだ「コーチングは研究として効果がある」と両手を挙げては伝えづらい状況のようです。

ポジティブ・アプローチの有効性を示す証拠

一方、とはいいつつも、古今東西様々な研究から、ポジティブ・アプローチ(強みを活用したアプローチやコーチングアプローチなど)の有効性を示すものも見つかっています。それらを、著書ではこのように整理していました。こちらも見てまいりましょう。

「一般的なコーチング研究」からわかったこと

コーチングの有効性に関する研究はエビデンスレベルにばらつきがありました。全体の研究は156件(2010)であり、内101件がケーススタディ、39件は被験者内デザイン、16件のみが被験者間デザインでした。(※つまり、成果の測り方はほぼ「その人個人の事前事後の感想」だったということ)その中で、”効果的なコーチングには「共通の原則」がある”ことがわかりました。その原則とは以下の通りです。

<効果的なコーチングの「共通の原則」がある>
1,コーチとクライアント(コーチを受ける人)の協力的な連携
2,クライアントの自己認識を高めること
3,明確に定義された目標
4,達成するための具体的な行動 など

これら含まれるコーチング介入は効果を示していたそうです。

「ポジティブ心理学の研究」からわかったこと

改めて「ポジティブ心理学」とは、長所を伸ばし、自信とポジティブな感情を高める考え方のことです。これは、コーチングの文脈で適用されており、有効であることを示す証拠も増えています。

<ポジティブ心理学の研究ででわかっていること>
1,ポジティブな気分や感情の増加は、“強みに基づいたアプローチ”によって増える
2、自分の強みを定期的に活用している人は、仕事への関与が高まる。
3,マネジャーが部下の強みにフォーカスすると、パフォーマンスが大幅に向上した(逆に、弱みにフォーカスするとパフォーマンスが低下する(Corporate Leadership Council,2002)
4,強みに基づいたアプローチが、従業員のパフォーマンス、エンゲージメント、定着率を高め、個人の主観的な幸福感にも影響を与える

こうした研究は進んでおり、これらはすべてストレングスベースのコーチングと相関関係があると考えられています

「ポジティブなリーダーシップ開発」についてわかったこと

次に、リーダーシップ開発についてです。これにも、さまざまな方法やプロセスがあり、開発することができるとされています。一方、わかっていないことも多く、例えばリーダーシップ開発の83の公式トレーニングを調査したところ、リーダーシップの効果量は全体的に小さい、という結果になりました。

すなわち、どのリーダーシップ開発の方法論が効くのか?はまだわかっていません。一方、”リーダーシップ開発のコーチング介入が有効な理由”も見つかっていました。以下のようなことがこれまでの研究から言われているそうです。

<リーダーシップ開発のコーチング介入が有効な理由>
1)コーチングは、参加者の個別ニーズに合わせて行われるから。よって具体的で、職場への関連性が高くなる
2)コーチングは、 “ポジティブ心理学の肯定的な考え方”をベースにしているから。目標達成と個人の開発に焦点をあてている。(Burke and Linley,2007)
3)コーチングは、評価・挑戦・支援というプロセスを含み、強みを認識し、開発する能力を提供するから(Ting and Riddle,2006)
4)コーチングは、反復して行われるから。目標設定と具体的行動の往還により学習を促進することができる。(Carey Philippon and Cummings,2011)

「ストレングスベースのリーダーシップ研究」からわかったこと

次に、著者による「ストレングスベースのリーダーシップコーチングの研究」(Mackie,2014)について紹介されていました。

ストレングス・ベースの方法論が、リーダーシップにどのように影響を与えるのかについて、国際的なNPOのリーダーを対象に“被験者間の無作為対照群デザイン”(ランダムに実験群と対照群にグループを分けて、結果を検証する手法のこと)の調査を行いました。そして、マルチソースフィードバック(本人を含めた360度評価)にて、事前/事後を検証しました。

ストレングスベースのコーチングの内容は、以下の形です。
まず参加者が、自分の強みを考える際に「成長を重視すること」をコーチから促されました。次に「実現している強み」「実現していない強み」「弱み」の観点からフォーカスするところを選び、これらについて3ヶ月間で6回のコーチングを受けたのでした。

その結果、コーチングを受けた群は、対照群の3倍の効果サイズを達成した、としています。

ちなみに興味深いのは、この「効果があったという評価」は、他の評価者から(つまり上司・同僚・部下など)あったが、参加者本人にはなかったそう。(理由として考えられるのは、事前の自己評価が高く、周りの評価とズレがあった場合、もう一度やると、自己評価を低めにつける傾向があることがわかっている。このような自己評価バイアスも理解しておくとより、正確な評価を行えると述べています)

コーチング研究における調整効果と媒介効果

さて、本書で一番おもしろかったのが、こちらです。それがコーチングの調整効果と媒介効果のお話です。

コーチングの調整効果(moderator)

まず、「調整効果」ですが、説明変数の目的変数の両方の方向性と強さに影響を与える因子のことです。つまり、「コーチを受ける人の特性(説明変数)」と「リーダーシップの成果(目的変数)」のどちらにも影響を与えるものとなります。

●コーチング研究における調整因子
1,開発の準備ができていること
2,コーチを受ける人の性格
3,セッションへのコミット
4,コーチの信頼性

コーチングの媒介効果(mediator)

次に、媒介効果ですが、説明変数が目的変数に影響を与えるメカニズムのことです。例えば、「コーチを受ける人の特性(説明変数)」が「リーダーシップの成果(目的変数)」に影響を与える矢印が出たときに、そこの間に入り、影響を与えるものが媒介因子です。

●コーチング研究における媒介因子
1,成熟していること(マスタリー)
2,自己効力感
3,自己洞察

コーチングの調整効果と媒介効果

このように整理されていると、たしかにそうかも・・・!と感じます。セッション前のコミットや、自己洞察ができるかなどは、コーチングに影響を与える因子だよな、と私もコーチングをお仕事とするものとして、イメージできるものでした。

まとめと結論

さて、本章のまとめでは、以下のようなにまとめていました。

・ストレングスベースのコーチングが効果的なリーダーシップ開発の手法であるという根拠は急速に発展している。
・リーダーシップ開発とポジティブ心理学の両方の文献から支持されている証拠も増えている。
・コーチングの専門家は、3つのメタ分析研究でコーチング全般の有効性を確認するところまで進んでいる。
・研究はまた、自己報告データに依存するだけではなく、結果の比較も行う基準も設けつつある。

とのこと。一言で言えば「ストレングス・ベースのコーチングのエビデンスを示すものは急速に増えている」ということです。

これは個人的感想ですが、ご紹介している書籍は2016年のものですが、たしかにこの頃から、組織におけるストレングスベースの介入や、定量調査の論文もぐぐっと増えてきている印象があります。

まさに、現在発展中の領域であるのだな、と改めて感じた次第でした。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?