ポジティブ・リーダーシップ理論を歴史の中に位置づける ~書籍『ストレングスベースのリーダーシップコーチング』(5)
こんにちは。紀藤です。本記事にお越しくださり、ありがとうございます。
本日も前回に引き続き「ストレングスベースのリーダーシップ・コーチング」をテーマにした書籍を紹介いたします。
前回のお話はこちら↓↓
第3章:ポジティブ・リーダーシップ理論とは
さて、「ストレングス・リーダーシップ」とは、ポジティブ心理学に立脚した「ポジティブ・リーダーシップ理論」に包含されます。一方、「リーダーシップ理論」を考えると、そこには100年の歴史があり、その中で、ポジティブ・リーダーシップなるものが、どこに位置づけられて、これまでにリーダーシップの理論と比べて、どのような特徴を持ち、どこが違うのかを、理解する必要があります。本章の「はじめに」ではこのように書かれていました。
とのことで、早速内容をみていきましょう!
リーダーシップ行動の起源
進化心理学者が考える「現代のリーダーシップ」の特徴
多くの動物は「優劣をつけて集団をまとめる」ことをします(サルとか狼とか)。何のためにそうするかというと、“集団の結束や共同体の意思決定”が必要だからです。しかし人間の場合はそうではなく、むしろリーダーが力を持ちすぎないようにしていた(Boehm,1999)と進化心理学者たちは考えました。
集団に影響を与える人間の「リーダーシップ行動」は、何千年にも渡って進化してきた、歴史の中にマッピングされていると考えると、ここ250年のビジネスにおけるリーダーシップもその一つの系譜の中にある、と考えられます。そんな進化心理学の考え方において、"現代のリーダーシップ"について以下のような示唆がされています。
<進化心理学の考え方による「現代のリーダーシップ」の特徴>
1,”分散型リーダーシップ”(様々な人がリーダーシップを発揮するシェアド・リーダーシップ)や”平等的なリーダーシップの構造”が好まれる
2,環境上の課題に対応するために”柔軟なリーダーシップ”が必要とされている
3,社会の複雑さとグループサイズに応じて、”リーダーシップスタイルを変化させること”が求められる
とのこと。「分散・平等・柔軟・変化」が現代のリーダーシップのキーワードのようにも見えます。
「リーダーシップ理論」の進化
さて、リーダーシップ理論は進化してきた、とお伝えしました。この100年間の大きな流れは、「リーダーシップ=偉大な人物」→「リーダーシップ=変革的」→「リーダーシップ=分散的・本物志向」という変化がありました。
また、別の視点からは、以下の流れもありました。まず「特性理論」(リーダーは生まれつきリーダー。リーダーの資質を解き明かそう!)そして、「行動主義理論」(リーダーシップの行動を特定しよう!)、そして次に「状況理論」(リーダーとフォロワーとの関係などの状況を解き明かそう!)と発展してきました。
こうした歴史の中で研究が進み、その分だけ複雑さが増していきました。その中で、ポジティブなリーダーシップモデルが登場したのは「変革型リーダーシップ」からとなります。
「変革型リーダーシップ」とは、“高い集団目標に向かって他者を鼓舞すること”で多くの努力が引き出せる、としたモデルのことです。この”他者を鼓舞する”などの要素に、ポジティブ・リーダーシップの要素が含まれると考えられ、その他の代表的なリーダーシップの理論と、ポジティブ・リーダーシップ理論のつながりについても考察をしています。
ポジティブ・リーダーシップの要素と前提
ポジティブ・リーダーシップの要素
まず、何を持って「ポジティブ・リーダーシップ」と呼べるのでしょうか。ここで、この概念の定義がされています。
とのこと。これらの要素が当てはまるリーダーシップ理論が、ポジティブ・リーダーシップに包含されると、著者は考えています。
ポジティブ・リーダーシップの開発が難しいリーダーはこんな人
本書はリーダーシップ開発をテーマにした書籍ですので、”ポジティブ・リーダーシップの開発が、難しいリーダーとは?”についても触れています。具体的には2点です。
1点目が、ポジティブ・リーダーシップの考え方(リーダーの優れた点や強みに焦点を当てるなど)を受け入れられないリーダーです。すなわち変化する準備ができていない、変化することができないリーダーはポジティブリーダーシップの開発が難しいとしています。
2点目が、あるいは自分のリーダーシップの成長について固定観念を持っているリーダー(成長出来ないと思っている)です。こちらも、ポジティブ・リーダーシップ開発は難しい、としています。
暗黙のリーダーシップ理論
この「ポジティブ・リーダーシップの開発が難しいリーダー」に関連する理論が、「暗黙のリーダーシップ理論」です。
暗黙のリーダーシップ理論とは、「リーダーとは◯◯◯のようなものである」と考えるリーダーに対する前提のことです。この理論には「マインドセットと発達的準備」という2つの主要な概念があります。これが、リーダーシップ開発に影響を及ぼす、と述べています。
まず、「マインドセット」(Dweck,2006)です。マインドセットとは、成長思考(能力は開発できる)と固定思考(能力は生まれつき、変えられない)等のその人が持つ信念のことです。マインドセット学業を含め、その個人の成長に幅広く影響をもたらすとされています。
次に、「発達的準備」(Avolio and Hanah,2008)です。これは「リーダーシップの役割を引き受けるために、新しく複雑な思考方法に焦点を当て、意味づけ、発展させる能力と動機」と定義されています。 この考え方がなぜ重要かというと、”ポジティブなリーダーシップ開発の重要な前提となる”からです。発達的準備の要素は「自己認識/自己調整/なりたいリーダー像の明確さ/自分を振り返る能力/変化する能力」とあります。
ポジティブ・リーダーシップに関連するリーダーシップ理論
さて、次に「組織におけるポジティブ・リーダーシップ(PL)」として、開発のモデルや方法が採用されているものがいくつか紹介されています。ここでは、変革型リーダーシップ、心理的資本、オーセンティック・リーダーシップの3つを紹介します。
変革型リーダーシップ
変革型リーダーシップは、組織と共有されたビジョンに向かってフォロワーのパフォーマンスを向上させる点で、リーダーがフォロワーに与える影響を重視するもの(Bass,1999)です。以下5つの要素があるとされます。
さて、「ストレングス(強み)」は「変革型リーダーシップ」とどのように結びつくのか?なのですが、変革型リーダーシップの「理想的な影響力」と「刺激的な動機づけ(他者を鼓舞する)」の要素に影響していると考えられます。
もう少し詳しく言うと、「理想的な影響力」ではリーダーは、信頼関係を構築する能力や、倫理的かつ誠実に行動する能力によってフォロワーにポジティブな影響を与えようとしており、ポジティブ・リーダーシップの要素が含まれます。また「刺激的な動機づけ(他者を鼓舞する)」では、ポジティブな感情に関する言葉が多く使われるため、影響を与えると考えられています。
心理的資本
次に、心理的資本ですが、これは「意欲的な努力と忍耐に基づいて、状況と成功の可能性を肯定的に評価すること」(Luthans et al,2007)と定義されています。
心理的資本の中には、「ホープ(Hope:希望)」「エフィカシー(Efficacy:自己効力感)」「レジリエンス(Resilience:回復力)」「オプティミズム(Optimism:楽観性)」という構成要素が存在します。
心理的資本は、向上させる事が可能であり、トレーニング介入によって大幅な改善が実証されています(Avey et al,2011)。また、心理的資本を高めると、自信や自己効力感のようなポジティブな状態を活用し、職場でのパフォーマンスを向上させることができるとされています。
そして、変革型リーダーシップは、フォロワーにこれらの「心理的資本」を構築することができると著者は考えています。そう言える理由は、「変革型リーダーシップがフォロワーのパフォーマンスに与える影響を媒介するという証拠があるから」(Goorty et al,2009)としています。
つまり、「変革型リーダーがフォロワーを鼓舞し、モチベーションを高める」→「心理的資本が構築される(希望、楽観主義、自信、回復力がアップ)」→「フォロワーが余分な裁量的努力をする(つまり、頑張る)」→「フォロワーのパフォーマンスが高まり、アウトプットが向上する」 という構造になる、というわけですね。
オーセンティック・リーダーシップ
次に、オーセンティック・リーダーシップですが、これは企業の不正行為、リーダーシップの脱線の時代に生まれたリーダーシップモデルです。
透明性、倫理的行動、役割にとらわれない模範的なリーダーの行動が強調されており、オーセンティック・リーダーシップの質問表には、以下の4つの要素が含まれています(Walumbwa et al,2008)。
これらの4つの要素を見ると、ポジティブな心理的状態の認識や強化に加えて、「道徳的要素」が含まれるといえます。
では、「ストレングス(強み)」は「オーセンティック・リーダーシップ」とどのように結びつくのか? なのですが、”リーダーの強みを高めることは、ポジティブで真正なリーダーの行動に直結する”と著者は考えました。
また、リーダー自身の信念や価値観など、“真正な(心からの)”表現が、フォロワーの信頼、希望、楽観性を高めることは、上述の「心理的資本」に関連している(Hernandez,2011)と考えたのでした。
その他
また、その他『サーバント・リーダーシップ』では、「他者を利他的に育成し、自己超越的な価値観を内面化するサーバント・リーダーシップ(Liden et al,2008)は、“他者に奉仕する”、”自己を超えたリーダーシップ”がポジティブ・リーダーシップの要素に当てはまると、著者は考えました。
また『ポジティブ・グローバル・リーダーシップ』なるものは、「時間と文化を超えて、リーダー、そのフォロワー、組織の強み・能力・開発の可能性を高め、肯定的なリーダーシップ特性・プロセス・行動・パフォーマンスの成果が、体系的に現れること」と定義(Youssef and Luthans、2012)されていますが、これもポジティブ・リーダーシップである、と述べています。
こう見ると、色々とまとめてみると、最近注目されているサーバント・リーダーシップ、オーセンティック・リーダーシップなど、他者を鼓舞する、誠実であるなどの要素が含まれるものは、「ポジティブ・リーダーシップ二包含される」と言えるのが、著者の主張のようです。
まとめ
さて、「ポジティブ・リーダーシップ」について、リーダーシップの歴史やリーダーシップの理論とのつながりの中で、どのような関連を持つのかを整理してきました。この章のまとめでは、この理論を丁寧に読み解くことの意義について、以下のように述べています。
こうした理論を見ることで、「チームが天性のリーダーがいるに違いない!」という暗黙の理論を持っていることのバイアスに気づくきっかけにもなります。そうした前提を見直すからこそ、リーダーシップの可能性を秘めている候補者に光を当てるきっかけにもなる、とのこと。
過去の多くの研究の中に、ポジティブリーダーシップを位置付けることで、その理論の信頼性を確かにできるように感じた章でした。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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