見出し画像

ジョブ・クラフティングに関わる「ワークデザイン研究&職業的ストレス研究」のお話 ~読書レビュー『ジョブ・クラフティング』#4~

こんにちは。紀藤です。ジョブ・クラフティング(以下、一部「JC」と表記します)の初の研究書『ジョブ・クラフティング』について、本日も読書レビューをお届けいたします。

本日は「第4章 ジョブ・クラフティングがもたらす職業性ストレス研究の新たな展開」からの学びです。

まず本章の目的は「ジョブ・クラフティング研究の転換点(JD-Rモデルに基づくJCの再定義・尺度化)に至るまでの、ワーク・デザイン研究およびお職業性ストレス研究の理論的系譜に着目した文献検討を行う」とされています。

最初、これを読んだときは、何かの呪文かと思いました笑。

・・・が、それぞれの理論の歴史や前提としている考え方に触れて、その差異を明らかにすると、ジョブ・クラフティングの奥行きがさらに広がって見えて、実に面白い内容でした。
ということで、早速まいりましょう!


ジョブ・クラフティングにつながる理論あれこれ

さて、ジョブ・クラフティングには、大きく2つのモデルがあったというお話を、これまでの記事でお伝えいたしました。

大きく「タスク・関係性・認知の3次元モデル」Wrzensniewski&Dutton(2001)と「JD-Rモデルをベースとした4次元モデル」Times&Bakker(2010)です。

そして、JD-Rモデルの尺度が開発されてから、ジョブ・クラフティング研究は大きな発展を遂げることになりました。

その2つの関連する理論が、「ワーク・デザイン研究」と「職業性ストレス研究」です。

「ワーク・デザイン研究」とは

さて、まずワーク・デザイン研究について見ていきましょう。

こちらはその言葉通り、「職務の設計(ワーク・デザイン)」に関連するこれまでの研究を取り上げたものです。ワーク・デザイン研究は以下のような流れで発展してきました。

以下それぞれ特徴をまとめます。(昔→今の順でまとめます)

(1)職務設計アプローチ

<歴史>
・ワーク・デザイン研究の端緒となった最初の研究。
「科学的管理法」と呼ばれ、仕事を単純化し、工員(workman)と組織の生産性が向上するという考え方である(Taylor,1911)

<理論の前提>
*ジョブの前提:課業管理法とも言われ、「客観的なタスク」を管理する
*従業員の前提:従業員は「合理的経済人」とみなされる(経済的インセンティブで動機づけられる存在)
*ジョブと従業員の関係の前提:「ジョブ→従業員」への一方向(組織の責任元でタスクが計画され、従業員が実行する)

(2)職務再設計アプローチ

<歴史>
・科学的管理法に基づく機械的に設計された仕事は、職務不満足、欠勤、離職などに繋がることがわかり、検討されるようになった。
・そして、従業員のモチベーションにつながるような職務特性の概念化や理論化に焦点を当てた研究が始まった。
・代表的なモデルが「職務特性モデル」(Hackman&Oldham,1976)である。

<理論の前提>
*ジョブの前提:従業員を取り巻く環境に属する「客観的事実」によって定義される(例:技能の多様性、タスクの関係性、タスクの重要性、自律性、フィードバックの5次元)
*従業員の前提:従業員は「自己実現人」とみなされる(自分自身の能力を発揮したいという自己実現の夜級を持ち、それを仕事のモチベーションの根源とする)
*ジョブと従業員の関係の前提:主な影響は「ジョブ→従業員」だが、一部「従業員→ジョブ」への影響も考えられている(ジョブの影響を受けつつも、ジョブに対して自ら働きかける事ができる能動的な存在とする)

(3)ジョブ・クラフティング・アプローチ

<歴史>
・職務設計アプローチや職務再設計アプローチでは、主に”製造業”を中心とした想定されていた。しかし、サービス労働、ナレッジワークの出現など、産業構造の変化に伴い、仕事のあり方が変化した。そして生まれてきたのが本アプローチである。

<理論の前提>
*ジョブの前提:タスクや関係性の量や内容といった「客観的側面」に加えて、従業員の認知や意味付けといった「主観的側面」
*従業員の前提:従業員は「複雑人(多様な欲求が個人間や個人内で変化するという人間モデル)」、または「意味充実人(自身が置かれた状況において、意味への意志に基づき意味を構築・再構築する主体と考える人間モデル)」とする
*ジョブと従業員の関係の前提:「ジョブ↔従業員」という双方向(従業員のJCによってタスクなどが物理的に変化するとともに、従業員の捉える仕事の意味やワーク・アイデンティディなども変化する)

なるほど、時代に合わせて少しずつ研究が積み上げられてきたこと、またその背景となる「前提」(モノの見方)が違うこともよくわかりますね。

「職業性ストレス研究」とは

さて、次にジョブ・クラフティングに関わる理論のもう一つが「職業性ストレス研究」です。言葉通り、仕事におけるストレスに関連する研究です。

こちらの流れとそれぞれの特徴を、以下まとめてみます。(こちらも昔→今の順でまとめます)

(1)ミシガンモデル

<特徴>
・職場のストレス要因(例:仕事の量、役割葛藤、役割曖昧性)が、従業員のストレス反応(例:抑うつ、高血圧、喫煙)とそ健康障害(例:心血管疾患)につながると考えるモデル。
・そして個人の特性や社会的支援が、ストレス反応の原因となり、あるいはストレスの要因と反応の調整要因となると考えているもの。

(2)仕事の要求度ーコントロールモデル(JD-Cモデル)

<特徴>
・仕事のコントロールに関する「職務特性モデル」と、ミシガンモデルに代表される「仕事の要求度」のモデルを統合したもの。
・「仕事の要求度=仕事の心理的負担」、「コントロール=職務上の裁量権や技能の活用の自由度」を表し、この高低の組み合わせで、従業員の心理社会的な職場環境を分類できると考える。
・これらから「ストレイン仮説」(高ストレインの職場はストレスが高い)、「アクティブ・ラーニング仮説」(仕事の要求度もコンロールも高い環境だと、従業員の学びや成長、生産性の向上につながる)が生まれた。

(3)仕事の要求度ー資源モデル(JD-Rモデル)

<特徴>
・対人援助職に特徴的な「バーンアウト」が幅広い職業において普遍的であること、そしてそれが「仕事の要求度」と「仕事の資源」によって規定されることを検証するために構築されたモデル。
・JD-Rモデルでは、職場のあらゆる特性が「仕事の要求度」あるいは「仕事の資源」に分類可能であるとする。
・また、JD-Rモデルは、ポジティブ心理学の観点から「ワーク・エンゲイジメント」の概念を取り入れたり(Schaufeli&Bakker, 2004)、自分が資源をどのくらいコントロールできるかという感覚を表す個人資源(例:自己効力感、楽観性)の概念を取り入れたりするなど、モデルの拡張や改良が施されている。

なるほど、ここでも、産業構造の変化、あるいはポジティブ心理学の登場などで、他の研究とつながり合い,複雑になっていることがわかります。

「強み」の研究で、ジョブクラフティングやJD-Rモデルがよく登場してきたのも,ここで繋がるんだ!と興奮を覚えました。

まとめ ー「理論の前提」を遡る意味ー

さて、本章では、「ワーク・デザイン研究」と「職業性ストレス研究」という2つの研究の理論的系譜を遡りました。

そして、それぞれの文献が「ジョブ」「従業員」「ジョブと従業員の関係」をどのように見ているか(前提)を、解き明かしました。

「では、こうした理論的系譜や前提を見ていくことでどういう意味があるのか?」

この素朴な疑問について、以下著者が今後の研究への示唆としてまとめています。

今後の研究への示唆

(1)「ジョブの主観的側面」に着目すること
・これまでの研究では、どちらかというとジョブの客観的側面(いわゆるタスク)が注目されてきましたが、主観的側面(認知、その仕事をどう捉えるか)という部分が検討されていないことがわかりました。

(2)「従業員の動的な変化」を考慮すること
・ジョブだけではなく、従業員も変化していくことがわかりました。しかし従業員が「動的に変化をしていく」というアプローチは完全であるかというとまだまだ道半ばと言えそうです(例:仕事のストレスの挑戦性・阻害性も、それ単体としてあるのではなく、従業員が成長するなどで挑戦性・阻害性の意味も重さも変わってくる)

(3)「ジョブと従業員をつなぐ理論的メカニズムの多様性」を理解する
・理論をときほぐす:従業員→ジョブを考える際は、「タスク」や「関係性」だけではなく、「認知」ぼジョブ・クラフティングも重要である。
・理論を統合する:時間軸を検討することで、従業員→ジョブの影響や、ジョブ→従業員への影響が、どれくらいのタイムスパンで起こるかを検討することができる

とのことでした。

研究とは、これまで人類が到達していない知見へと一歩進めるもの、などと聞いたことがありますが、こうして「「これまで」を紐解くから「これから」が見えてくる」のだと気付かされました。

最後までお読みいただき,ありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?