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ジョブ・クラフティングとは何か? ~読書レビュー『ジョブ・クラフティング』#1~

こんにちは。紀藤です。以前からしっかり読みたかった書籍があります。
ジョブ・クラフティングの第一線の研究者である高尾先生、森永先生による、初のJCの研究書『ジョブ・クラフティング』です。

今日から本書をレビューをしてまいりたいと思います。
本日は、第一章の「ジョブ・クラフティング研究の現在地」を読んでの学びです。それでは早速まいりましょう!


ジョブ・クラフティングとは何か

ジョブ・クラフティングとは、「従業員自身による自発的な仕事のリデザイン」です。言い換えると”仕事にひとさじ加えること”とも言われます。

研究者の定義だと「ジョブ・クラフティングは、個人が自らの仕事のタスク境界もしくは関係的境界においてなす物理的・認知的変化」(Wrzensniewski&Dutton, 2001)とも説明されます。

ジョブ・クラフティングの概念が提唱されたのは2001年でした。2010年ごろから研究が盛んになり、ここ近年、ビジネスの実務においても急激に注目されてきています。(私も「ジョブ・クラフティング研修を行っている」という企業の話をいくつも伺います)

ジョブ・クラフティングが注目される3つの理由

そして、なぜ今ジョブ・クラフティングが注目されているのでしょうか?
この理由を、著者は3点述べています。

理由1:「自発的な職務変化の創出」が求められている
理由2:「モチベーションの自己調整方略の一つと捉えられる」ため
理由3:「従業員の(仕事の)意味や、アイデンティティへの希求」が高まっているため

そしていわずもがな、上記3点にジョブ・クラフティングが役に立つ、と考えられているため、注目が高まっているようです。

また、もう一つ加えると、近しい領域での「『ジョブ・デザイン論』の前提の見直し」というものがあったとのこと。
 ジョブ・デザイン論の代表的な理論は、『職務特性モデル』(Hackman&Oldam,1975)というもので、自律性・技能多様性・タスク完結性・タスク重要性・フィードバックという5つの特性を高めることでモチベーションを高めることができるという考えです。
 しかし、この「職務特性モデル」は、トップダウン的に決定される職務の特性であるという色が濃いものでした。ゆえに「従業員自らがデザインする」という考えが少なく、ここを補完する概念として、ジョブ・クラフティングが注目されるようになったようです。

代表モデル(1):タスク・関係性・認知の「3次元モデル」

さて、ジョブ・クラフティングの概念は、実はいくつかの潮流があります。大きく2つです。1つ目が、ジョブ・クラフティングの概念を提唱したWrzensniewski&Dutton(2001)の3次元モデルと、JD-Rモデルを軸にしたTimes&Bakker(2010)らの4次元モデルです。

まず、3次元モデルから説明します。
簡単にいえば「タスク」「関係性」「認知」のそれぞれで仕事に一匙加えるという内容です。以下まとめます。

<タスク・関係性・認知の3次元モデル>Wrzensniewski&Dutton(2001)

(1)タスク・クラフティング

・具体的な仕事の内容や方法を変更すること
(例:ICT技術に興味を持つ人事採用担当者が、採用候補者を惹きつけたり、コミュニケーションを取るためにSNSを活用するタスクを追加する等)

(2)関係性クラフティング
・他者との関係を増やしたり、その質を変えていくこと
(例:病院の掃除スタッフが、患者やその家族、医療従事者とのコミュニケーションを増やすこと等)

(3)認知的クラフティング
・個々のタスクや仕事全体について自分がどのように捉えるかを変えることができること
(例:ルーティン作業に従事している給与計算業務の担当者が、担当業務の背後にある仕事の流れに目をやることで作業に面白みを感じたり、チェックリスト作成作業を通じて仕事の意味を再確認したりすること等)

P5-6

いわゆる「ジョブ・クラフティング」というと、この「黎明期」(2001~2010年)のモデルが連想されることも少なくないように思われます。

P5

代表モデル(2):JD-R理論を元にした「4次元モデル」

そして、2010年になると、ジョブ・クラフティング研究が盛んになりはじめ、「確立期」へと進んでいきました。
ここから研究が著しい増加をみせるのですが、その理由が「仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)を下敷きにして、ジョブ・クラフティングをプロアクティブ行動の1つと再概念化するという研究上のブレイクスルーが起こった(P10)」からと述べられています。

ちょっとなんだかわからない・・・と感じるかもしれませんので、以下詳しく説明いたします。

仕事の要求度ー資源モデル(JD-Rモデル)とは

まず、JD-Rモデルとは、従業員のウェルビーイングやワークエンゲージメントを説明する概念です。これは「仕事の要求度」と「仕事の資源」が、「健康障害プロセス」と「動機づけプロセス」に影響を与えると考えます。

もう少し付け加えると、「仕事の要求度」とは、仕事の量的・質的負担、時間や仕事のプレッシャー、対人業務における情緒的負担、労働環境の厳しさ、役割加藤、役割過重などのこと。
そして、「仕事の資源」とは、給与やキャリア開発などの就業条件、上司・同僚の支援などの関係性、また役割の明確さや意思決定の参加などのことです。

たとえば、「仕事の要求度」がめっちゃ高くて(=仕事多すぎ、プレッシャー強すぎ、環境悪すぎ)、「仕事の資源」がめっちゃ低い(=給与低し、支援なし、役割曖昧)としたら、「健康障害(ウェルビーイングの低下やワーク・エンゲージメント低下)」となるのは想像に難くありませんね。
 逆に「仕事の要求度」に対して「仕事の資源」が適切にあれば、ウェルビーイングやワーク・エンゲージメントが高まることが想像できます。

この「仕事要求度・資源モデル(JD-Rモデル)」はワーク・エンゲージメント等の組織行動の重要な概念を説明するモデルであり、ここに「ジョブ・クラフティング」が「仕事の要求度と資源のバランスをとるために従業員ができる行動である」と考えられたことが”研究上のブレークスルー”となったとのことです。

JD-Rモデルをベースとした4次元モデル

そして、このJD-Rモデルをベースとした4次元モデルが以下です。
(日本語版尺度は、Eguchi et al,(2016)によって開発されています)。

<JD-Rモデルをベースとした4次元モデル>Times&Bakker(2010)
(1)対人関係における仕事の資源の向上
(例:上司や職場の他者からフィードバックやアドバイスなどを得ようとするタイプのジョブ・クラフティング)
(2)構造的な仕事の資源の向上
(例:自分の専門性を高めたり、能力を高めたりする機会を作り出す行動や、仕事の自律性やスキルの多様性を高めようとするタイプのジョブ・クラフティング)
(3)挑戦的な仕事の要求度の向上
(例:新たなプロジェクトに積極的に参加したり、自分の仕事をより挑戦しがいのあるものへと変更したりするタイプのジョブ・クラフティング)
(4)妨害的な仕事の要求度の低減
(例:仕事の負担を減らすために大変な仕事や困難な意思決定をしなくて住むように振る舞うタイプのジョブ・クラフティング)

P11-12

このモデルによって、どんなジョブ・クラフティングが、ワーク・エンゲージメントを高めるのかが理論的説明が明確にされるようになった点が、貢献であったとされています。
 (一方、「認知的ジョブクラフティング」など削ぎ落としまっていること、「妨害的な仕事の要求度の低減」などは異なる性質のJCでは?という意見もあるとのこと)

P14

まとめと個人的感想

ジョブ・クラフティングが2001年から始まって、そして今に至るまでどのように展開してきたのかが、シンプルにわかる非常にありがたい章でした。

大きく、3次元モデルと4次元モデルを抑えておけば、ジョブ・クラフティングの基礎的な部分は理解できるのかな、とも思いました。

その他にも、接近志向ー回避志向(Elliot&Covington, 2001)というモチベーション理論に関わる概念とジョブ・クラフティングの繋がりがあるモデルも紹介されており、こうしたものも知ることで、全体像がわかった気がしました。しかし、まだまだ深い世界が待っていそうで、読むのが楽しみです。

ということで、また第二章以降は明日に続けたいと思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!


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