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おすすめの一冊『働くということ 「能力主義」を超えて』

こんにちは。紀藤です。おすすめの一冊をご紹介するコーナーです。
今回のご紹介の本はこちらです。


本書の概要

本書は、教育社会学を修め、また外資系コンサルティングファームで、人事アセスメント等を活用して、企業に人材開発を提供してきた経歴を持つ著者の作品です。

 前著「能力の生きづらさをほぐす」において、能力主義を見える化して評価するに至った背景などを記述されました。それらの「能力で選び・選ばれる、そのために努力することの生きづらさ」について、さらに掘り下げて疑問を投げかけた著作です。

そもそも「わかりづらい能力を評価され、働くのはなんとも生きづらいよね」という前提を問う内容なので、全体を通じて、多くの問いが投げかけられていきます。

プロローグから引用しますと、本書の狙いは以下のように述べられます。

「選ばれる人であれ」という社会の要請に触れるたびに、この仕組みは今のままで大丈夫なのか? という漠然とした懸念がありました。その懸念は特にこの数年で、「次世代に引き継ぐべきではない」という確信に私の中で変わってきています。

「選抜」「采配」について再考することは、人間とは何か? 達成とは? 仕事とは? 成果とは何か? ……といった隣接する概念の定義を見直すことに他ならず、それらに大胆にも挑もうとしています。

P17

 書籍の中でも「問いはいいから答えをくれ、という人にはイラっとする、投げ出したい気持ちになるやもしれない」と書かれていましたが、実際に、前提を考えるという問いが中心なので、そのように感じる人も少なくないかもしれません。

結論としては、「能力主義に傾倒せず、お互いに補い合うこと」と私は理解しました。そして、著者の本丸でもある組織開発の中で、それぞれが補完できる方法を模索していくというのが、考えられる一つの方法として述べられているように感じました。

選ばれる人はいいが、そうではない人はどうするのか

以下は本書を読んで、私自身が思ったことですが、確かに「選ばれるような特性や能力を持った人はよいが、そうではない人にとっては厳しいゲームである」というのが、この資本主義社会であると感じます。

人が働く上で、定義された能力と、それを発揮した成果に応じて評価する。そして報酬が支払われる。それは働く上での当たり前の前提となっていますし、それらの仕組みを前提に、我々は働いているように思えます。

それは組織の目標に対して、人を機能させるための仕組みの一つとして、組織行動の中で研究されてきたものではありますが、それでも完璧なものではありません。

年収と強みの関係から思うこと

ちょっと話がずれるようですが、ある論文で「強みの違いにより年収に違いはあるのか?」を調べた日本の研究が紹介されていました。

それによると、クリフトンストレングス(CSF)では「信念・コミュニケーション・競争性・目標志向・最上志向・ポジティブ」、VIAーIS(VIA):
「熱意・リーダーシップ・自律心・審美眼」が、年収330万円以下に比べて年収695万円以上のほうが有意に多かった、というような結果になっていました。

ちなみに、ギャラップのストレングスファインダーに関していえば、認定コーチの私が学んだことを思い出すと「どの強みも、全てが素晴らしいものであり、どれが優れている・そうではないなどの違いはない」と説明されました。
 しかし、実際のところ、この年収の違いのようなら結果もありますし、「よりもらいがよく評価される能力(特性や資質)」のようなものは存在しているようにも思えます。

社会人基礎力で定義される「能力」から思うこと

あるいは、経済産業省が「人生100年時代の社会人基礎力」示しているような3つの能力(12の能力要素)にもある、

・前に踏み出す力(主体性・働きかけ力・実行力)
・考え抜く力(課題発見力・計画力・想像力)
・チームで働く力(発信力・傾聴力・柔軟性・状況把握力・規律性・ストレスコントロール力)

なども、そうした、前に踏み出せて・考え抜けて・チームで働ける人になって選ばれていくことが大事と、選ばれる側への責任がますます大きくなっている匂いもします。(でも、こんな能力が全部高い人ばかりだったら、正直ヘンな感じもします)

https://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/index.html

広く見れば、前に踏み出すことを躊躇する慎重な人もいるし、ストレスに強くはないけれども繊細な人(感性が優れている人)もいるものです。そして、それが普通です。

とはいえ、上記のような能力主義を掲げた場合、もしかするとそうした人は「前に踏み出さない・レジリエンスが低い」と能力を評価される、働く上で価値を提供できないように感じてしまう・・・。こうしたことはあるのだろう、とも思うわけです。

いずれにせよ、能力とは固定されたものではなく、うつろいやすく、不安定で、文脈で求められる能力も変わるもの。

ですが、◯◯力のようにある能力が普遍でどこでも価値あるものとして掲げられてて、そこに意識が集中してしまうのは、生きづらさを助長することにも繋がるのかもしれない、と思うのでした。

まとめ

冒頭にお伝えした通り、問いを投げる本です。なので、最終章のタイトルも「決めきらないこの本 終章まとめ・・・ず視点をたくす」とあります。ゆえに、何か明確な解は示されません。

ただ、「能力主義」が当たり前となっている世の中において、それに待ったをかけるためには、「問いから始まる」というのは納得できることだな、とも感じました。

正直、じゃあどうするんだ??という疑問は残るのですが、世の中に流れる違和感に対して、すぐに答えを求めるのではなく、哲学してみたい、考える視点が欲しい、という方には特におすすめの一冊だな、と感じた次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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