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「性格的強み」が「ストレス対処」への力を高める?! ー看護師と一般混合グループ389名に行った研究ー

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しくださり、ありがとうございます。
さて、本日ご紹介の論文は「性格的強みは、ストレスへ対処する力を高めるか?」という論文です。

結論、「強みはストレスへの対処の力を高める」という話なのですが、研究設計をサンプル1(いろんな職種の混合グループ)と、サンプル2(看護師グループ)と2つの参加者に分けて調査したり、また「強み」も感情・対人・知的な強みなどと分けて調査したりすることで、奥行きのある内容になっていると感じました。

ということで、早速見てまいりましょう!

<今回のご紹介の論文>
『性格的強みとコーピング、仕事ストレス、職務満足度との関連性』
Harzer, Claudia, and Willibald Ruch. (2015). “The Relationships of Character Strengths with Coping, Work-Related Stress, and Job Satisfaction.” Frontiers in Psychology 6 (February): 165.


1分で分かる論文のポイント

  • 性格的強みは人がストレスフルな出来事に対して、どのように対処するかに関わっている。

  • 今回の研究では、以下のような仮説を検討した。「性格的強みがコーピング(ストレス対処力)と相関する」「性格的強みは仕事関連のストレスが職務満足度に及ぼす影響を緩衝する」。

  • そして、性格的強み・ストレス対処・仕事関連のストレス・職務満足度に関する質問を、2つの異なるサンプル(一般混合と看護師)合計389名を対象に実施し、分析した。

  • 結果、”性格的強みがコーピング(ストレス対処力)に関連している”ことがわかった。またより詳しくは、”看護師は「対人的強み」が特にコーピングに大きな役割を果たす”ことがわかり、”知的強みは仕事関連ストレスが仕事満足度に与える負の影響を媒介する”ことがわかった。

とのこと。

なるほど。性格的強みはストレスの対処力に影響があるようで、このあたりは予測に難くありません。では具体的にどのような研究を行ったのか、より詳しくみてまいりましょう。

ストレス対処(コーピング)の全体像

言わずもがなですが「ストレス」は、仕事をする上でも生きる上でも、常にそばに存在を感じている、ごく身近なものです。良い効果もあれば、悪く働くこともある。これを上手にマネジメントすることは、現代社会の一つの課題のようにも思えます。

ストレスの定義と特徴

そんなストレスですが、論文によると以下のような定義・特徴とのことです。

・ストレスは、人が「何らかの障害や支障、迫り来る脅威に対処するために懸命になる」時に発生する(Carver and Connor-Smith, 2010,)

・仕事関連のストレスは、しばしば従業員の不満、生産性の低下、欠勤、離職に繋がる(Landsbergis, 1988; Karasek and Theorell, 1990; Cooper and Cartwright, 1994等)。

・私達はストレスを直接的・関節的に発散または軽減するため、さまざまな方法でストレスに対処している (Carver and Connor-Smith, 2010) 。

ストレスは「懸命になる」時に発生する。そして、それらは生産性低下や欠勤、ひいては離職にも繋がりうる。よって、何かしらの形で、我々はコーチング(ストレス対処)を用いているし、組織としては、ストレス対処のスキルを提供することも、大事な人材開発のテーマの一つとも言えそうです。

「ストレス対処」の4つのカテゴリー

さて、「ストレスの対処」と連呼しておりますが、とはいってもその方法には様々なアプローチあります。たとえば、”社会的サポート”(同僚や家族からの支援を求める)でストレス対処、”運動”(ランニングや筋トレでスッキリする)でストレス対処、”認知的再構成”(ストレスの原因となる考えや信念を捉え直せないか考える)でストレス対処、などなど…。

その中で本論文では、ストレス対処の「気質的戦略」(ストレスフルな出来事に対する個人の特徴的な反応方法;Jankeら, 1985)という先行研究を軸に「ストレス対処」の概念を考えています。

Jankeら(2008)によると、気質的なストレス対処はし、大きくポジティブ対処法とネガティブ対処法というカテゴリーに分類することができる、としました。具体的には以下の内容です。

●ネガティブ対処法(Negative Coping Strategies:NES):
長期的にはストレス/緊張を軽減せず、増強する対処行動を伴うもの。
(例:逃避、引きこもり、反芻、諦め、自己憐憫、自己批判)

●ポジティブ対処法(Positive Coping Strategies:POS):
ストレスを軽減することを予測する対処法。更に3つのサブカテゴリーに分けることができる。
POS1,評価の切り下げ/防衛(Devaluation/Defence)
(認知的な対処法。自分のほうが他の人よりマシと思う、罪悪感をなくそうとするなど、ストレスを認知的に小さくしようとする)
POS2,気晴らし(Distraction)
(ストレスと無縁の状況や状態に集中する)
POS3,コントロール(Control)
(ストレッサーを積極的にコントロールしようとする)

ふむふむ。。。ネガ対処とポジ対処。
そしてポジ対処には、下位3つの概念が紐づくようです。

研究の全体像

この「ストレス対処」と「性格的強み」を中心の概念としつつ、研究の全体像が設計されました。以下、どのような研究だったのか見ていきます。

研究の仮説

先行研究では、”性格的強みと病気やトラウマの回復との関係がある”こと、あるいは”「知的な強み(好奇心や創造性など)はストレスの軽減に役立つ(問題解決のための合理的な戦略を生み出し、新しい道筋を探求するため、分析的な行動は、何が問題解決に役立ち、あるいは役立たないかを学ぶため、ストレスの軽減に役立つ)」などがわかってきました。

また、”「感情的な強み(勇敢さ、忍耐力、希望、大局観など)」には、積極的な行動が含まれる”こと、”看護師は対人的強みがストレス対処に大きく影響する仕事と考えられること”などを含めて、以下の仮説を検討することとしました。

仮説1:「知的強み」は、ストレス対処コーピングのあらゆるサブカテゴリー(すなわち、POS1~3)と正の相関がある

仮説2:「感情的強み」は、コントロール(POS3)が、切り捨て/防衛(POS1)と気晴らし(POS 2)より強く相関する。 

仮説3:看護師のサンプルでは、混合サンプルよりも対人関係の強さがポジティブコーピング(POS)と強く相関している

また、仕事関連のストレスと仕事満足度の関連についても検討しました。というのも、仕事上で課題に直面する頻度(ストレスの頻度)が、知的強みなどのを高める機会となり、性格的強みを学習することになるのでは? そして、学習した結果、職務満足度に間接的に影響を与えるのでは、と探索的な調査もすることにしました。

調査と分析方法

<参加者>
●サンプル1:ドイツ語を話す成人ボランティア214名( 男性71名、女性143名)で構成。平均年齢は38.28歳
●サンプル2:看護師用サンプル、異なる病院に勤務するドイツ語を話す病院看護師175名(男性11名、女性164名)平均年齢は 40.16歳

<調査尺度>
●「VIA-IS」:Values in Action Inventory of Strengths (VIA-IS; Peterson et al., 2005)
・VIA分類の24の性格的強みを5段階のリッカ ート尺度(1=とても自分らしくない、5=とても自分らしい)で回答する240項目からなる質問紙
・VIA-IS尺度は、主成分分析、副次 的なバリマックス回転、因子スコアの保存により、5つ の強み因子(感情的強み、対人的強み、自制心の強み、 知的強み、神学的強み)に還元され、さらなる分析に用いられた

●「ストレス対処」:ストレス対処目録(SVF120; Janke and Erdmann, 2008)
・気質的対処を測定する5段階リッカート尺 度回答形式(0=全くない、4=非常にありそう)の120項目からなるドイツ語の質問

●「仕事関連のストレス」:Job Stress Survey (JSS; Spielberger and Vagg, 1999)
・様々な職種の従業員にとってストレスとなる30の仕事関連事象の頻度(1=過去6ヶ月間に全く経験しなかった、9=常に経験する)および知覚される重大性(1=最もストレスが少ない、9=最もストレスが多い)を評価するアンケート

●「職務満足度」:GJS(Fischer and Lück, 1972)
・ドイツ語の質問紙 で、職務満足度を非常に幅広く測定するもの。 仕事の特定の側面とは関係のない2つの項目から構成されている(例:「私は自分の仕事を本当に楽しんでいる」、「あなたはどう思いますか:全体として、あなたの仕事は本当に面白く満足のいくものだと思いますか」)。回答は5段階のリッカート尺度(1=真実でない、5=真実)で示される。

<分析手順>
・サンプル1、サンプル2においてそれぞれ相関分析、また各指標を従属変数として回帰分析を行った。

結果わかったこと

サンプル1(混合グループ)よりも、サンプル2(看護師グループ)のほうが、職務満足度が高く、またより高いストレス頻度を報告している傾向がありました。それぞれ仮説に対応する結果としては、以下のような項目がわかりました。

わかったこと1:「知的強み」は、両グループのストレス対処法と関連があった

「知的強み」は、ストレスのポジティブな対初法と、3つのサブカテゴリと正のの相関があることがわかりました。これは仮説1を支持します。

わかったこと2:「感情的強み」は、両グループストレス対処と関連があった

「感情的な強み」は、仮説2で予想されたように、両サンプルとも、コントロール(POS3)が、切り捨て/防衛(POS1)および気晴らし(POS2)より強く関連していました。これは仮説2を支持します。

わかったこと3:「対人的強み」は、看護師グループのにストレス対処関連していた

「対人的な強み」は、 サンプル2(看護師)ではすべての対処戦略(すなわち、 POS、POS1、POS2、POS3、NEG)と関連していたが、サンプル1(混合サンプル ple)ではそのようなことはありませんでした。これは仮説3を支持します。

次に探索的な仮説検討で、仕事関連ストレスと職務満足度に、性格的な強みがどのように影響しているのかを検討しました。

わかったこと4:仕事のストレス頻度が高いと、知的強みが高くなる

「知的強み」は 、仕事関連のストレスを媒介して、職務満足度に影響に正の関連を示していました。つまり、「仕事のストレスが高いと、”知的強み”が鍛えられ、その結果、職務満足度が高まる」という可能性があります(厳密には因果はわからないものの)。
またこれは予想通りではありますが「職務満足度」は「仕事関連のストレスの頻度」が高いほど低下していました。

まとめと個人的感想

これまで、「コーピング(ストレス対処)」というキーワードは何度も耳にしていました。ただ、改めてストレス対処にも様々な戦略があることを、この論文で知りました。そして「ストレス対処の気質的戦略に、性格的強み(特に感情的強み・知的強み)が影響を与える」という視点は、「強みがストレス対処に役立つ」という大雑把な認識の奥にある深みを感じる話でした。

ディスカッションで、「性格的強みを高める介入方法がある』ことも触れられているため、ストレスへ対処するための強みの開発についても、また今後の論文探索でさらに深ぼってみたいと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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