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おすすめの一冊『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』

こんにちは。紀藤です。毎週日曜日はおすすめの一冊をご紹介する「今週の一冊」のコーナーです。今回ご紹介する一冊はこちらです。

本書のキーワードは一「命の使い方」です。
一つひとつの言葉に重みがあり、著者自身の稀有な体験である「国境なき医師団の現場から得た教訓」を目の前で聞いている、そんな読書体験を感じさせられる一冊でした。

『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』
村田 慎二郎 (著)
https://amzn.asia/d/00BibvZQ


本書の特徴

さて、本書の内容ですが、本書はタイトルにもある通り「国境なき医師団」の世界の紛争地域の現場を10年以上渡り歩いてきた著者による著書です。

本の中で目を見張るところは、日本で生きている私達が想像もできないスーダン、シリア、イラク、イエメンなど、砲弾が飛び交い、傷ついた人たちが運び込まれる医療キャンプで働く現場での経験談です。

5歳以下の死亡の半分が新生児であり、周辺地域の10倍以上の死亡率。
紛争地域であるため、自分自身の国から攻撃され、妻と子どもをなくし、自らの足も失った男性との出会い。
信頼している同僚が、拉致をされ、激しい暴行の上、殺害をされた経験。
コレラ等の感染が拡大する中で、医療行為を届けるために、宗教上のリーダーに対して、30人の武装をした人に囲まれながら交渉をする話。

一つ一つがどれもが「生き死に」が身近にありすぎる状況の中で、著者自身が、今の日本人に届けたい言葉を、一つ一つ丁寧に紡ぐように語られています。

著者がその五感を通じて体験したことを追体験することはできないことですが、その言葉のから一端を感じることができます。そしてその読書体験を通じて「自分は、何のために自分の命を使いたいのか?」を考えさせられるように感じるのでした。

本書の構成

さて、本書は、著者が最も届けたいコアメッセージである「命の使い方」について、6つのポイントに沿って届けられています。

1.世界……世界の現実を知る
2.アイデンティティ……「自分が何者であるか」の問いに決着
3.夢……「これができれば本望」という夢をもつ
4.戦略……夢を“ぼんやりとした夢”で終わらせない
5.リーダーシップ……組織や社会を改善するためのアクション
6.パブリック……一人ひとりができる世界をよくする方法

最初の「1、世界」では、紛争地域における医療現場からみた世界の一端が紹介されます。経済大国となった日本、そして基本的には命の安全が補償されている日本と対極にある世界の中を見ることで、「自分達の悩み(上司との関係など)」を俯瞰してみてみます。
(もちろん、それが取るに足らないという話をしているわけではなく、より大きな視点で見た時に、それはどう見えるのか、という視点の変更を促しているようにも思います)

そして、次に、「2,アイデンティティ」の話に繋がります。「命をどう使うか」を考えた時に、自分という存在を考えることは避けて通れません。そして、意識する・しないに関わらず、自分という存在は育ってきた環境の影響を受けています。
たとえば、日本という文化に生まれたこと、自分の父母・祖父母の教育の影響、出会った友達などなど。それらから、「自分の当たり前」「自分の信念(大事にしていること)」が形成されていきます。
 この抽象的なアイデンティティの話を、著者自身が海外で様々な人と出会う中で、全体の中の自分の立ち位置を含めて気付いたことを、理論的な話も振れながら、解き明かしくプロセスが語られます。

そして、自分の「3,夢」の話は、自分が何を実現していきたいのかどこの・誰に・どのようなインパクトを残していきたいのか、という方向性を持つことの重要性を問います。

そして夢の実現のために「4、戦略」どのように5年、10年先の未来に向けて行動していくのか、と続きます。

その上で組織や社会を巻き込む「5,リーダーシップ」の話へと転換していきます。ここではハーバード大学のハイフェッツ教授の理論と、著者の現場の体験談を往還しながら語られていきます。「リーダーシップはポジションではなく、アクションである」、自分の志を形にするために、どのように人に影響を与えていくかを考えていきます。

そして「6,パブリック」、自分(私)にとどまらない、パブリック(公)のために、自分自身をどう使うかということにつながっていきます。

自分と世界を繋げた命の使い方を考えさせられる本

「無私とは、自分を大きくすることだ」。

私の人生に大きな影響を与えた、7年前に参加したリーダーシップと日本文化を学ぶ私塾で、主催者から話されて、記憶に残っている言葉です、

「日本人に生まれたということ、そしてこの著書を手にすることができたということは、夢を選ぶ事ができる立場にいる人である」とも言えます。

せっかくその状況にいるならば、できれば「命を大きく使う」ことを目指してはどうか? 自分自身だけのためではなく、周りのため、社会のため、世界のために自分を使ってみたらどうか? そんなメッセージとともに力強く読者の背中を押します。

同時に、そのような「社会貢献」「自己実現」という流行言葉だけに流されない、現実を踏まえた道筋も示しています。
結局、何かを変えようとするには、まずは「自分自身がプロフェッショナルになる」ことが必要です。自力がなければ、他力を活かすこともできない。
そうした意味で、何かしら貢献することができる力を身につける事が大事である、と述べます(本当にその通りだと思います)。

まとめ

改めて読み進める中で、日本に生まれ、自分の家庭に生まれ、様々な運や出会いによって今ここにいるという偶然の積み重ねで出来上がった自分という存在は、これから「どこの誰に対して・どんなインパクトを残したいのか」という志を、改めて問われている気がしました。

それは意図してできるものではなく、”いきがかり”でそうなることもあるのかもしれません。しかし、そうした志を自分の言葉で最初は粗くとも定義し、少しずつ絞ることができたなら。
そして、その志をより結晶化し、発信することができたならば、自分という基準に対して「命を大きく使う」ことができるのだろう、そんなことを感じさせられました。

171ページと短い本ですが、ぐぐっと、胸に踏み込まれる一冊でした。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!


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