強みベースのコーチングの始め方 ~書籍『ストレングスベースのリーダーシップコーチング』(9)
こんにちは。紀藤です。本記事にお越しくださり、ありがとうございます。
本日も前回に引き続き「ストレングスベースのリーダーシップ・コーチング」をテーマにした書籍を紹介いたします。
前回のお話はこちら↓↓
第7章:組織におけるストレングス・ベースのリーダーシップ開発のコーチング
組織における「ストレングス・ベースのリーダーシップ・コーチング」の書籍も、理論編を抑えて、具体的な進め方のフェーズに入ってきました。
今回の章では、組織においてストレングスベースのリーダーシップ開発のために、どのようなポイントを押さえればよいのかが解説されています。ということで、早速みてまいりましょう!
(1)「開発の準備」を確認する
ストレングスベースの、ポジティブリーダーシップの開発は、すべての個人と組織にとって良いものとは限りません。ゆえに、開発の準備ができているかを確認する必要があります。
ちなみに、「開発準備」とは「リーダーシップの役割をより効果的に惹きつけるために、新しいより複雑な考え方に焦点を当て、それを意味づけ、発展させる能力と動機」と定義されています(Avolio,2010)。また、変化のプロセスにおいて、「準備」がどこに位置するかについては、こんな研究もあります。
たとえば、「ポジティブ・リーダーシップ開発?そんなの関係ねえ!自分には必要なし!」と思っていたとしたら、「1)前熟考(変化の必要性に気づかない)」状態です。ゆえに、開発は時期尚早と言えます。「開発の準備」はリーダーシップ開発を成功させるための前提条件の確認とも言えます。
個人と組織の「開発準備」状況のチェックの仕方
では、具体的に「開発準備」ができているかを、どのように評価すればよいのでしょうか? 本書では、以下のような質問を投げかけることが、開発準備の現在地を見極める上で、役立つと述べます。以下引用いたします。
上記の質問の答え方で、実施をすべきか、そうではないのか、ある程度判別ができそうに思えますね。
ステークホルダーの「開発準備」チェック項目
次に、ポジティブリーダーシップ開発は、ストレングスベースのリーダーシップ・コーチングによる介入を想定しています。このプロセスに関わるステークホルダーについての開発準備も触れられています。以下、内容をまとめます。
●コーチー(被指導者となるリーダー):
・被指導者がどの程度プロセスにコミットしているか?準備ができているか?リソースを持っているか?自己開発の履歴はどうか?自分の開発に責任を持っているか?
●ラインマネジャー(コーチーの上司):
・彼らのリーダーシップスタイルはコーチングアプローチに適合しているか?変化に対して敏感か?被指導者に対してどの程度のサポートをしているか?被指導者との関係の質はどうか?など
●人事スポンサー:
・被指導者が人材プールのどこにいるのか?組織の人材への考え方はどこか? ラインマネジャーと人事スポンサーの利害は一致しているか? 守秘義務の境界はどこに置くのか?他の人材開発の機会とどのように関連しているか?
介入の方法以前に、被指導者のコーチーとラインマネージャー(上司)との信頼関係や関わり方が整っていなれば、開発の効果は限定的になることが想像されます。
ストレンス・ベースのリーダーシップ・コーチングのプロセスと技術の要素
また、その他、「ストレンス・ベースのリーダーシップ・コーチングのプロセスと技術の要素」について、以下のようにまとめられていました。これも開発準備を検討する際の材料になりそうです。
(2)「ストレングスベースのリーダーシップ・コーチング」を始める
リーダーシップの戦略的目標を考える
次に、リーダーシップの目標を考えます。ここでは他者評価を含めた強みのアセスメントであるMLQ360の活用を例に挙げています。アセスメント結果から得られた強みについて話し合った後、コーチングの目標をいくつかにまとめる必要があり、3ヶ月程度のコーチング期間では、2~3つの目標が通常望ましいとしています。
また、リーダーシップの要素(信頼を築く、一貫した行動を示す、イノベーションを鼓舞する、他者を育てる)などについて、「自分のスキル」「パッション」「組織のニーズ」などの観点から、スコア化をして優先順位をつける方法も紹介されていました。
コーチングの関わり方のポイント
次にコーチの関わり方について「コーチングのFACTSモデル」(Blakey and Day,2012)も紹介されていました。
FACTSモデルは、個人のニーズだけではなく、組織のニーズに焦点を当てたコーチングが求められるようになったことから生まれました。サポートが多く、チャレンジが少ないと一般化される伝統的なコーチングアプローチの考え方に挑戦したモデルであり、このFACTSプロセスは、(ストレングスベースのアプローチに対する批判でもある)ポジティブなことだけに焦点を当てて、難しい会話を避けることを防ぐモデルとなっています。
コーチングの変化を持続させる
また、コーチングの関わりを職場に転移させ、持続させるためのポイントも述べています。曰く、”学習の多くは、職場に転移されず、時間の経過とともに急速に失われてしまうという証拠がある”(Baldwi and Ford,1988)とのことで、どうすれば、コーチングは持続するか?を検討する必要があるとのこと。そのためには、以下の3点がポイントになるようです。
(3)「ストレングスベースのリーダーシップ・コーチング」を評価する
次に、ストレングスベースのリーダーシップ・コーチングの評価です。
まず、評価のポリシーとしては「信頼性と妥当性のある心理測定方法を用いること」を述べています。以下のようなポリシーです
上記を踏まえて、形成的評価’プロセスの評価)と、総括的評価(今回の介入の総合評価)を考えることがポイントとなります。
形成的評価の質問
「形成的評価」とは、コーチングのプロセスを検証し、その提供に関して、何が上手く言ったのか、次の反復に向けて何を改善できるのかを確認するものです。こちらを評価するための質問は以下の通りです。
総括的評価の質問
総括的評価は、コーチングプログラムの個人、およびチームへの影響など、従来のコーチングおよびトレーニング評価の要素を総合的に検証するものです。コーチングを受けた人が、職場に持ち帰ることのできる知識、スキル、能力についても検討するために、以下の質問が有用とのことでした。
【「個人へのプログラムの影響」の評価】
*リーダーシップコーチングは
・リーダーシップに関する知識を深めましたか?
・自分の強みについて、新しい気付きが得られましたか?
・より高い積極性や楽観性を、生み出しましたか?
・より高いイノベーションと柔軟性を、提供しましたか?
・他者のエンパワーメントと開発を、促進しましたか?
・より大きなコミットメントとエンゲージメントを促進しましたか?
【「チームへのプログラムの影響」の評価】
・チームにポジティブな環境を生み出しましたか?
・チームのビジョンと目的を明確にしましたか?
・役割の明確さをより促進しましたか?
・チームメンバーのモチベーションを高めましたか?
また、リーダーシップコーチングの評価におけるMSF(マルチソースフィードバック)の活用で、上司・同僚・部下などからフィードバックを受けることは、はリーダーシップコーチングにおけるゴールドスタンダードとされています。(カークパトリックの評価で言えばレベル3(行動レベル)に相当します)
その他(コーチングの成果に与える要因)
また、コーチングの成果に与える共通要因として、
コーチの期待、共感、ラポール、ポジティブな見方などの資質が関係しており、特定のテクニックよりも大幅に影響力があると仮定されていまs.
また、心理療法の成果研究をコーチングにも適用できるとしており(McKenna and Davis,2009)より、プログラムの内容云々よりも、
1)クライアント・治療外要因(40%)
2)関係性・アライアンス(30%)
3)プラシーボ・希望(15%)
4)理論・技法(15%)
が成果に影響を与えているという考えもあるため、その点も考慮に入れるとよいかもしれません。
まとめと結論
ということで、組織内でのストレングスベースのリーダーシップコーチングプログラムを効果的に実施する方法について、いくつかポイントをピックアップしてまとめました。
ストレングス・ベースのリーダーシップ・コーチングを成功させるポイントとして以下4点まとめます。
改めて、コーチングだけやるのではなく、その準備が整っているのかを確認し、様々な人を巻き込み、丁寧に進めていくことが大切なのですね。
これだけやれば良い!というものは人材開発・組織開発においては存在しないよな、と改めて思った次第です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!