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強みベースのコーチングの始め方 ~書籍『ストレングスベースのリーダーシップコーチング』(9)

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しくださり、ありがとうございます。
本日も前回に引き続き「ストレングスベースのリーダーシップ・コーチング」をテーマにした書籍を紹介いたします。

<今回ご紹介の文献>
Strength-Based Leadership Coaching in Organizations:An Evidence-Based Guide to Positive Leadership Development』(組織におけるストレングス・ベースのリーダーシップ・コーチング:ポジティブなリーダーシップ開発のためのエビデンスに基づくガイド)_第7章より
Doug MacKie (2016)

前回のお話はこちら↓↓

第7章:組織におけるストレングス・ベースのリーダーシップ開発のコーチング

組織における「ストレングス・ベースのリーダーシップ・コーチング」の書籍も、理論編を抑えて、具体的な進め方のフェーズに入ってきました。

今回の章では、組織においてストレングスベースのリーダーシップ開発のために、どのようなポイントを押さえればよいのかが解説されています。ということで、早速みてまいりましょう!

(1)「開発の準備」を確認する

ストレングスベースの、ポジティブリーダーシップの開発は、すべての個人と組織にとって良いものとは限りません。ゆえに、開発の準備ができているかを確認する必要があります。

ちなみに、「開発準備」とは「リーダーシップの役割をより効果的に惹きつけるために、新しいより複雑な考え方に焦点を当て、それを意味づけ、発展させる能力と動機」と定義されています(Avolio,2010)。また、変化のプロセスにおいて、「準備」がどこに位置するかについては、こんな研究もあります。

【変化のプロセス】(Prochaska and DiClemente,1982)
1)前熟考(変化の必要性に気づかない)
2)熟考(変化について考える)
3)準備(変化を起こす準備をする)
4)行動(必要な行動を実際に行う)

たとえば、「ポジティブ・リーダーシップ開発?そんなの関係ねえ!自分には必要なし!」と思っていたとしたら、「1)前熟考(変化の必要性に気づかない)」状態です。ゆえに、開発は時期尚早と言えます。「開発の準備」はリーダーシップ開発を成功させるための前提条件の確認とも言えます。

個人と組織の「開発準備」状況のチェックの仕方

では、具体的に「開発準備」ができているかを、どのように評価すればよいのでしょうか? 本書では、以下のような質問を投げかけることが、開発準備の現在地を見極める上で、役立つと述べます。以下引用いたします。

【「個人の開発準備」のための質問】
Q、リーダーシップを高めるために、大変な経験をする準備はできていますか?
Q、このリーダーシップ開発プロセスに取り組む動機はなんですか?
Q、このプロセスによって、リーダーとしての自分の考え方がどう変わりますか?
Q,開発を維持・支援するためのリソースは何でしょうか?
Q,今回のLDPに参加するにあたり、どのような目標を立てましたか?
Q,自分の成長に必要なフィードバックを、周囲にどのように促しますか?

【組織の準備に関する質問】
Q、ストレングス・ベースのアプローチと既存のリーダーシップ開発の考え方は、どのように整合していますか?
Q、リーダーシップ開発についての考え方はなんですか?(成長思考か固定思考か)
Q、エグゼクティブ・リーダーシップ・チームは支援してくれますか?このプロセスに参加していますか?
Q、このプロセスは社内でどのようにサポートされますか?
Q、現在、他に競合する変革の取り組みはありますか?
Q、このプロセスは、学習と開発のフレームワークにどのように結合されるのでしょうか?

上記の質問の答え方で、実施をすべきか、そうではないのか、ある程度判別ができそうに思えますね。

ステークホルダーの「開発準備」チェック項目

次に、ポジティブリーダーシップ開発は、ストレングスベースのリーダーシップ・コーチングによる介入を想定しています。このプロセスに関わるステークホルダーについての開発準備も触れられています。以下、内容をまとめます。

●コーチー(被指導者となるリーダー):
・被指導者がどの程度プロセスにコミットしているか?準備ができているか?リソースを持っているか?自己開発の履歴はどうか?自分の開発に責任を持っているか?

●ラインマネジャー(コーチーの上司):
・彼らのリーダーシップスタイルはコーチングアプローチに適合しているか?変化に対して敏感か?被指導者に対してどの程度のサポートをしているか?被指導者との関係の質はどうか?など

●人事スポンサー:
・被指導者が人材プールのどこにいるのか?組織の人材への考え方はどこか? ラインマネジャーと人事スポンサーの利害は一致しているか? 守秘義務の境界はどこに置くのか?他の人材開発の機会とどのように関連しているか?

介入の方法以前に、被指導者のコーチーとラインマネージャー(上司)との信頼関係や関わり方が整っていなれば、開発の効果は限定的になることが想像されます。

ストレンス・ベースのリーダーシップ・コーチングのプロセスと技術の要素

また、その他、「ストレンス・ベースのリーダーシップ・コーチングのプロセスと技術の要素」について、以下のようにまとめられていました。これも開発準備を検討する際の材料になりそうです。


ストレングス・ベースのリーダーシップ・コーチングのプロセスと技術の要素

(2)「ストレングスベースのリーダーシップ・コーチング」を始める

リーダーシップの戦略的目標を考える

次に、リーダーシップの目標を考えます。ここでは他者評価を含めた強みのアセスメントであるMLQ360の活用を例に挙げています。アセスメント結果から得られた強みについて話し合った後、コーチングの目標をいくつかにまとめる必要があり、3ヶ月程度のコーチング期間では、2~3つの目標が通常望ましいとしています。

【目標の選び方の質問】
1,自分の何を変えようとしているか?エネルギーを感じるものはどれか?
2,どの目標が組織の必須事項と一致しているか?
3,どの目標が自分の価値観に合っているのか?
4,どのゴールが習得志向なのか?
5,自分が直面する課題をよりよく管理するためには、どのような目標が必要か?

また、リーダーシップの要素(信頼を築く、一貫した行動を示す、イノベーションを鼓舞する、他者を育てる)などについて、「自分のスキル」「パッション」「組織のニーズ」などの観点から、スコア化をして優先順位をつける方法も紹介されていました。

例。左側が変革型リーダーシップの強み二関連する要素。

コーチングの関わり方のポイント

次にコーチの関わり方について「コーチングのFACTSモデル」(Blakey and Day,2012)も紹介されていました。

FACTSモデルは、個人のニーズだけではなく、組織のニーズに焦点を当てたコーチングが求められるようになったことから生まれました。サポートが多く、チャレンジが少ないと一般化される伝統的なコーチングアプローチの考え方に挑戦したモデルであり、このFACTSプロセスは、(ストレングスベースのアプローチに対する批判でもある)ポジティブなことだけに焦点を当てて、難しい会話を避けることを防ぐモデルとなっています。

【コーチングのFACTSモデル】(Blakey and Day,2012)
●Feedback(フィードバック)
・コーチは、被指導者に対してチャレンジングで直接的なフィードバックを提供しているか?
●Accountability(説明責任)
・コーチは、被指導者が約束した行動に対して、説明責任を果たしているか?
●Challenge/Courageous Goals(チャレンジ)
・コーチは建設的な方法で、被指導者にチャレンジを促し、変化に伴う違和感を経験するように促しているか?
●Tension(緊張感)
・根本的な関係性を損なうことなく、重要な問題を十分に検討するために、コーチはどのようにしてプロセスの緊張感を保つのか?
●System Thinking(システム思考)
・コーチはどのようにして、被指導者に影響を与える状況的要因と、それらの要因に対する被指導者の反応の両方に焦点を当て続けるのか?

コーチングの変化を持続させる

また、コーチングの関わりを職場に転移させ、持続させるためのポイントも述べています。曰く、”学習の多くは、職場に転移されず、時間の経過とともに急速に失われてしまうという証拠がある”(Baldwi and Ford,1988)とのことで、どうすれば、コーチングは持続するか?を検討する必要があるとのこと。そのためには、以下の3点がポイントになるようです。

【コーチングの変化を持続させるポイント】
1,周囲の人々のコーチングの洗練度を高めること(周りの人が高度なコーチングを受けていたら、サポートを提供しやすくなる)
2、被指導者のラインマネジャーがコーチングプロセスにおいて継続的に関与すること
3,コーチングのゴールは、組織開発計画に組み込まれ既存のパフォーマンス評価の一部として定期的に見直されること

(3)「ストレングスベースのリーダーシップ・コーチング」を評価する

次に、ストレングスベースのリーダーシップ・コーチングの評価です。
まず、評価のポリシーとしては「信頼性と妥当性のある心理測定方法を用いること」を述べています。以下のようなポリシーです

【介入の評価のポイント】
1)MLQ360のような検証されたリーダーシップ測定法を中心とした複数の評価者によるフィードバックを含まなければならない。
2)評価のタイミングを考慮する必要がある(リーダーシップ能力の向上、フォロワーのエンゲージメントの向上、フォロワーの努力の増加などは組織内での作用に時間がかかる)
3)カークパトリックのプロセスのように自己評価だけに依存しないこと。

上記を踏まえて、形成的評価’プロセスの評価)と、総括的評価(今回の介入の総合評価)を考えることがポイントとなります。

形成的評価の質問

「形成的評価」とは、コーチングのプロセスを検証し、その提供に関して、何が上手く言ったのか、次の反復に向けて何を改善できるのかを確認するものです。こちらを評価するための質問は以下の通りです。

【「コーチング・プロセス」の評価】
*コーチは・・・
・あなたとの信頼関係を築くために時間を費やしていますか?
・あなたを助けてくれると確信しましたか?
・自分の役割や業界を理解していますか?
・あなたの成長にコミットしているように見えますか?
・挑戦とサポートのバランスを持ち、関わっていますか?
・自分の行動に責任を持つよう、促しましたか?

【「コーチー(被指導者)の質」の評価】
*コーチー(被指導者/コーチされる人)は・・・
・積極的に参加することを選択しましたか?
・各セッションに対して、準備しましたか?
・アジェンダ設定に協力していますか?
・新しい戦略やアプローチを試しましたか?
・コーチングプロセスにラインマネジャーを関わらせましたか?

【「組織的要因」の評価】
*組織は・・・
・コーチングのカルチャーを示しましたか?
・開発の機会を提供しましたか?
・スキルの現場への転移を、促進しましたか?
・学習と開発のフレームワークにコーチングを組み込みましたか?
・成長志向のモデルを持っていますか?

総括的評価の質問

総括的評価は、コーチングプログラムの個人、およびチームへの影響など、従来のコーチングおよびトレーニング評価の要素を総合的に検証するものです。コーチングを受けた人が、職場に持ち帰ることのできる知識、スキル、能力についても検討するために、以下の質問が有用とのことでした。

【「個人へのプログラムの影響」の評価】
*リーダーシップコーチングは
・リーダーシップに関する知識を深めましたか?
・自分の強みについて、新しい気付きが得られましたか?
・より高い積極性や楽観性を、生み出しましたか?
・より高いイノベーションと柔軟性を、提供しましたか?
・他者のエンパワーメントと開発を、促進しましたか?
・より大きなコミットメントとエンゲージメントを促進しましたか?

【「チームへのプログラムの影響」の評価】
・チームにポジティブな環境を生み出しましたか?
・チームのビジョンと目的を明確にしましたか?
・役割の明確さをより促進しましたか?
・チームメンバーのモチベーションを高めましたか?

また、リーダーシップコーチングの評価におけるMSF(マルチソースフィードバック)の活用で、上司・同僚・部下などからフィードバックを受けることは、はリーダーシップコーチングにおけるゴールドスタンダードとされています。(カークパトリックの評価で言えばレベル3(行動レベル)に相当します)

その他(コーチングの成果に与える要因)

また、コーチングの成果に与える共通要因として、
コーチの期待、共感、ラポール、ポジティブな見方などの資質が関係しており、特定のテクニックよりも大幅に影響力があると仮定されていまs.

また、心理療法の成果研究をコーチングにも適用できるとしており(McKenna and Davis,2009)より、プログラムの内容云々よりも、
1)クライアント・治療外要因(40%)
2)関係性・アライアンス(30%)
3)プラシーボ・希望(15%)
4)理論・技法(15%)
が成果に影響を与えているという考えもあるため、その点も考慮に入れるとよいかもしれません。

まとめと結論

ということで、組織内でのストレングスベースのリーダーシップコーチングプログラムを効果的に実施する方法について、いくつかポイントをピックアップしてまとめました。

ストレングス・ベースのリーダーシップ・コーチングを成功させるポイントとして以下4点まとめます。

【ストレングス・ベースのリーダーシップ・コーチングを成功させるポイント】
1)ストレングスベースのリーダーシップコーチングのテクニックの習得だけでは不十分である。
2)個人と組織の両方が変革に向けての準備が出来ていることが必要。
3)本プロジェクトに関係者(ステークホルダー)が参加していることが不可欠である
4)MSFを活用したフィードバック手段を検討し、投資効果を明らかにすることが重要である

改めて、コーチングだけやるのではなく、その準備が整っているのかを確認し、様々な人を巻き込み、丁寧に進めていくことが大切なのですね。

これだけやれば良い!というものは人材開発・組織開発においては存在しないよな、と改めて思った次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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