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The Killers / Imploding The Mirage (2020) 感想


とにかく頭2曲

 延期になっていたThe Killersの新作がようやくリリースされました。先行で公開されていた数曲を聴いた時点ではピンと来ていませんでしたが何のその、The Killers史上一疾走感、開放感、爽快…といった言葉の似合う、久々の快作でした。

 アルバム冒頭の2曲、とにかくこれでもう降参です。まずは2017年の前作「Wonderful Wonderful」の疾走感溢れる名曲"Run For Cover"を更にハイパーにしたような"My Own Soul's Warning"。サビかと思って聴いてたらその後に本当のサビがくる過剰なまでのポップさは、キラーズ聴いてる!という感情を高めてくれます。"When You Were Young"、"Runaways"とかのあの感じです。

 続く"Blowback"は、2000年代のU2もかくやというポップさと切なさの同居するこれぞ!な名曲です。サビで徐々に盛り上がってきたところでスッと♪"It's just a matter of time"と落とすところ、これこそ彼らの匠の技です。ハイパーな前曲からの緩急も完璧で、今作のピークは間違いなく、この冒頭2曲にあります。

頭だけじゃない

 最初がピークといっても心配無用です。その後も疾走感、開放感に溢れるアンセミックなロックソングが続く前半は聴いてて気持ち良いですし、少し凝ったアレンジの曲が続く後半にも、前作のような迷走感はありません。全10曲40分少しという締まった構成のお陰もあり、冒頭の勢いのまま聴き倒すことができます。
 
 6曲目、エレファンクな"Fire Is Bone"はイントロがダメな時のThe Style Councilみたいでどうしようかと思いましたが、キラーズ節のポップなサビのお陰で不思議と癖になりますし、後半にかけて盛り上がる"When The Dreams Run Dry"〜人を食ったようなポップさのある"Imploding The Mirage"と続くラストは荘厳に終わりがちなThe Killersのアルバムにおいて独特の存在感を放っています。

吹っ切れた

 今作が快作となった最大の理由は、本人たちもインタビュー等で語っている通り、ビッグになり過ぎたバンドに距離感を感じて離脱したギタリスト、Dave Keuning(と体調的・精神的不調のベーシストMark Stoermer※今作にも一部参加)との不和・不参加から吹っ切れたことでしょう。
 今にして思えば、前々作「Battle Born」はDaveに気を使ったかのようなギター・ロック作(あれはあれで大好きです)、前作は彼の不在が大半を占めたことによる迷走感がモロに出た作品でしたが、今作では遂に「DaveがいないのにDaveがいるように聴こえる曲を作るのは不誠実に感じた」と吹っ切れたといいます。

 その証拠の一つが、新たなプロデューサーの起用です。これまでStuart Price、Jacknife Leeなど長年の付き合いの大物と組んできた彼らですが、今作の多くはいまやUSインディー界の必殺仕事人であり彼らと同世代でもある、FoxygenのJonathan RadoとShawn Everettがプロデュースしています。

 従来の、レイヤーを何層にも重ねたド派手で耳が痛くなるような(褒めてます)音作りから、その特徴は残しつつも幾分整理された、ふくよかな音に今作で変化したのは彼らの仕業でしょう。バンド感、勢いという面では過去作に劣るかも知れませんが、キラーズはもはや勢いを求めるようなバンドでもないでしょうし…。
 
 そんなプロデューサーの人脈からか、今作のゲスト陣にはK.D. LungやWays Blood、The War On DrugsのAdam、Alex Cameronなどいかにもな人々が並んでいます(何気に彼らのアルバムにフィーチャリングアーティストがいるのは初めてだったりします)。
 こうしたザ・USインディーな人々との交流が、かつて「グラマラス・インディー・ロックンロール」を標榜してデビューした彼らのアイデンティティ再発見に寄与したことは想像にかたくかりません。その辺りも、今作の楽曲群に漂う開放感の一因なのではないでしょうか。

点数

7.9

 バンドメンバーの離脱を経ながらも自身を見つめ直し、快作をモノにした彼らですが、今作のクレジット、The Killers Are:の後にはDave、Markを含む、デビューから不動の4人の名前のみが記されています。

 ロックが死に体となった2020年にハイパー、グラマラスかつインディーなロックンロールをかまし、ロックバンドのストーリー性、ロマンを感じさせてくれるバンド。私にはまだまだ、The Killersが必要です。

(参考にしたインタビュー記事)


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