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Brandon Flowers / Flamingo (2010) 感想

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早くリリースしてほしい

本来ならば5/29にThe Killersの新作「Imploding The Mirage」がリリースされている筈でしたが、コロナ禍により発売延期(時期未定、2020年中には出る予定)になってしまいました。そうと知らずに29日の日付変更とともにそわそわとApple Musicにアクセスした私はまるでピエロじゃありませんか。その他にも亀と山Pやこの春一楽しみにしていたJarvis Cockerの新バンドJarv Isのデビュー作等、この春にリリース予定であった多くのアルバムが延期になっています。

勿論メジャーであればある程商売としての規模も大きくなるので、フェスがなければツアーもできない、プロモーションがロクにできない現在の状況下ではリリース延期という判断になることも理解は出来るし賛否あると思いますが、楽しみにしていたファン心理としては逆に家にいる時間が長い今ほど、延期せずにリリースして欲しいと思ってしまいます。せめてMystery Jetsみたいにフィジカルだけ延期してデジタル/ストリーミングだけリリースするとか…。

だからこそ4月のアルバムリリースを延期せず、その理由を「話には出たけど価値はないと思った」と言い切ったThe Strokesやロックダウン中にアルバムを完成させてリリースしたCharli xcxが頼もしく、Haimが4月から一度夏へ延期したリリースを「やっぱり待ちきれない!」と再度6月に前倒ししたことには軽い感動を覚えたりもしました。

1人キラーズ

そんなこんなで悲しみを紛らわすためにThe Killersの関連作を改めて聴き漁っていたところ、基本的に鶏白湯のような、超絶美味ながらも聴くのに気合が必要なコッテリ味のThe Killersの諸作に比べて、鶏出汁醤油のように深いコクがありながらもスッキリした味わいの、このフロントマンBrandon Flowersのソロ1stが今の気分に一番しっくり来ました。

アルバムの内容は、何種類かある内の、トップにしたデラックス版のジャケットがよく表していると思います。The Killersがラスベガスのネオン街、そしてそこで働く市井の人々が帰る郊外の家庭を描いているとすれば、今作はラスベガスの夜景をホテルの窓から一人で眺めているかのようなアルバムです。世間では勝ち組と思われているビジネスマンが、ある日出張で摩天楼を臨むホテルで1人になってふとした時に、このままなんとなく生きてるだけでいいんだろうか?流されて生きてるだけなんじゃないか?と自分の人生を振り返ってドツボに…みたいな。煌びやかな音の中に哀愁が漂っています。

そう、今作はアレンジの面では基本的にシンセやブラスを派手に使用した煌びやかな、バンドから地続きの音になっています。Brandonがソロデビューの理由を「前作(2008年の3rd「Day & Age」)のツアーが終わってすぐにバンドの新作を作りたかったけど他のメンバーが休みたがった」(国内盤CDライナーノーツより)と語っていることからも、今作がバンドとは違う音楽性を追求したいがためのソロ活動ではなく、タイミングの問題で産み落とされた1人キラーズであることが分かります。実際に一部の曲では演奏にバンドのメンバーも参加しています。

ではバンドとの違いは何か。それはオヤジ臭さにあります。このアルバム、バンドに比べてオヤジ臭いのです。その理由は、バンドの時も時折垣間見えたBruce Springsteen成分の濃さです。

全体的にテンポやリズムが落ち着いており、曲調的にはキラーズの代名詞であるニューウェーブではなくアメリカンロック、中でもBruce SpringsteenやTom Petty等の所謂ハートランドロックに近い感触があります。はっきりと言ってしまえばアメリカンロックの中でも一番オヤジ臭い部類です。これをシンプルなギターサウンドでまとめていればアメリカンロックの名盤となっていたでしょう。バンドの方でもそういった風味の曲はなくもないですが、成分の濃さの問題です。

それをギリギリで、周りには畑しかないようなアメリカ郊外のハイウェイ(ハートランドロックの個人的イメージです)ではなく摩天楼のイメージを抱かせる要因が煌びやかなアレンジです。しかしそれも4ピースのくせに意地でもギターを3本以上重ねるような、実はかなり偏執狂的にアレンジにこだわりを見せるバンド本体に比べて、ギターもシンセの量も控えめでスッキリした味わいなのがソロたる所以でしょうか。この辺は今になってみれば今作の後に出た、The Killers史上一Bruce Springsteen成分が濃いギターロックアルバムである2012年の4th、「Battle Born」と聴き比べてみるとよく分かります。

Hard Enoughという名曲

アルバム冒頭の"Welcome To Fabulous Las Vegas"、このラスベガスという街の美しさと残酷さを歌い上げる、初っ端から壮大なバラードがメロディ、サウンド、そして歌詞の世界観全てにおいてこのアルバムを象徴している一曲だと思います。しかしながら今作のアメリカンロックと煌びやかなニューウェーブの融合の究極系と言い切ってしまいたい、私が今作で最も好きな曲が3曲目の"Hard Enough"です。オルタナ・カントリー畑のJenny Lewisがコーラスに参加しているといういかにもなカントリーフレーバー漂う曲ですが、シンセを主体にしたアレンジがパッと聴きカントリー、田舎ではなく摩天楼を想起させて堪りません。そして切ないメロディとJennyのコーラスに乗せて歌われるのは、およそハートランドロックらしくない「君も辛いだろうけど僕も辛いんだ!」という女々しさ。これを最高と言わずして何と言いましょうか。

その後もポップな"Jilted Lovers & Broken Hearts"に"Magdalena"、よくこれを取っておかずにソロで使ったな...というThe Killersまんまなバラード"Crossfire"、ゴスペルチックな"Playing With Fire"、"On The Floor"と一切手加減なしの曲達が怒涛のように繰り出されます。フロントマンのソロというとバンドの息抜き的な展開になりがちですが、ここまでやり切るBrandonは凄い。

唯一今作に難があるとすれば、やはり演奏面でパンチが足りなく感じてしまうところでしょうか。しかしそれも含めて、これならバンドでやればよくね?と言わせないソロならではの味を出しつつもやっぱりThe Killersが一番!と思わせる当たり、The Killersの休憩中にフロントマンが出したソロアルバムとしては理想的な仕上がりだと思います。

おススメ曲

その1: 3. Hard Enough

動画は米ラジオ局でのスタジオライブです。アルバムよりもアコースティックなアレンジですが、カントリー、アメリカンロック風味が漂う曲なのにおやじ臭くならないメロディー、アレンジの妙を十二分に感じ取ることができます。

他の男が愛しい君と話していると考えたら耐えられない/君がその腕に僕を抱いてくれないとしたら、今夜は一体どこにいればいいんだ/君にとって辛いことだったのは分かってる/僕にとっても辛いことだった/時代の変化についていけてると自分に言い聞かせてきた

その2: 8. Crossfire

The Killersのアルバムに入っていても何ら違和感のないアンセミックなバラードです。この曲を惜しみなくソロ作に使うこと、そしてそれが終盤に位置してアルバムの最後まで気を抜かせないあたりに、近年のバンドでは稀に見るほど「売れる」ことへのこだわりを見せるBrandonの本気を感じます。かのシャーリーズ・セロンが囚われのBrandonを何度も助けるという謎のMVも最高です。完全なるハリウッド女優の無駄遣い。

その3:1. Welcome To Fabulous Las Vegas

ソロ作ながらもThe Killersファンを裏切らない煌びやかかつ壮大な音が聴けること、しかしながらそのハートランドロックみ溢れるメロディーでやはりThe Killersとソロは違うこと、この2つがアルバム冒頭からはっきりと提示されます。この今作でも指折りに派手なアレンジの曲がシングルにならないところにBrandonの本気を感じます。

点数

7.9

良作ではありますが、聴けば聴くほどThe Killersが恋しくなります。とりあえず今作を筆頭とした旧作を聴きながら新作を待ちたいと思います。

しかし新作のシングル曲が今のところ、残念ながら過去の名曲群を聴いた時ほど滾りません。その原因は前作「Wonderful Wonderful」(2017)からブライアン・メイみたいな見た目のギタリストDave Keuningとただただ地味なベーシストMark Stoermerがバンド活動に距離を置き始めてしまったせいだと思います。

本作に足りないものを考えた時、The Killersの過去の名曲群、"Jenny Was A Friend Of Mine"イントロのベース「ドゥーッドゥルッドゥドゥドゥン」や"Mr. Brightside"のギターのアルペジオに代表される数々の印象的なリフ/フレーズ、そしてパワフルなドラム("Spaceman"サビ前のつんのめったフィルイン最高)といった、一見地味な楽器陣がどれだけThe Killersというバンドの魅力を担っていたのか、バンドのケミストリーというものを改めて考えさせられます。かのFleetwood MacのLindsey Buckingham(新曲"Caution"でギターを弾いています)をもってしてもその穴を埋めるには至っていません。それでも「Wonderful Wonderful」には、例えバンドが一枚岩でなくても今までにない力技でねじ伏せる"The Man"という曲がありましたが、新作のこれまでに公開された2曲からはいまいちその力が感じられません。果たして。

因みにギタリストのDaveも昨年Keuning名義でソロデビューを果たしています。ブライアン・メイな見た目に反してAshの"True Love 1980"のような胸キュンシンセポップが詰まった良作で、地力の高さを見せつけてくれています。




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