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Paul Weller / On Sunset (2020) 感想

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困ったな

リリースまで延期に延期を重ね、その間に過去作を聴き倒し、期待を高めまくってようやく聴くことができたPaul Wellerの「コズミックなソウル」だという最新作。ようやく聴けた感想は困ったな…でした。

ソウルフルなソングライティングと御歳62歳!の大御所とは思えない多彩な展開・アレンジで聴かせる力作であるとは感じるものの、困ったことに焦らされたことと小出しにされる今作からのシングルでこちらの中で上がりに上がったハードルを上回るものではありませんでした。何故でしょう。

凝りすぎ

結論から言うと、曲をこねくり回しすぎなのだと思います。Paul Wellerがほっとけばいい曲を量産することなんて小倉智昭でも知っています。実は今作を含めたここ10年くらいのアルバムは駄作など全くないもののそこまで気に入ってもいないものが多いのですが、それはシンプルに演奏すれば名曲になりそうな曲にいやに凝ったエフェクトをかけ、結果焦点がぼやけてしまう傾向があるからです。

冒頭のソウルフルなバラードが唐突に挿入される歓声のサンプリング等で7分に引き伸ばされる"Mirrorball"からしてそれいらないんじゃ、と言いたくて仕方ありません。NMEや国内盤ライナーノーツで今作のハイライトとばかりに褒められてますが本気なんでしょうか。

中盤、アウトロのジャムがあまり面白くもないのに長々と続く"More"や、タイトル曲"On Sunest"にしてもストリングスで飾り付けて無理矢理コズミックさを演出しているようにしか思えません。

The Style Council時代の盟友Mick Talbotが参加したハモンドオルガンがイカすR&B"Baptist"〜後半にかけて盛り上がる展開がかっこいいファンクポップ"Old Father Tyme"〜先行リリースされたオーケストラルなソウル・ポップ'Village"といった、比較的シンプルなアレンジで聴かせる前半やラストの"Rocets"などは一部展開がくどいものの素直に素晴らしいですし、ソウル色強めなソングライティングが際立つ今作にはこういったアレンジ、合ってないのではないでしょうか。

懐古厨と言われても

Simon Dineと組んだ「22 Dreams」(2008)以降、自分より一回り下の世代のプロデューサーと組むようになったあたりからこういった、曲をこねくり回す傾向が顕著になっていったと思います。それまでのモッドファーザーとか言われてた10年を経てDJ畑の若手と組み、持ち前の「変わり続ける男」精神が刺激されたのでしょう。勿論それこそが彼のカッコよさ、我々ファンが惹かれる大きな要因でもあります。50歳、60歳で「今度はこう来たか!」と思わせてくれるアーティストなんて稀です。その衰えないルックス(最近は流石にシワが深いですが)も含めていろんな意味で故David Bowieに近い域にいる人だとさえ思います。

しかし、では今その時期の作品、例えば「Wake Up The Nation」(2010)や「Sonik kicks」(2012)から今でもライブでハイライトになるような曲があるか?と言われると正直、首を傾げざるを得ません。特に前者はもっとシンプルなアレンジにしていれば…と思ってしまいます。トレンドを追いかけるあまり自身の魅力を見失ってしまった後期のThe Style Councilと通ずるものがあるようなないような。

今作のような円熟味を帯びたソウルフルな曲群を、ソリッドかつ無骨な演奏で録ることに長けたソロ初期のプロデューサー、Brendan Lynchともう一度組んで録音して欲しいとずっと願っているのですが、過去を振り返らない変わり続ける男とって過ぎたことなのでしょう。

オススメ曲

■ Earth Beat

軽快なソウル風のメロディ、リズムとシンセ、エレクトロニクスが浮遊感を感じさせる音は今作への期待を高める役割を果たすのにはぴったりでした。この曲はこねくり回しの成功例です。全曲こうならカッコよかった。

■  Village

こちらもまた、爽やかなメロディと軽快なリズムを華美なストリングスが彩る、今作随一ストレートなポップソングです。どことなくソロの初期〜中期の間くらい、「Illumination」(2001)あたりの空気感かもしれません。ストレートで恥ずかしい歌詞も素敵です。

■ Mirrorball

踏み絵的な曲です。この曲をカッコイイー!と思える人は今作を気にいるでしょうし、なんか長いな、と思う人はあまりハマらないでしょう。この曲を褒めまくってハードルを上げたNMEにも責任があると思います。

点数

6.4

Paul Wellerほ長年そのオシャレさでUKロック好き男子のアイコンでしたが、最近のセミロングはどうも…。いろんな意味でモッドファーザー、まだまだお願いします。

(参照記事)






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