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Paul McCartney / Flaming Pie (1997) 感想

 

ありがたいリイシュー

 言わずと知れたThe Beatlesのベース、Paul McCartneyの1997年のアルバムが、本編のリマスターにデモやB面を加えた「アーカイブ・コレクション」シリーズの一環としてリイシューされました。今作を聴くのは初めてでしたが、なかなかどうしてカッコいいです。

 客観的に見ると、彼のビートルズ以降のキャリアは、ビートルマニア以外には全くと言っていいほど振り返って語られることがありません。
 ディスグガイドとか○○年代ベストなどのメディアの企画でも、1973年の大名盤"Band On The Run"がたまに出てくるくらいで、以降の作品は殆ど語られることがありません(実際聴いてみると、それも分からなくもありません)。
 サブスクがなかった時代にはCDの廃盤により中古相場が高騰していたこともあり、後追い世代としてはどうしても聴かずにきてしまっていました。
 
 なので近年この「アーカイブ・コレクション」シリーズが(Wings後期よりも先に)、80年代〜90年代の作品を取り上げ、聴くきっかけを作ってくれていることには感謝しかありません。

燻銀なポール・マッカートニー

 正直なところ、今作は総合的にみると「ビートルズとは比べるべくもないが、所々に往年の冴えがみえる」という、いつものPaulのソロアルバムという感想です。
 ではどこがかっこいいかというと、ことビートルズに絡んだ時には不満も多いE.L.O.のJeff Lynneのプロデュースが今作ではバッチリはまり、Tom Petty風のビートルズとでもいうか、これまでのPaulの作品になかった燻銀なかっこよさがアルバムを通して溢れているところです。

 Tom Pettyをプロデュースした時にはポップすぎてアメリカンロックの燻銀な魅力を台無しにするなんて批判もあるJeffですが、今作はその逆。アコギを強調した今作のプロダクションは、聴く側としても「どれくらいビートルズか」に耳が行きがちなPaulのアルバムに、これまでになかった燻銀な魅力を与えてくれています。
 Jeff Lynneプロデュースと聴いた瞬間にすぐわかる、ど真ん中でパサパサ鳴るドラムは時に時代を感じることもありますが、今作ではそこまで気になりません。

 一曲目、ドリーミィな"The Song We Were Singing"の後の"The World Tonight"の流れでもっていかれます。後者はハードボイルドな時のTom Pettyみたいな曲なのに、メロディはしっかりPaul印のポップネスを湛えていて耳を掴まれます。
 ビートルズを期待する向きには、終盤に必殺のバラード"Beautiful Night"もあり、発売当時で既にキャリア30年超にして新たな魅力を打ち出す恐ろしい作品です。
 
 ただ全14曲60分弱と長い割に埋め草的な、あまり記憶に残らない曲も多く(御大George Martinプロデュースのソフトな2曲は今作にはなくてもよかった気がします)、やはり総合的には「ビードルズとは比べるべくもないが、所々に往年の冴えがみえる」、いつものPaulのソロアルバムに落ち着くのでありました。

オススメ曲

■ 13. Beautiful Night

 今わざわざ90sのPaul McCartneyを聴こうという人で、この曲が嫌いな人はいないでしょう。必殺のバラードです。メロディー、ストリングス、ビードルズというよりはいかにもJeff Lyneな分厚いコーラスワーク、最後の転調、全てが完璧な「Paul McCartneyのバラード」です。至福。

■ 2. The World Tonight

 聴いてびっくり、まるでTom Pettyです。彼のJeff Lynneプロデュースの2006年作"Saving Grace"は今作が頭にあったのかなという気がするほど。終盤ピアノが入ってどんどんアレンジがサイケになっていくのはPaulとJeffの意地を感じます。

■ 3. If You Wanna 

 基本的にはPaulとJeffの2人で制作されという今作ですが、この曲では数少ないゲストとしてブルースロック畑のSteve Millerが参加しギターを弾いています。今作の燻銀な印象は序盤でThe World Tonightとこの曲が続くからかもしれません。流れるようなギターがカッコよろしいです。今作のSteve Millerが参加している曲は全ていいです。

点数

7.0

 例の如く大量のデモやアウトテイクが加えられた今作のリイシュー。私が聴いたのは収録曲のホームレコーディングが追加された2枚組ですが、まあこれはファン向けの内容でした。



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