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メンズ服を着たら強くなれた気がした


久しぶりにメンズ服のようなものを着た。
推しの受注生産シャツだった。たいして見もせずに決済した。良い子はこんなことをしてはいけない。
届いたのは推しのロゴが入った、世界一かっこいいメンズシャツだ。
なぜメンズかというと、レディース/メンズ 表記がなく、MかLかの二択だったからだ。ボタンの位置がメンズ服だったから、きっとメンズ想定なのだろう。

しかし、普通のメンズ服とは違うことはすぐ分かった。胸囲が広くとられており、脇下の布はダボダボではなく女性にちょうどよさそうな細さで、わざとなのかは分からないが普通の服より生地が硬かった。

推しはジェンダーに配慮してくれる。配慮といえば聞こえが悪いので優しく言うと、現代日本の価値観でいうところの『普通』の枠からはみ出ている人たちのことを気にしてくれる。

その服を着て外出してみた。少し丈が長かったから、中にTシャツを着て、推しのシャツは上着のように羽織り、ジーンズを履いて、夜の駅前へとくり出した。

誰も自分には注目していないようだった。そりゃあこの暑い夏に長袖シャツを着ている(しかも黒色)人を見るとぎょっとした目を向けられるがそれも一瞬で、すぐ帰路に足を進める。夜は皆帰ることに必死で、誰も人間に興味ないから気が楽だ。

メンズ服を着て、自分は少し強くなったような気がしていた。
硬い生地は胸のふくらみを隠してくれる。黒い服は自分をかっこよく見せてくれ、かつ余っている布がないためスタイル良く見える。

歩きながら、メンズシャツを着ていた中高生時代を思い出した。
あの頃は今より性別違和が強かった。ちょうどレディースシャツが(肩幅の関係で)サイズアウトしていたため、制服には、指定のスカートの上にメンズシャツのMを着ていた。
今着ているシャツよりずっと脇下の布が多く、首周りの襟も大きく余り、下着が見えるか見えないかくらいの開き方だった。そのおかげで夏はずいぶん涼しかったが。
メンズ服は、自分を強いと思わせてくれるアイテムだった。

制服のある学生時代が終わり、今は専らワンピースやスカートを着ている。暑いから。しかし、自分がどんどん『女』になる感じがして嫌だった。ワンピースを着たところで弱くなるはずもないのだが、周りからは『女』だと思われているだろうことが嫌で、そう扱われるたびに『女』寄りになっていく自分が怖かった。
メンズ服は良い。現代日本で強い権力を持つ『男』とかいう人種が着ている服だから。それに、単純にかっこいい。男性の体は凹凸が少なくて、すらっとしている男性は本当にかっこいい。自分もこうなりたいと思う時はよくある。今も。

今日、久しぶりに自分の一部を取り戻した。
メンズ服を着て、強くあろうとした自分。
ショーウィンドウに展示されているメンズのかっこいい服を着たいけれど、胸のふくらみが邪魔で、かと言って隠す専用の下着を買いたいわけでもなく、葛藤していた自分。そもそも試着室までその服を持っていけなかった。

推しの服はかっこよく見える。着た自分もかっこいいし、誰でもかっこよく着れるようにした推しはもっとかっこいい。一生応援する。
あの頃の自分の葛藤と夢を叶えてくれてありがとう、推し。
そしてバイト代を貯めてた自分、グッジョブ。

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