見学:昭和島の老舗鍛造屋さん
お知り合いの方もそうでない方もこんにちは。瀧原 慧と申します。
先日、縁あって宮地鉄工所さんという会社さんへ見学をする機会を頂戴しました。
・工場見学のきっかけ
ついこの前のことなんですが、親の会社が平素お世話になっている銀行さんの主催イベント(よい仕事おこしフェア)でお会いした会社さんから「是非工場を見に来てください」というお誘いを頂いておりました。
きっかけについて詳しく記しておきますと、その会社さんは例に漏れず金属加工の会社さんなのですが、映像展示をしておられたんですね。その映像が大物の鍛造する様子だったのですが、とにかく大迫力でした。
丁度その時、ぼくはお恥ずかしながら「鍛造」と「鋳造」の違いもよく分かっていない状態でした。いや、イメージはできるし、製品の硬さも違うのも、製造方法も何となく分かる。ただ、同じ「型を使ってつくる」の間でどう違うのかをはっきり説明することは出来なかったのです。
(↑ 一応読んで知識はあったのですが。)
そんな中、宮地鉄工所さんのブースで「おお、これが鍛造か」と納得できる映像展示に出会ったのです。映像を食い入るように見ていた私に「今度工場ご覧になります?」とお声がけをして下さったのが宮地大輔社長でした。
・「宮地鉄工所」さんはどこにあるの?
宮地鉄工所さんは東京都大田区の昭和島という場所にあります。「羽田鉄工団地」という名称がついていますが、近頃の昭和島はロジスティック(輸送・運送)系の会社さんが増えています。何故なら、昭和島は大きな敷地を構えられることと、郊外でありながら交通の便が最強の立地であるという理由があります。これは城南島や京浜島にも言えることなのですが、地震や津波、大雨といった災害にも強く、大型の工業機械や在庫に被害を被る心配が無いというのも大きな利点です。
(先の台風18号のハザードマップでも窺い知ることができました。)
また、宮地さんからお話を聞いていて出たのが、昭和島の成り立ちです。昭和島は関東大震災による震災瓦礫を用いて地盤の埋め立てが行われたため、焼却されたゴミでの埋め立てと異なり、レンガやコンクリートなど建材が多く混ざった固い地盤によって形成され、その上で宮地鉄工所さんのような大型の鍛造工場での作業や、大型の運搬車が往来することによって地固めが成されたといいます。
余談ですが、現在の大森山王辺りはかつて「大森八景」と呼ばれるような景勝地・別宅地で、かつての沿岸部である大森海岸や平和島にはかつての料亭街の名残も感じることができます。ちょっと碁盤の目状に町が形成されているのは、震災後の都市計画によって整理がなされたからであるとの話も。
(※一応いくつかレファレンスを探してみたのですが、昭和島と震災瓦礫をテーマに扱ったものはすぐには見つかりませんでした。山下公園が良く出ますね。面白いテーマなのでまた別で扱おうと思います。)
尚、昭和島の工業団地内は完全私有地なため、部外者は立ち入り厳禁です。生まれてこの方京浜島に何度も足を運んだぼくも、昭和島の工業団地に入るのは初めてでした。
あ、ちなみにツアーではない工場見学に行く機会を得ることができた方は、車で行くのはなるべく控えて下さい。基本的に工場/町工場は車の搬入と搬出が切っても切り離せない仕事です。周辺道路や会社の敷地周辺は絶えず往来があると思っておいて下さい。そうなるとお客さんの車は、その場所に停め慣れてなかったり、停めちゃいけないところに停めたりして仕事の邪魔になってしまう可能性が大きいです。
仕事を邪魔しに行くのではなく見させてもらいに行く
です!!公共交通機関や自転車をお勧めします。ぼくはママチャリです(笑)
宮地鉄工所さんの門構えはこんな感じ。大きい~。
・そもそも"鍛造"って?
お約束していた通りの時間に、まずは事務所を訪ねました。現場を見る前に2階の事務所でしばらくお話をさせて頂きました。宮地鉄工所さんは100年を超える歴史を持つ鍛造屋さんなのですが、一言でどんな鍛造屋さんかというと「ウチは間口が広い鍛造屋だ」と仰っていました。
そもそも"鍛造屋"の仕事とはどういったものなのでしょうか。
イメージしやすい例は"日本刀の刀鍛冶"です。それでは「鍛冶」という字から考えてみましょう。
鍛:[音]タン(呉)(漢) [訓]きたえる
1 金属を打ちたたいて上質のものにする。「鍛工・鍛造・鍛鉄」(コトバンク)
Googleだとこれに「金属を赤熱させ、」という言葉が頭に入っています。
なるほど、金属を変形しやすくするために熱してから叩くことで強度をあげるのですね。ちなみに「冶」の方はと言うと...
冶:[音]ヤ(呉)(漢)
1 金属や鉱石をとかしてある形につくる。「冶金/鍛冶(たんや)」
こちらはどちらかというと鋳鉄・鋳造のような印象を受けますね。ぼくは日本史を学んでいた者なので、「大冶鉄鉱」とか「漢冶萍公司」を「冶」の字から連想します。これらも1900年前後の中国の鉱山・製鉄所ですから、「冶」の意味を知っているとよく理解できます。
(©想いのしおり)
鍛造工場は、刀鍛冶の要領で 金属を熱し → 叩き鍛える という作業が機械化され工業化されたものであると言えるでしょう。
それでは、宮地さんの言う「間口の広い鍛造屋」とはどういった意味なのか、答えは現場にありました。
・現場を見てみよう「超ド級のスケール感!これぞ"鉄工島"だ!」
2階の事務所でお話させて頂いている時から(「揺れてるな...」)と思うことが多々ありました。(まぁ工業団地ではあるあるなのですが)それもそのはず! !!↓ ↓ ↓
この私のツイートの通りなのですが、音と衝撃が凄まじいです。打音は本当ならもっと腹に響くような感じだったと思うのですが、過度な臨場感はiPhoneによってカットされたようです。
このような金属を熱して鍛造するものを「熱間鍛造」と呼びます。
この動画を詳細に解説いたしますと、左側の職人さんが右の方にあるガス炉から熱した鋼材をハサミでつかんで、この機械の裏面から台に載せます。この「ハンマー」と呼ばれる機械は上下のハンマー自体の重さが4tであることから「4トン」と呼ばれています。ほかのt数の機械があるためですが、そのままですね(笑)また、このハンマーにはボルト止めで「金型」が上下のハンマーに装着されています。この金型は注文をする事業者さんの費用持ちで発注・製造され、金型一組で数百~千個の品物がつくられるそうです。そうして、金型の中に入れた金属をハンマーで叩いて金型に合う形に整形します。この金型は使用回数が多くなったことから少々劣化してきているそうで、そうすると金属と金型がくっつきやすくなったり、作業の難易度が上がります。
鍛造は熱した金属が冷えないうちが勝負。危険な作業の中でスピード感と緊張感に満ちている真剣な雰囲気は、部外者のぼくが立っているだけでも邪魔をしているような感覚になりました。
また、ハンマーで叩く以外にも、右の職人さんが品物をひっくり返したり、左の職人さんが何か手を出したりしているのですが、これはなんだと思いますか?実は、金属というのは叩いて鍛えられていると、飛び散るものがあります。上記の刀鍛冶の画からでも分かるのですが、これは「スケール」という不純物が金属の中から外に押し出されて飛び散っているものです。
床に飛び散ったスケール
スケールが付着したままだと品物の亀裂や破損の原因になってしまうので、職人さんたちは冷めないうちに周囲に出て来たスケールを除去しているのです。
このツイートでも説明しているのですが、ここでの職人技と言うのはスケール除去以外で言えば、このハンマーの操作です。共同作業であるので、他の作業者と連携が上手く取れていないと大きな事故に繋がります。本当に危険であり、また整形の作業なので繊細さも問われます。動画の最後の方の「コン... コン...」というゆっくりとした叩きの作業は仕上げで、正に微細な操作感覚が問われます。
これはこの作業で製造していた品物の"失敗例"です。金型にくっついてしまって次に叩く位置がズレてしまったために左右についた模様や形状が微妙に異なります。まだ真っ赤で熱いままです。近くだとあったかかったです(笑)
しかしながら、こんなに曲げ(角度が変わっている個所)があったり、R(曲線)がついていたり、それでもって頑丈というのはすごいと思いませんか?
先程の作業の後は「型抜き」です。プレス機で余分な部分を切り落とします。仕上げの研磨など表面加工はあるものの、この工程を経て品物が出来上がります。
違う品物ですが抜き落とした「バリ」です。例えば板金屋などではバリとは加工の工程上出てしまうトゲのような突起や荒れた断面の尖りなどを言うのですが、スケールの違いに笑ってしまいました。
ただ、案内して頂いた製造部長さんいわく、「不良はバリを見れば分かります」とのことで、大事な判断基準となっているようです。
ここまでで大分長くなってしまったので、続きは次の記事と致します。
「間口が広い鍛造屋」とは??引っ張っておいて中々答えにたどり着かなくて申し訳ございません...
追記:続きはこちら!!
告知:「鉄工島FES 2019」
11月3日に昭和島のお隣、羽田空港もお隣の京浜島にて「鉄工島FES 2019」が開催されます。最高にかっこいいアートとライブイベントの祭典が現役の工場を舞台に行われますのでぜひぜひお越し下さい!!
参加アーティスト:
SIDE CORE、西野逹、快快、さわひらき curated by 中野仁詞、∈Y∋、
市川平、鯰、ケケノコ族、VISCUM FLOWER STUDIO、石野卓球、
mouse on the keys、FNCY、chelmico、横田信一郎、Zgirls(ウェルカムチアリーディング)、さかいゆう、佐藤千亜妃
IRON ISLAND SESSIONS(Shingo Suzuki、Michael Kaneko、伊藤大地、別所和洋)
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