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大人になった兄と妹


6月6日は兄の日だったらしい。
私にも3つ年の離れた兄がいる。
優しくて少しお人好しな兄がいる。
大学進学と同時に実家を出た兄と
離れて暮らしてもう10年。
1年に2、3回会うか会わないか程度の距離感。
恐らく、一緒に暮らすことはこの先もない。

我が家は共働きの家庭で、
兄は本当に妹の私の面倒をよく見てくれた。

私が幼稚園の頃、
父と母の帰りが遅い日には
小学校で覚えたてのひらがなで
絵本を読み聞かせてくれた。

私が小学生の頃、
通信ゲームを2人でしようと
貯めていた兄のお年玉で私にDSを買ってくれた。

私が中学生の頃、
お互いの思春期が重なり
あまり頻繁に会話はしなくなった。

私が高校生の頃、
恐らく貧乏学生だったであろう兄は
アルバイトで稼いだお金で
黒い大きなリュックを買ってくれた。

私が大学生の頃、
カメラマンになった兄は
成人式で振袖を着た私の写真を撮りに
地元に帰ってきてくれた。

私が社会人になった時、
彼女を連れて私の新居の
物件探しに付き合ってくれた。

私の3年先を生きる兄は、
ずっと私の憧れで頼りがいがあって
とにかく自慢の兄だった。

ただ、もう10年も離れている兄のことが
少しずつ分からなくなってきて
遠くなっていく気がして
1度だけ、ひどい言葉で傷付けたことがある。

私が社会人生活にも慣れてきた頃、
兄は結婚し、新しい家族を持つようになった。
私たち家族と、新しい家族との
バランスを取ることが難しくなって
優しい兄は新しい家族を全力で守ろうとしていた。
両親の切ない表情を見て、
妹の私は初めて兄を不甲斐ないと思ってしまった。

私たちは同じ両親のもとに育ち
同じくらいに家族のことを
大事に思っている兄妹だと思っていた。
ずっと変わらないものだと思いたかった。

それができない現実のもどかしさから
「私の両親を泣かせるのはやめてほしい」
わざとそんな他人行儀な言葉を使って
泣きながら兄を突き放した。
兄は悲しそうな表情で私を見つめ、
「ごめん、こんなこと言わせて」
そう言って言葉が続かなかった。

平等な愛を注がれ育った兄と妹は
それぞれの世界で大人になり、
別々の愛の形を持つようになっていた。

いつも私の先を生きる兄は、
きっと私が知らない悩みを
たくさん持ちながら生きてきた。
その中で少しずつ両親との接し方も変化したが
妹の私への優しさは3歳から27歳の今まで
ずっと変わっていなかった。

最近は、たまに会うと
お互いの仕事の話をよくするようになり
今はこんな仕事をしていて
次はこんなことに挑戦したくて…
そう興奮気味に話す妹に
「すごいなぁ、俺にはそんなんできやんわ」
そう言って優しく話を聞いてくれる。
私もお兄ちゃんの仕事、
めちゃくちゃすごいしかっこいいと思ってるよ。

生意気で負けず嫌いな妹を
ずっと変わらず可愛がってくれてありがとう。
これからもそれぞれの形で、
私たちの大切な家族を
大切にして生きていけたらいいね。
お兄ちゃん、いつもありがとう。


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