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因果応報

好きな人に想いを伝えた。

一世一代の大勝負だった。
これまでの人生で、誰かに告白をしたことがなかった。トラウマがあるのだ。

だけど、もういい大人だし、怖いなんて言っていられない。
怖がって気持ちを伝えないうちに、他に彼女ができましたなんていう、10年前の失恋の二の舞だけは避けたかった。

答えはNO。

過去の恋愛に疲れてしまって、誰とも付き合う気はないと言われた。

その返事を聞いて、あぁ、因果応報だな、と思った。


昔、同じような言葉で、幼馴染からの好意を断ったことがある。
保育園から一緒だった。高校からは別々の道に進んだけれど、わりと頻繁に連絡を取りあっていたし、お互い同じタイミングで帰省した時はよく一緒に買い物に出かけたり、飲みに行ったりしていた。
わたしにとっては、本当に仲の良い幼馴染、親友みたいな存在だった。

小さい頃から一緒にいすぎて、男の子として意識したことがなかった。
急に異性としての好意を向けられても、付き合うという想像がつかない。友達だと思っていたこの人と、もう家族にも近いような間柄だと思っていたこの人と、恋人どうしがするようなことができるのか……想像できない。というより、考えたくない。でもさすがにそれをそのまま伝えることはできない。

言葉を捻り出した結果、

「前に好きだった人がまだ忘れられなくて……今はそういうこと考えられない」

そう答えてしまった。
「前に好きだった人」には告白もできずに失恋している。失恋した時点で接点も失った。その人のことが忘れられていなかったのは事実だけど、いくら未練があったとしても望みは限りなくゼロだった。口実みたいに使ってしまった。

彼は「わかった」と言ってくれた。
「これからも友達でいてくれる?」とも。
そう訊かれてわたしは「もちろん!」と答えた。浅はかなわたしは彼のその言葉に安堵していた。友達を失うのは悲しい。友達としての彼は、本当に大好きだった。
だけど、結局それ以降彼から連絡がくることはなく、二度と会うこともなかった。

彼はいつからわたしを異性として好きでいてくれたのだろう。
小さい頃からわたしは、好きな人ができると必ず彼に話していた。
彼がわたしに想いを伝えようとしてくれていたその日にも、前に好きだった人への未練をたらたらと語っていた。
きっと、彼のことを無自覚にたくさんたくさん傷つけていたと思う。

あれから10年経って、わたしは同じような言葉で告白を断られた。
ただ、想い人の言葉はあの時の口実みたいなわたしの言葉と違って本当だろう。彼はとても誠実な人だ。嘘や誤魔化しを言われたことは一度もない。

そう、そんなとても誠実で優しい人を好きになった。
好きでもなんでもないわたしにも優しかった。期待してしまいたくなるほどに。
だけど当然、わたしにしてくれたのと同じように、他の女の子にも優しい。
彼を好きになればなるほど、その無邪気さに胸が苦しくなる。

無自覚な思わせぶりの、なんと罪深いことだろう。
でもそれは、昔わたしが幼馴染に対してしていたことと同じだ。

因果応報なんだろうか。
わたしが幼馴染を無自覚に傷つけていた10年後、わたしは同じ苦しみを味わっている。


わかっている。仕方のないことだ。
そのタイミングでそれぞれの気持ちのベクトルが重ならなかっただけ。
幼馴染とわたし、わたしと想い人。どうしようもなかったのだ。誰も悪くない。

ただ、自分の何気ない言動が、もしかしたら今も誰かを無自覚に傷つけているかもしれない。
そう思うと、人と深く関わっていくのが、生きていくのが怖くなってくる。

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