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意外とややこしい「~てしまった」を考える

「~てしまった」は文法書には「完了」と「残念・後悔」の意味があると書いてあります。どんな時に「完了」になり、どんな時に「残念・後悔」の気持ちを表すのでしょうか。

「〜てしまった」の意味

<完了>

  • Netflixで話題のドラマシリーズ、一晩で全て見てしまった。

  • 1キロのアイスクリームを一晩で全部食べてしまいました。

「〜するのがおわる」の意味で使われます。
「全部」「すっかり」「全て」と一緒に使うことが多いです。期間を表す「一晩で」もポイント。「こんなにたくさんの量を短時間で見るくらい面白いよー」というニュアンスがあります。

残念・後悔>

  • 毎週楽しみにしていたドラマがついに終わってしまった。

  • ショック・・・せっかく書いたブログ記事、消えちゃった。

  • ガーン、昨日やった宿題を忘れてしまいました。

  • あれ、スマホがない。どこかで落としちゃったかも。

  • パスワード、何度も間違えちゃった…。

「終わる」「消える」「忘れる」「落とす」「壊れる」「間違える」などの動詞と相性が良いですね。どうやら「無意志動詞+~てしまう」で「残念・後悔」の意味になることが多そうです。


ただし、文脈によって・・・

<完了>
1キロのアイスクリームを一晩で全部食べてしまいました。(大量のアイスクリームを短い期間で食べた)
   ↓
<残念・後悔>
A:昨日のアイスクリーム、どこ?
B:あ、ごめん。食べちゃった・・・。(食べたことを後悔している)
A:うっそ〜。あんなにあったのに😭

このように「完了」の意味を表しやすい意志動詞でも、文脈によって「残念・後悔」の意味を表すことがあります。一文では判断できないということですね。

最近話題の背徳グルメ。唐揚げに大量のチーズがとろ〜り。クリームドッサリのパンケーキ。あー、ダイエットをしているからダメなのはわかっているけど、でも・・・食べてしまいました。日本人はこの「完了」+「残念・後悔」の意味で使うことがほとんどかもしれません。


さらに、グレーな世界が・・・

ここまでが日本語の文法書で出てくる「〜てしまった」の意味・用法。例外があったとしても「完了」と「残念・後悔」で理解できるところです。
でも、ちまたにはこんな使い方もあります。

<例文>

  • あんまり勉強してないのに、N1に受かっちゃった。

  • おばあちゃんのうちに行ったら、お小遣いもらっちゃった。

  • お誕生日月は割引になるんだって。得しちゃった。

棚ぼた系。これも「残念・後悔」でも「完了」の意味もありません。ここでは、ラッキーという気持ちや高揚感が感じられます。話し手が頑張って勉強した結果ではないし、お金を無心したわけでのありません。

<例文>

  • 思い切ってマンション買っちゃった。

  • 今日は炒めないで炊飯器で炊いちゃいます!(クッキングチャンネル)

  • やっちゃえNISSAN (TV CMより)

いったこれはなんだ???勢いがあって、爽快感すら感じます。「えーい!」と思わず買ったのでしょう。話し手の意志で行っていますね。いや、なにか他の力が働いている!?うーん。

「〜てしまった」のまとめ

こういう文型の提出順序、典型的な文型シラバスって感じですね。異なる意味を持つ「〜てしまった」を一緒に提示してしまうのはちょっとしんどいような…。

「~てしまった」はどんな時に「完了」になり、どんな時に「残念・後悔」の気持ちを表すのか、まずは意志性(話し手がコントロールしているか否か)がキーになっているということが例文からわかりましたね。「〜終わる(完了)」の意味が第一義で、その「終わる」という行為や状況の解釈が文脈でいろいろあるといった感じでしょうか。日本語教育では日常的によく使う「残念・後悔」の意味を取り出して扱っているのかなと思います。

レッスンの際は「完了」「残念・後悔」以外のグレーゾーンのものは、混乱を避けるために初級の学習者に紹介しないように気をつけてください。あらかじめ例文を書き出しておき、あいまいなものは意識的に省いておくことをお勧めします。

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