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ショートショート136 「命作劇場」

 ドォッ

 劇場全体を震わせるような万雷の拍手の中、もう何回目か分からない公演の幕が降りた。

 国立劇場。

 演劇を志すものの一つの終着点と言われる1000年の伝統を誇るこの劇場に、俺たち「からくり座」が辿り着くまでの時間も長かった。

 でも、ゴールは始まりにすぎないとはよく言ったものだ。ここに辿り着いてからの時間の方が長く感じる。いや、実際長い。

 オリジナル脚本劇「恋狂いの貴婦人」は、異例のロングランヒットとなった。世間では「回を重ねるごとに魅力が増す」「絶対に生で見るべき一作」と評されている。

 楽屋に戻り、役者たちの命が燃えているような演技と表現されたネット記事を見ながら自嘲する。

 命を燃やしている。そうだろうな。非業の死を遂げる貴婦人。その女優を俺たちは舞台の上で実際に殺しているんだから。

 もういつが始まりだったのかは分からない。

 世間の時間は普通に流れているのに、俺たちはこの公演の幕が開いたその日から、ずっとその公演の日を繰り返している。

 翌朝が来れば全て元通り。

「この公演を終わらせたいの、お願い。殺して」

 そう懇願してきた女優をためらいながらも本当に殺した翌日も、何事もなかったかのように彼女は生き返り、次回公演の幕が開く。

 いつになったら終わるんだろう。

 俺もいい加減疲れた。楽屋の鏡に映る自分のこめかみに銃を当ててみる。

 ……やめた。

 今、死んでもどうせ明日には元通り。

 恨めしそうな顔をした自分が、鏡の向こうから睨みつけてくる。

 殺してやりたいとでも言ってるかのような表情、そうだな、俺もそうしてほしいんだよ。

<了>

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