ショートショート110 「パーフェクトマシン」
ロボットに感情は必要か?
長年議論されてきたテーマだが、なんてことはない。
答えは目的による、だ。
例えば、制度改革のため人事課に導入されたアンドロイドが無感情じゃ具合がわるい。働きやすい環境を整えようってのに、やりがいが何かわからない。不満って何のことだか。そんな調子では成果など望めないってわけだ。
いや、これは例えになっていなかった。そのアンドロイドなら今、この会議室で俺の真正面にいる。
導入から半年、各職場の様子をみながら情報をインプットしていたらしく、時々うちの課にもきていたので初見ではない。
でも、あらためて見ると、見た目の精巧さにおどろく。人間とまったく変わらない。いや、容姿はデザインの嗜好に左右されるから、人によっては、むしろ人間以上にグッとくるものがあるらしい。俺は美人系よりかわいい系が好みなので、イマイチ共感できないが。
そんなことはさておき。半年間の情報収集を経て、社内の部課長が集められたこの会議は人事アンドロイドからみた弊社について、忌憚のない意見をフィードバックしてもらう場として設定された。
ざっくばらんに、というやつで、具体的な改善プランについては追い追い、だそうだ。
「……では、アンドロイドの目線で忌憚のない意見をお願いします」
本部長の振りで、アンドロイドにボールが渡る。
「この半年、社内のあらゆる課を周らせていただきました」
彼女が口を開く。
「まず驚いたのは、人間のオーバーワークの許容量です。私たち機械は限界が近づく前に、オーバーヒートや故障を防ぐため自動停止したり、メンテナンス要求を出しますが、人間にはそれがみられませんでした。納期に追われるがまま、文字通り倒れるまで働く例もありました。
これは驚愕であると同時に恐怖でもあります。
皆さん一体どんなお気持ちで働かれているのでしょう?」
あまりにも忌憚のない意見に場の人間は閉口した。
アンドロイドが職場に進出した社会。こなせる作業量は飛躍的に増えたものの、プロジェクトの意思決定をするような要職を任せられるロボットは未だ開発されていない。いや、開発する気もないのかもしれない。
何かあった時に「あのアンドロイドが言ったから」なんて言い訳が通ると思うかい?
そんなわけで、人間様の仕事は減らないどころか、ますます増えている。
……どんな気持ちかって? 改めて問われると自覚してしまうじゃないか。
感情なんて殺さなきゃこんな仕事やってられるか、ってことを。
<了>
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