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ショートショート83 「幽霊不動産」

 御来店ありがとうございます。幽霊不動産です。

 あ、最近お亡くなりになった方なんですね。

 ええ、ええ。まぁ、お一人ということなので

 この廃墟になったアパートなんていかがでしょう?

 他の幽霊さんも住まわれてますし、人が住む心配もございません。

 うーん、そうですね。取り壊されてしまうリスクは確かにありますが。

 ここ十年放置されっぱなしですし、あと二〜三年は大丈夫じゃないでしょうか。

 あ、はい。ひとまず一年契約でお考えということで。

 承知しました。よければ内見されます? あ、今日は忙しい。

 かしこまりました。では、また改めてご都合の良い日程のご連絡お待ちしております。


❇︎


 御来店ありがとうございます。

 あ〜なるほど、呪い殺したい相手が引っ越しするので、近場に引っ越したいと。

 ええ、ええ。そうですね。引越し先のエリアですと、このあたりの物件はいかがですか?

 ん〜、確かに。ここ墓地まで徒歩3分程度ですから、人気の物件なので賃料は少しお高くなっております。

 あ〜なるほど、予算が合わないと。

 え? こちらの物件ですか。

 あ、はい。確かに条件に対して格安ではあります。

 そうですね。築年数50年で、ロクに改修もされてないので雰囲気はいいです。はい、はい。

 ま〜、ただ心理的瑕疵のある……まぁ、いわゆる事故物件というやつでして。

 近くのお寺に強力な霊能力者が住んでて、前の住人が3名ほど成仏させられてるんですよねぇ。

 よっぽど霊力に自信がおありでしたらお止めはしないんですけど……

 そうですね。復讐を遂げる前に成仏させられるリスクを考えますと、他の物件にされた方がいいかと思います。

 あ、今日は次の予定がある、と。

 かしこまりました。では、条件に合う物件見繕って、また改めてご案内いたしますので。

 ええ、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


❇︎


 これにて、今日の営業は終了。もうすぐ夜明けだ。

 死んでからも、住むのに色々な条件があるなんてなぁ。

 半年前に交通事故死してから、この幽霊不動産に勤務し始めた男性は天井を仰いでため息をこぼす。

 日中は通常の不動産仲介業として営業している店舗。

 取り憑きたての頃にポカをして、人のいる時間帯にものを倒してしまって以来、入り口には塩が盛られているので、ここから出ていくことも叶わず、かといって目立ってしまっては除霊されかねない。

 ……退屈だ。しかし、日中は寝る以外にやることもない。

「いっそ、死にたい……」

 つい、生前の口癖が出てしまうが

 その願いはもう叶っていることに気づき、フッと鼻で自分を笑って男性は姿を消した。


<了>

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