vol.1 インバウンドの見えない時限爆弾
こんにちは。
「COTOBA(コトバ)」布教者、COTOBASSADOR(コトバサダー)のはせがわです。
この記事ではインバウンドの現状から、現地住民との軋轢のような「オーバーツーリズム」の問題点および解決策を考えていきます。
1.インバウンド、3つの意外な事実
早速ですが、皆さんは以下の事実についてご存じでしょうか。
①日本政府は2020年までに4000万人の訪日外国人数を目指すこと(観光大国フランスでだいたい6000万人規模)
②訪日外国人の総旅行消費額は4兆5189億円(訪日外国人1人あたり総支出額は15万3029円)
③世界の海外旅行者数は14億人突破(2019年7月現在。国連世界観光機関の予測を2年前倒しでの達成。)
上記3つのように日本だけでなく、世界全体でも観光産業(Tourism)は大きく躍進を続けています。③の通り、その市場拡大はさらに加速し、予想を大きく上回って成長を続ける見通しです。
さらに、日本では2020年の東京オリンピックを見据えて通訳ボランティアの募集やホテルの建設など急ピッチで訪日外国人に対する受け入れ態勢を整えている最中です。経済成長の停滞感のある日本では観光産業は数少ない成長産業として、経済発展の「アクセル」として位置づけられています。
2.怒りの現地住民
観光産業が発展し、訪日外国人が増えることは一見素晴らしいことのように見えます。
しかしながら、「急な変化には対応できなくなる」のが世の常です。急な観光客増加に耐えきれなくなる地域も出てきます。
その状態を表す言葉が「オーバーツーリズム」です。
観光地が耐えられる以上の観光客が押し寄せる状態(過剰な混雑)のことを指します。
簡単に表すならば「現地人の数<<(越えられない壁)<<観光客の数」となり、現地の人々が観光客に対応しきれなくなる現象です。
日本でも最近問題視されはじめたことですが、海外では多くの先行事例があります。
(1)観光客排斥デモ、海上でデモ。 (ベネチア)イタリアのベネチアでは、増えすぎた観光客に地元住民が「激怒」。怒りの矛先は、一度に大量の観光客を運び込む大型豪華客船に向かい、港に近づく船の周辺をボートで取り囲み「ベネチアに来るな」と海上でデモにもなりました。※
(2)街から名物が消えた!(オランダ、アムステルダム) オランダのアムステルダムでは、去年、街の中心部から名物が消えました。観光用の乗り物「ビアバイク」です。観光客が増える中、交通渋滞や酔っ払って騒ぐなどマナーの悪化が頻発。とうとう裁判所も、「無秩序な振る舞いはまかりならん」と、営業禁止にゴーサインを出しました。※
(3)観光客と環境破壊(ボラカイ島、フィリピン) フィリピンのボラカイ島は、環境破壊が深刻化。観光客激増によるゴミや排水の汚染で海の水質が悪化したとして、政府はことし4月、観光客の立ち入り禁止措置を取りました。※
以上の3例のように、観光客の急増でその地に住む人々の生活が脅かされつつあります。(※NHK NEWS WEB「忍び寄るオーバーツーリズム 日本も危機に?」)
また、日本でも人気な観光地では同じような事例が起こりつつあります。
バスに乗れない!(京都、日本) バスを待っていた京都在住の女性は「すごく混んで乗れないときもありますし、普通でも1、2台は待たないと乗れません。秋の紅葉シーズンはこれに渋滞が重なってバスが動かなくなります」と諦め顔。また男性住民は「この辺りは観光で食べてますから、観光客が来ないほうが良いとは言えませんが、いろいろ弊害も出ています」と複雑な心境をのぞかせました。※
「オーバーツーリズム」と検索すると山のように押し寄せた観光客の相手ですり切れた観光地の現状が見えてきます。
3.見えない時限爆弾
さらに潜在的な問題は「混雑」と「マナー・ルール問題」です。
観光庁などが18年度に実施したアンケートの結果によると、自治体が意識しているオーバーツーリズムの課題は、観光客のマイカーや観光バスによる交通渋滞などの「混雑」、トイレの不適切な利用やゴミの投棄、立ち入り禁止区域への侵入、文化財の損傷などの「マナー・ルール」に関する項目が多かった。(観光経済新聞「観光庁、オーバーツーリズムで報告書・事例集 混雑やマナー・ルール課題」より)
混雑という直接的な問題だけでなく、訪日外国人にとって知り得ぬ現地マナーでの現地住民との軋轢など、観光客と現地住民の「すれ違い」が発生していることがわかります。
こうした問題は「自動翻訳」だけでは解決できない範囲となります。そうした中で、東京オリンピックの通訳ボランティアなどは対面での非言語コミュニケーションで解決できると考えると、非常に良い施策と考えられますがその「質」の担保が問題となります。京都市では「京都市認定通訳ガイド」という市公認の取り組みが紹介されており、他地域にも横展開できるのではないでしょうか。
多くの観光地では京都と同じことが起こりつつあり、こうしたマナーやルール等が伝えられず「見えない反発」として不満が各地にたまりつつあります。
地域や時間の分散などだけでなく、「見えない反発」をどう解消していくか。日本が観光産業をさらに発展させるための新たな論点となりそうです。
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