お母さんのいない日 #34
妻が仕事で朝早くに出かけて行った。
子どもの起きるまえで、夜も遅くなるから、寝るまでに間に合わないかもしれない、と云う。
子が僕と会わない、と云う一日は、これまでも幾日かあったが、お母さんと会わない、と云うのは、生まれてから二年ちょっとの間ではじめてのことだ。
普段は僕の仕事へ行くのが朝めちゃくちゃ早いこともあって、子を起こし着替えさせてご飯を食べさせ保育園へ送る、と云う朝のルーティンはいつも妻に任せている(帰りは早い僕がお迎えに行く)。
起こす時間になり、子の眠る寝室を開ける。
すでに目覚めていたようで、休日などのそういう朝は、ガバッと起きて、絵本を取るとかこっちへ駆けよってくるとかするのが、けさはライナスの毛布を離さず、指しゃぶりをしてゴロゴロしている。
いつもと何かようすがちがう。
食事の席につかせても、なかなか食べようとせずにマゴマゴしている。
はやく食べて保育園行くよ、と云っても、眠そうなフリをしたり、食べなかったりして、はかどらない。
子どもなりに異変を察知しているのかもしれない。
待ってればお母さんが来る、と思っていたのかも。
何とか食べさせ、ベビーカーに乗せようとしたら全身を伸ばして抵抗し、お母さん、と絞りだすように唸って泣く。
外へ出てからもしばらく泣いていたが、幹線道路へ出、すれ違うゴミ収集車やダンプカーを見たら、すっかり機嫌を直して保育園のドアを開ける。
いってらっしゃい、と笑顔で僕を送りだしてくれる。
朝のようすを保育士さんに話したところ、いつもとちがうってことの分かってるほうが安心で、むしろ泣かないほうが心配になるのだとか。
夜も妻は帰りの飛行機が遅れて、子の起きているあいだには間に合わなかった。
子どもは寝るまでの時間も、くるまの玩具を並べたり、大好きな重機の番組を観たり、僕の読み聞かせる絵本をきいてくれたりして、さみしさを紛らわしているように見えた。
日ごろはちょっとでも気に喰わないことがあると、すぐ怒ってぴーぴー泣くくせに、ほんとうに辛いときは、泣いちゃいけない、とおもって彼なりにガマンしていたのかもしれない。
つらいときはガマンしないで、おもいっきり泣いていいんだけどなあ。
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