見出し画像

「熊手 と いち仕事人として」

今回は縁起物の 「 熊手(くまで) 」 について書きます。
年末が近づくと神社などで催される酉の市で見かける 「 熊手 」 。 商売繁盛の縁起物として、煌びやかで豪華な飾りが施されています。

コスモテックの今は亡き箔押しの匠 佐藤勇 が掲載されている書籍 『 印刷・紙づくりを支えてきた 34人の名工の肖像 』 の箔押し職人 佐藤勇 のページの写真にも、実はチラッと登場しています。

画像1

「 熊手 」 と自分

書籍に写りこんでいる 「 熊手 」 は、今から十年以上前に僕が酉の市で買ってきたものです。

実は、僕の実家( 青木家 )は祖父の代から、この商売繁盛の 「 熊手 」 とは縁が深く、僕がまだ幼かった頃から身近な存在でした。僕の子供時代、 「 まさのり、これはお店の人が商売繁盛を願って購入するものなんだよ 」 と、今は亡き祖父から教えてもらいました。

無題

自分の稼ぎで熊手を買う

経営者が会社用に 「 熊手 」 を買うことはよく聞きますが、いち従業員が会社用に 「 熊手 」 を買ったって良いんじゃないか、と思い付きました。

そこで、僕が会社勤めを始めた頃は両手に収まるくらいの一番小さな 「 熊手 」 を買いました。それから少しずつ大きな 「 熊手 」 に変えていき、 今までで一番大きなものは清水の舞台から飛び降りるつもりで奮発したことも。

底冷えするパリッとした冬の空気の中、大きくて重い 「 熊手 」 を肩に担いで帰った時の気持ちは今でも忘れられない大切な思い出です。

また、「 じいさま、自分の稼ぎでデカい熊手を買ってきたぞ 」 と話した時、普段厳しい祖父にはめずらしく、とてもうれしそうに笑ったことも印象的でした。その後すぐにいつもの顔に戻って 「 会社の経営者はもっと大変なんだから、精進しろよ 」 と つぶやいたことも忘れられません。 

一方、会社に飾られた大きな熊手を見た匠 佐藤は 「 お前も本当によくやるねえ 」 と、ニヤリと笑って見せてくれたのでした。

画像3

何もできない未熟な自分

僕が入社した当時、コスモテックは経営が苦しく、そんな中、毎日毎日必死に機械や仕事と睨めっこする社内・社外の協力会社の職人さん。 自分の作りたいものを作るため、貴重なお金を払ってご依頼くださる、デザイナーさんや同人作家さん。

みんなが、僕にはなかなかできないことをやっていて、僕はみんなに助けられていました。僕もコスモテックも、みんなに支えられながら、なんとかかんとか走っている状態でした。

当時、 「 僕にできることはなんだろう? 」とよく考えていました。
未熟な自分に今できることは、一生懸命に働いて、仕事を覚えること。支えて下さる沢山の人たちへの感謝をしっかりと返せるように成長することしかありませんでした。

そんな中、コスモテックの商売繁盛への願いをこめて、そして、僕の決意の証として 「 熊手 」 を買って会社に飾ることに決めたのでした。

さらに進んでいくために

2020年になり、僕は40歳になりました。 気づけば、コスモテックに勤めて18年になります。 大好きだった祖父も、ずっと仕事を共にしてきた匠 佐藤も、今は天国で静かに見守ってくれています。

画像4


いつの間にか「 昔はこうだったなぁ 」 と振り返る機会が増え、ただそんな風に感傷に浸る自分が嫌でもありました。今は、 「 熊手 」 を初めて自分で買った頃の自分よりは、きっと仕事はできるようになっただろうし、頼りにされることも増えてきました。

ここ数年、
「 僕は頭でっかちになっているのではないだろうか? 」
「 攻めの姿勢を忘れて、守りに入っているのではないか? 」
と感じることが時々あり、 何か自分に気合を入れられる体験はないものかと考えを巡らせていました。そして、『 次なる一手 』 を思いついたのです!

2021年は今まで以上に特別な、超大きな 「 熊手 」 を買って会社に飾る。
これしかない。これに決めました。

写真 2021-12-10 11 19 44

さまざまな思いがある

天国の祖父も匠 佐藤もきっと喜んでくれるに違いないという思いもありますが、今回はお客様への 『 感謝 』 ・ コスモテックへの 『 献身 』 に加え、 『 自分自身のこれからのための気合! 』 のために決めました。

しかし、さすがに特別大きな 「 熊手 」 を買うとなるとだんだん怖気づいてきて、 「 このお金で 少し上等なスーツや仕事カバンを購入できるぞ? 」 「 その方が日々の仕事に役立つし、生きたお金の使い方になるはずだ。 」 という思いが頭をよぎります。

直感的でありたい

「 熊手 」 は商売繁盛の縁起物。
ご利益があるであろう… という、ふわふわしたものです。
この空気を掴むようなものにお金を投ずるということは、僕にとってかなり勇気がいります。実体のある見返りを求めてしまうと、きっと臆してしまうでしょう。 また、僕に特別な愛社精神があるかどうかと問われれば、まあ人並みには、という感じです。

写真 2021-12-21 16 12 30


損得勘定をしないで、ポン! と飛び込むジャンプ力!
「 熊手を買って会社に飾る 」 という行動は、営業という立場で、サービス・お客様・会社の利益とのバランスをやじろべえの如くはかるような仕事上の感覚ではなく、僕にとってはもっと直感的なところの 『 覚悟 』 が必要な気がします。

自分から差し出すことの難しさ

40歳を超え、守るべきものは増えましたが、それ以上に多くの人に守られてきて今の自分がいるということを実感します。今まで出会った沢山の人たちとのと関わりや会話無くして、今回の大熊出を購入する決意には結び付かなかったでしょう。

僕が小学生の頃、祖父は 「 まさのり、働いて給料をもらうって大変なことなんだぞ 」 とよく話してくれました。その当時は何のことかサッパリ分かりませんでしたが、今ならお給料はもらって当たり前ではないと分かります。自分から差し出す、誰かに尽くす等、そこにいる誰か他者のために自分は何ができるかよく考えなさい! と祖父は言いたかったのではないかと思います。

画像6

誰かのために何が出来るか考える

『 世のため、人のため 』 と、昔の人はよく言っていました。
時は令和に移り、自分も40歳を超えた今、そんな昔の人の言葉が耳に残っていて、「 お前は自分のことばかりを考えていないか? 」 と叱られているように感じることもあります。

自分の稼ぎで、会社に飾る大熊出を買う。
今年( 2021年 )の年末は、一大決心の元、今までで一番大きな熊手を買いに行き、コスモテックも自分も多くの人たちに支えられていること、周りへの感謝、人のため自分のために働くこと、攻めの姿勢を忘れないこと等、改めて深く考えるきっかけを自分で作れたような気がします。

写真 2021-12-21 16 13 40


沢山の良き出会いなくして、この大熊出を買って会社に飾るという決意は出来なかったと思います。


僕は自分で自分の尻( しり )に火をつけて、守りに入ることなく、今後もぐんぐん前に進んでいきたいと思います!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?