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全国の日本遺産を訪問し、ストーリーを妄想しながら歩きたい

「日本遺産」というものをご存知だろうか?名前は聞いたことがあっても、「世界遺産」と何がどう違うのか、どこが取り仕切ってるのか、どんな基準で遺産に認定するのか等、疑問が思い浮かぶ方も多いはず。3年前までの私もそうだった。

言うまでもなく「世界遺産」はよく知られている。TVでは世界中のさまざまな遺産が頻繁に紹介されているし、日本でも新規に登録されるとニュースになる。現在、日本の世界遺産は25件。最近では毎年のように登録されていて、最近では2件が同時登録された。(令和3年に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」と「北海道・北東北の縄文遺跡群」の2つが登録。だんだん覚えきれなくなってきた…)

しかし、日本遺産となると知名度はグッと下がる。どこが登録されているかは、かなりマニアックな情報だ。
それもそのはず。日本遺産は特定のエリアや場所を指定するものではなく、地域に点在する文化財や伝統文化を特定のストーリーに沿ってピックアップし、パッケージ化したもの。「法隆寺」とか「屋久島」とかのように場所が特定されないので、イメージしにくいのだ。

実は日本遺産は、地域の歴史的魅力や特色をPRして地域活性化を図ることを目的に、2015年から始まった比較的新しい制度。登録するには日本文化や伝統を語るストーリーが必要なので、文化財の体系図に登録されている有形・無形の文化財とは別モノだ。管轄しているのは文化庁で、現時点で104のストーリーが日本遺産に登録されている。

そんな日本遺産を訪問して、ストーリーを思い描きながら歩きたい。そんなことを昨年、唐突に思い立った。ガイドブックに載る著名な観光地をスタンプラリーのように巡るのでなく、ストーリーを妄想しながら各地を訪問することで地域の隠れた魅力が発見でき、普通の旅行では認知できない新しい景色が見られるかもしれない。
また、日本遺産には複数の県や市町村にまたがってストーリーが展開される「シリアル型」と呼ばれる事例が多い。これもガイドブックとは異なるエリア区分なので、変化に富んだ旅が楽しめそうだ(西国33カ所、北前船寄港地といった広域すぎるのもある)。
さらに、日本遺産を構成する事物は適度に分散しているので、旅にウォーキングを自然にビルトインできる。慢性運動不足の私にとっては、これこそが重要。運動しない自分の前にぶら下げる「ニンジン」なのだ。

そもそも、日本遺産の登録案件はタイトルに凝っていて、興味をひかれるものが多い。私の地元の群馬県には「かかあ天下~ぐんまの絹物語」というタイトルの日本遺産がある。世界遺産の富岡製糸場に代表される蚕糸文化と「かかあ天下」は、どうつながるのか?「かかあ天下」に関連する文化財には何があるのか?ストーリーを調べるだけでも面白い。

とりあえずの目標は、1年で6カ所の日本遺産を訪問し、遺産を構成する文化財を歩いて巡ることとした。その前哨戦というか下調べとして、昨年11月の晴れた休日に、長野県千曲市の日本遺産『月の都 千曲 姨捨の棚田がつくる摩訶不思議な月景色「田毎の月」』を知人のO野さんと歩いてきたので、その一端を記したい。これから本格的に始まる(であろう)「日本遺産を歩いて巡り、新しい景色を見る旅」の最初の実績として。

まず、この日本遺産のストーリーを引用する。

日本人の美意識を表す「月見」。中でも、歴史的に文学や絵画の題材となってきた「姨捨山に照る月」、「田毎の月」は、日本を代表する月見の名所である。
姨捨は、地名の響きから、棄老物語を語り伝えてきた。それは、月見にちなむ文芸への遊び心を鼓舞する一方、棚田での耕作や伝統行事を通じて
古老の知恵と地域の絆を大切にする教えを育んできた。すべての棚田に映る月影を1枚の浮世絵に表した歌川広重の摩訶不思議な「田毎の月」。そんな「古来の月見」や、「月の都 千曲」が奏でる「新しい月見」に出かけよう。

STORY #92「月の都 千曲」

上記に引用したのは、ストーリーの「概要」。本文はもっと長く具体的なので、専用サイト(STORY #92「月の都 千曲」)にてお読みいただきたいが、この本文をじっくり読み解き妄想を巡らせることが、この旅のスタート地点だと私は考える。
このストーリの主題は、ズバリ「月見」。「田毎の月(たごとのつき)」で知られる姨捨棚田を中核に、日本文化の一つである「月見」にまつわる文化財やら伝統行事やらを、29個もパッケージングしている。面白いのは、その29個の中に、浮世絵やJRの駅舎、ホタルの生息地、料理なども含まれていること。単なる文化財の寄せ集めではなく、ストーリーに基づいて幅広いジャンルから構成要素をピックアップしていることがわかる。
今回の旅では、この29の構成文化財のうち10個ほどしか巡れなかったが、ストーリーに沿った文化財を巡りながら、月見への妄想を膨らませることができたと思う。そもそもストーリーがなければ、観光地として地味な「武水別神社」や「二十三夜塔」に足を運ぶことは、決してなかった。

今回歩いて巡った日本遺産の構成文化財10個(赤線部)
「田毎の月」で知られる姨捨棚田
姨捨駅周辺から望む善光寺平の風景
JR姨捨駅のホームは「新たな月見の場所」としてエントリーされている。
二十三夜塔。飲食しながら月の出を待つ昔の風習を記念して建立された石碑

日本遺産を有する千曲市では、パンフレット類を整備するだけでなく、観光や教育の拠点として「日本遺産センター」という施設を作り、普及に努めている。もちろん、私たちも足を運んだ。

日本遺産センターに展示された歌川広重の浮世絵。この絵がストーリーの原点。
日本遺産センターで入手したパンフ類。月が映る棚田が美しい。

なお、今回の旅の詳細は、同行してくれたO野さん(ペンネーム 蒲公英さん)も記してくれている。合わせてお読みいただけると幸いだ。

ということで、次回(本格的な第1回)は、2月下旬にあまり寒くない地域で挙行したいと考えている。前哨戦は月見シーズンから外れたこともあって妄想全開とはいかなかったが、次回は旅と妄想で時空を超え、新しい景色の一端を、ぜひ見てみたい。

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