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空を見上げていた子ども時代の記憶から、世界初・宇宙葬のための人工衛星打ち上げへ

株式会社SPACE NTK 代表取締役
葛西智子さん
(プロフィール)
2017年に宇宙空間における葬儀・散骨・埋葬・法要その他冠婚葬祭関連式典の請負、仲介斡旋及びそのノウハウの販売・プロデュース事業を内容とした株式会社SPACE NTKを設立。
宇宙散骨の他、宇宙遺骨旅行・宇宙生前葬等を企画。
世界初となる宇宙散骨を目的とした人工衛星の打ち上げを、2021年12月に予定している。
人一人分のご遺骨、ペットのご遺骨を宇宙散骨するのは世界初!
SpaceXと直接契約を成功させた世界初の葬祭関連事業としても有名となり、世界の注目を集めている宇宙ベンチャー。


【仕事内容について】地球での葬儀と同時に宇宙葬をプロデュースする会社の代表

――はじめに、今の職種とお仕事の内容を教えてください。

ひとことで言えば、葬儀の仕事。
葬儀のプロデュース兼司会進行をしております。
葬儀の仕事に携わるようになって約30年近くになり、3年前から、宇宙葬の開発をしています。

日本では、亡くなったらお墓の中に入るのが当たり前ですが、近年、海洋葬や樹木葬というものができ、海と土があるのに、なぜ空の葬儀はないんだろう、と思ったのが宇宙葬の始まりです。

その発想のヒントは子ども時代にありました。わたしは子どものころ、死んだら星になりたいと思っていました。

姉妹ケンカをして母に叱られ、「外で頭を冷やしなさい」と言われて、縁側で体育座りして泣きながら見上げた夜空、小学校のころ電車通学で電車から見る空、夜空を眺めるのが好きだったんですね。

もうひとつ、幼いころの強烈な体験があって、それは祖母が亡くなった時に見た光景でした。
宮城の方でしたが、火葬してすぐに、遺骨を墓石の下にばらまくという葬儀でした。その光景がすごくショックで、自分は死んだら星になりたいと思ったのです。

そんな記憶が5年ほど前に突然よみがえり、そこから宇宙葬という着想を得ました。


【宇宙葬について】葬儀は暗い話ではなく、宇宙へ還っていくためのセレモニー

――宇宙葬とは、具体的にはどんなことをするのですか?

宇宙散骨、宇宙遺骨旅行、それから宇宙生前葬。
実際に宇宙に行くのはその3つです。また、宇宙には行きたいけど行けない方のための、地球上での疑似宇宙葬もあります。
これは宇宙をイメージした祭壇を作ったり、遺影を宇宙飛行士にしたりといった形です。

「宇宙散骨」は、文字通り宇宙空間に散骨します。
「宇宙遺骨旅行」というのは、宇宙空間に行って帰ってくるロケットに遺骨を乗せるというものです。実際宇宙空間に行ってきた遺骨を、たとえばアクセサリーにしてご遺族が肌身離さず持つ、といったことができます。

「宇宙生前葬」は、まさに人生最後の旅行で宇宙へ行く、というもの。現在、2名様のお申し込みをいただいております。

こうした「宇宙葬」は今のところ無人ロケットでの計画ですが、いつか有人ロケットで行いたいですね。
最終的には、国際宇宙ステーションまで自分が行って、国際宇宙ステーションの中から宇宙空間に向けて散骨したい、というのが、わたしの夢です。できたら月へも・・・。

ご希望があれば、住む国や宗教も関係なく承ります。
遺骨だけでなく、土葬の文化がある場合は髪の毛とか爪などの DNA でも募集しています。


――どういう方がお申し込みになるんですか? 宇宙が好きなご家族?

普通の方が関心を持ってくれていますね。
ペットの遺骨なら、一体分でも100万円ほどで可能です。普通のお墓の場合は維持費もかかりますが、宇宙葬の場合は初期費用だけです。

また、ファルコン9の場合は宇宙の軌道をずっと回るので、それこそ本当に星となる可能性もあるわけです。5~6年は軌道を回り、最終的には大気圏で流れ星となって燃え尽きるので、デブリにはなりません。

軌道上にある間は、スマホなどのアプリで位置情報もキャッチできます。目には見えなくても、どの方角の上空を飛んでいるかがわかれば、そちらを向いて手を合わせることもできます。

今は、お墓を維持するのがむずかしくて「墓じまい」する方が、首都圏を中心に増えています。宇宙好きな方々だけではなく、そうした方々からも宇宙葬の需要はあると思うので、まずは知ってもらうところから、今始めなくちゃいけないということを実感しています。


――これからの時代の宇宙葬、今はすべてが「初の」ということですね。

遺骨だけを積める人工衛星が世界初、ペットの遺骨を宇宙葬にするのも世界初。また、カプセルに入るのであれば、遺骨に限らず思い出やご自分の夢や希望を書いた短冊もOKということにしました。

それともう一つ世界初なのが、人間一人分の遺骨まで宇宙へ打ち上げること。
これまでは分骨で、小指よりちょっと大きめくらいのカプセル容器に入れるというものでした。人間一人分の遺骨は、パウダー状にすると大体500mlのペットボトル1つくらいに収まります。


――もう乗せられる方は決まっているのでしょうか。

まだ数名の方からしかお預かりしていません。これから大々的に宣伝告知して募集するところです。

とりあえず6月には、仮に砂などを中に入れた人工衛星を使って、試験をする予定です。主な試験内容は、人工衛星が振動や熱に耐えられるかといったことで、専門の方に委託しています。


――いずれ、遺族などが実際に宇宙空間に行って葬儀ができるようになった場合、体力面などが心配な場合もあるでしょうか。

気球型の宇宙船に乗ったり、ジェット機型の宇宙ロケットなどは、実はまったく訓練しなくても大丈夫なんです。
もちろん健康診断みたいなことはありますが、日本からアメリカまで行けるくらいの体力があって、心肺機能が健康であれば、誰でも宇宙旅行は可能です。


――葬儀という厳かなことと、宇宙へ行くことの結びつきが、なんだか不思議な感じもしますね。

葬儀と言うと暗いイメージを持たれるかもしれませんが、「亡くなる」ということは全然悲しいことではなく、むしろわたしは、次の世界に生きるステップだと考えています。

わたしは小中高とずっと仏教の学校に通っていたので、こうした教えも受けて育ちました。宇宙葬は、ただの式典だけではなく、宇宙から来て息絶えた時にまた宇宙に還るという、仏教の輪廻の世界観のあらわれでもあるでしょう。
「いってらっしゃい、お疲れ様でした」という気持ちでお送りしたいと思います。

何よりも、亡くなった大切な方のことを思うことが一番の供養になると言われています。そういう意味も含めて、宇宙葬とは個人の尊厳を大切にするという根本につながるのではと考えています。

単純に星になると言うだけではなく、そこに込められた深い意味を知ってもらいたいと願っています。


【仕事上で大変なこと】わからないことばかりだけど、やってダメなら次へ!の精神で乗り越える

――宇宙葬は幼いころの原体験から得た発想だったとのことですが、それを形にするのは大変なことだと思います。

わたし自身は、とにかく考えるより何より行動するタイプなんです。とにかく自分で見て確かめて、やって駄目だったらまた次に行けばいいと思ってやってきました。

様々なことを独学で調べて、2017年に宇宙での葬儀を執り行う会社を立ち上げました。いまは、地球上での葬儀の会社と、宇宙での葬儀の会社、2つの会社の代表をしています。

立ち上げてから3年間、調べていくうちに、民間ではアメリカなら宇宙葬が実現可能だとわかりました。
それから、アメリカのスペースポートや、ロケット宇宙開発会社へ行き、見学ツアーに参加。その翌年の国際宇宙開発会議にも出席して、宇宙葬を世界の人達に広げ、実際に動き始めました。

国際宇宙開発会議では、宇宙ビジネスコンサルタントの大貫美鈴さんに出会いました。大貫さんが通訳から人脈つなぎまでしてくださって、SpaceXの日本人関係者とも知り合うことができました。

宇宙葬に関しては、今年の12月にSpaceXのファルコン9にみなさんの遺骨をのせて打ち上げるのが、初めての実績になります。

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――すごいですね! コスモ女子も人工衛星を上げるプロジェクトがあるので、大変さはわかります。

実は、SpaceXのファルコン9で宇宙散骨することを決めたときに、もうSpaceXには人工衛星が用意されていて、お客様の遺骨だけを乗せてもらえばいい、と単純に考えていました。

ところがそうではなくて、人工衛星からつくらなくてはいけないとわかり、今も、人工衛星づくりに四苦八苦しているところです。


――ちなみに宇宙葬に使う人工衛星の大きさはどれくらいですか。

今つくっているのは、200㎏まで積載可能な50㎝×50㎝×50㎝、かなり大型です。
これまでは、10cm四方の実験用の人工衛星に遺骨を数名入れさせてもらって、アメリカの代理店に頼んで打ち上げていたんですね。

今回は代理店に頼らず、ダイレクトにSpaceXにロケットに搭載します。

わたしは最初、実験用の人工衛星でいいと思っていたのですが、そのことを相談されたイーロンマスクさんが、「遺骨は尊いもの、そんな実験用のものではだめだ、やるんだったら遺骨だけの人工衛星を作って上げた方がいい」とおっしゃったそうなんです。
本当かどうかわかりませんけれどね!(笑)

こうして、価格的にも高額となるので悩みましたが、投資してくれる方、協力してくれる方のおかげで、なんとかなるという結論に達しました。


【仕事に必要なスキル】人を信じることによって生まれた、大事な関係の人脈

――世界初づくしで大変だと思いますが、それでもプロジェクトを進めていくには、どのようなことが必要なのでしょうか。

すごく大変な思いをもう3年間ずっとしてるんですけど、今は大変な思いが逆に楽しくなっています。
大変なことが起こったときに、「また来たかー!」という感じで迎える、というか。

大変なのは、特に資金調達ですね。そのためにも人脈が必要なのですが、わたしはサービス業としての葬儀のことしか知らなかったので、宇宙開発への人脈作りが大変でした。


――人脈づくりの中で、大事にされていることを教えてください。

その人の良いところを見つけてお付き合いするようにしています。
わたしは人が大好きで、「馬鹿」がつくくらい正直に人を信じてしまうんです。騙されることも何度も何度もありましたけどね。

それでも、裏切られたときに、あんな良い人なのになんでなんだろうと思ってしまうタイプなんです。
とにかく人を大切にしたいと思っているので、その思いが伝わった人が、周りに残ってくれているという感じですね。

人との関わりを大切にすることによって、プライベートでもビジネスでもどんどん広がっていく楽しさを自分なりに感じています。


【プライベートについて】夕方のリフレッシュタイムは、音楽に関することなど好きなことをする

――ふだん、どのような1日のスケジュールなのでしょうか。ルーティーンなども教えてください。

日によって違いますが……、今の葬儀は通夜がない一日葬の形が多いので、昼間は通常の葬儀に立ち合い、葬儀がない日の午前中はオフィスでデスクワーク、午後からは、主に打ち合わせといった感じです。

夕方の時間帯にリフレッシュタイムを入れるようにしています。リフレッシュしたあと、また深夜までその日の仕事の処理をします。

朝起きるのは、早いと6時のときもあるけど、平均すると7時ごろ。寝るのはだいたい2時ごろ。韓国ドラマを3時4時まで見ちゃう日もあって、翌朝は、10時ぐらいまで寝ていることもありますが。


――仕事もハードだと思いますが、リフレッシュ方法は?

ドラムを習っているんです。
1番下の娘がドラムを習い始めたのをきっかけに、一緒に始めました。年に2回ほど発表する場があります。
ライブに行くのも好きで、踊るのも好き。最近はなかなか行きづらいですが、そういうところで発散しています。

忙しいからこそ、時間を見つけては自分のやりたいことはちゃんとやるようにしています。
今はコロナ禍であまり外出できないので、韓国ドラマを見まくっています(笑)。


――体調管理で気をつけていることはありますか?

メンテナンスとしては、リンパマッサージやカッピングをしたり、エステに2週間に一度通ったりしています。
体はいたって丈夫なんですけどね、とにかく国際宇宙ステーションに行くまでは元気でいないと!と思っています。

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【これまでの経緯】学生時代に学んだ仏教を活かした仕事を選ぶ

――最初の葬儀の会社を設立する前の経歴を教えてください。

先ほどお話したように、小中高と仏教の女子校に通いました。
高校卒業後、実は声優か舞台女優になりたくて演劇学校に行きましたが、早く結婚することになって途中で夢は破れました。

長男が中学生になったころ、わたしが学んだ「仏教」を生かせる仕事はないかと探して、アルバイト雑誌でセレモニーレディー募集の記事を見つけたんです。
空き時間にやってみようかなというのが、葬儀業界に入るきっかけでした。

お寺さんとの打ち合わせでも、仏教の知識が多少あるから重宝され、同期の人たちにお焼香するタイミングなどお作法を教える立場になりました。そうこうしているうちに、社員になったんですね。

そして、勤めていた葬儀会社でトラブルがあったとき、わたしの父が起業家で、「お前も、人に仕えるより代表になって自分のやりたいように仕事したほうがいいのでは」と言ってくれたことがきっかけで、33歳のときに思い切って起業しました。


【ご家族とのこと】助けてくれる家族に恵まれたことに感謝

――お子さんもいらっしゃって起業するとなると、ご家族の協力や理解も必要ですよね。

わたし、今の結婚が3回目なんですけども、今の夫は、ご遺体の搬送をする仕事なんです。わたしは地球から宇宙に仕事を移行していますが、同業の仕事をしているので、理解してくれている、ようです。(笑)

子育てに関してはダメママです。
上の2人の子どもたちが小さかったころは、実家の両親が一緒になって子育てを手伝ってくれて、応援してくれました。
シングルマザーだったときも、それぞれの夫も協力してくれていました。

今の結婚では、夫が子どもたちをすごく可愛がってくれるし、上の二人の子どもたちも一緒になって、みんなが自発的に授乳もおむつ替えもしてくれたので、わたしは産んだだけ、という感じ(笑)。そういった意味で、わたしは家族にも、ほんとうに恵まれていると思います。


【仕事のやりがい】お客様に「よかった」といわれることがいちばん

――宇宙葬のプロジェクトを進める中で、やりがいを感じるのはどんなときですか?

今、わたしが動いていることは未知の世界。誰も知らないことだからこそ、なんかこうワクワクします。かかわっているみんながワクワクしている感じですね。

たとえば遺骨を入れるカプセルの試作も、形を四角にしようか丸にしようか、それともロケット型にしようかとか、みんなで試行錯誤しながら決めています。

大変なところももちろんあるけれど、打ち上がったあとのことを考えながら、お客様に「よかった」と言ってもらえるようにと考えています。サービス業として、地上での葬儀も同じだと思っていますけどね。

実際にお客様に生活を与えていただいて、終わった後にお客様にありがとうと言われる。そのために日々努力をしている感じですね。

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【これからの目標とメッセージ】夢を実現するのはあきらめない力

――宇宙業界を目指す方へのメッセージも含めて、葛西さんのこれからの目標を教えてください。

宇宙のことなんて何も知らない、ただ星になりたいという思いがきっかけで宇宙事業を始めて、この12月に人工衛星を打ち上げるのが宇宙へのスタート。
まだ成功をする目前……という状況ではありますが、「絶対に諦めないでやり抜くという気持ち」を持ってほしいとお伝えしたいですね。

夢を持ったら諦めないでやり続ける。
それが成功への道標なんじゃないかなと思っています。諦めないで、みなさん頑張って欲しいなと思います。

宇宙飛行士の山崎直子さんもおっしゃっていましたが、これから誰もが宇宙で仕事ができる時代になる、今はその先駆けだと。

わたしは少しだけ先に、宇宙に携わる仕事をしていますが、これからどんどん若い人達に、この後をついてきてもらいたいなと、心から思っています。


UchuBizで「コスモ女子 宇宙のお仕事図鑑」の連載が2023年12月から始まりました!

葛西智子さんの最新の記事はこちらからご覧ください。

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〇宇宙のお仕事図鑑とは?

このプロジェクトのきっかけは、「宇宙関係の仕事につきたかったけど、宇宙飛行士や天文学者しか知らなかった。」という声がコスモ女子のメンバーからたくさんあがったことでした。
宇宙のお仕事図鑑では、宇宙関連のお仕事をされている方々に取材をした記事を発信していきます。
文系の職種も理系の職種も(文理で区分する必要もないかもしれません)、大きな組織の中でのお仕事から、宇宙ベンチャーや個人でのお仕事まで、「宇宙のお仕事」をこのnoteで発信していきます。

〇コスモ女子とは?

「コスモ女子」は、宇宙業界で活躍したい女性中心のコミュニティです。

宇宙に関する知識を身につける「宇宙の基礎講座」や、宇宙に詳しくなくても楽しめる交流会などのイベントを毎月開催!

コスモ女子から発足した、コスモ女子アマチュア無線クラブが人工衛星を2024年に打ち上げる予定です。

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