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宇宙の視点の獲得が、地球とより良く共存する気付きになってほしい。

生本 めい(いくもと めい)さん
株式会社アクセルスペースホールティングス PRマネージャ

プロフィール
大阪大学卒業(途中、休学してロシアのニジニ・ノブゴロド大学へ留学)
2017年JAXA入社、国際宇宙ステーションをはじめとする有人宇宙活動の事業企画や国際調整、衛星関連の国内外契約に従事。世界初の民間商用超小型衛星をはじめとする9機の実用衛星を開発・運用してきた宇宙ベンチャー アクセルスペースの「宇宙を普通の場所に」というミッションへ共感し、2021年より現職。


【お仕事内容】宇宙は特別な場所ではない、私たちの日々の生活・ビジネスを支えている

ー現在のお仕事について教えてください。

アクセルスペースは日本橋を拠点に、光学超小型人工衛星の設計・開発から運用、打上げアレンジや衛星データを元にしたソリューション提案まで一貫したサービスを世界中で提供している宇宙ベンチャーです。
私は広報PRを担当していて、プレスリリースの発信、メディアからのインタビュー・出演対応、イベント企画、HP管理やSNS運用などを行っています。


ーイベントは具体的にはどんなものがありますか?

最近(2021年6月時点)実施したイベントを2つご紹介します。
どちらも有隣堂さんとコラボして誠品生活日本橋とオンラインを繋いで開催しました。

1つは、「Overview Effect 〜地球で暮らす未来の大人たちへ 宇宙より〜」というイベントです。
NASAアジア代表のGarvey McIntosh氏と文化人類学者/京都芸術大学教授の竹村眞一氏がゲストとして登壇してくださいました。
Overview Effectは「概観効果」と訳されていて、宇宙空間に浮かぶ地球を見て、予期せぬ感情が起こり、考え方や価値観、社会通念が大きく変わる現象です。宇宙飛行士が宇宙空間でよく経験すると言われています。

このイベントは、国際宇宙ステーションやアクセルスペースの衛星「GRUS(グルース)」から撮影する地球、竹村教授が開発なさった次世代型デジタル地球儀「触れる地球」を通じて、Overview Effectを体感してもらい、地球や未来の在り方について考えるきっかけになればと企画しました。

もう1つは、アクセルスペースが開発した日本初の量産衛星4機の同時打上げをリアルタイムで観覧するイベントです。
NASAアジア代表のGarvey McIntosh氏とJAXA J-SPARC公式ナビゲーター/宇宙キャスターの榎本麗美さんをゲストにお招きし、アクセルスペースのCEOとCTO(最高技術責任者)がカザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地からの打上げを解説する、はずでしたが!!!

予定時刻直前に打上げの延期が決定し、イベント内容を急遽変更し、衛星ってどんなもの?衛星から見える地球はどんな感じ?衛星データって何ができるの?ということを、未来への期待も込めて、登壇者や参加者と話し合いました。

結局、当初予定日の2日後、3月22日に無事に打ち上がり、その際は日本橋のオフィスでロケットの解説を交えたオンラインのライブ配信を行いました。
これも宇宙を相手にする時のリアルですね(笑)


ーアクセルスペースさんの広報としては、みんなに宇宙を知ってもらうという役割もあるのでしょうか。

それも含めてやりたいです。
ただ、それは「宇宙は特別なんだ」というのではなく、人工衛星から見える地球の様子や衛星が撮影するデータの使い方を知ることで、

「宇宙って実は自分達にも関係がある、身近なものだ」
「宇宙から衛星で撮るデータって、日常・ビジネスの色んな面で使える」

ということを伝えたいと思っています。
社会の在り方とか、地上のインフラを支える新しいプラットフォームになりつつあるんだ、ということも。

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打上げ前が忙しい。なにごとも準備がいちばん大事!

ー社内広報について教えてください。メールでの情報共有などでしょうか。

メールは社外とのやり取りだけで、社内では全員カジュアルにチャットでやり取りをしています。
社員は現時点85人程いるのですが、そのうち4割弱が外国籍です。
そのため、全社ミーティング等では言語の壁なくみんなが理解できるように、日本語と英語の併用を徹底しています。


ー1日のスケジュールについて教えてください。

時期によって波がありますが、衛星の打上げ前はやはり忙しくなります。
通常は朝8-9時から、お昼休憩を挟み、夜7時くらいまで働いています。
コロナ禍なのでリモートワークが中心で、どうしても出社が必要な時だけ出社します。
午前中に優先度の高い仕事を終わらせ、午後にアイデアや企画などの頭で考えるような仕事をすることが多いです。


ー打上げ時期が忙しいと思うのですが、広報としては前後どちらが忙しいのでしょうか。

広報としては打上げ前の方が忙しいです。
全ての物事は、当日よりも準備が一番大変かつ大事、というのを自分の教訓にしています。無事打ち上がった際の対応を考えるのは当然ですが、打上げが想定通りに進まない時の対応を事前にしっかり考えておくのも、大切な仕事です。
上手くいかない原因としては様々なパターンが想定されますので、その分準備が必要になります。後者は、無駄になって嬉しい唯一の仕事ですね(笑)


ー残業はどれくらいしますか。

時期によってありますが、当社は朝7時~夜11時という融通の利きやすいフレックス制なので、多く働いた次の日は休むように調整しています。


【やりがい】ベンチャーならではの「チャレンジ」と「成長」

ーやりがいを感じるのは?

自分がしっかり理由と考えを持って提案すれば挑戦させてもらえること、それを評価されるアクセルスペースの文化が好きです。
CEO・役員直下で仕事をしているので、経営方針やトップの考えをいつも身近に感じられるのも面白いです。


ー逆に大変なことは?

ダイレクトな広報ポジションの経験はなく入社したので、少しでも早く知識や能力をつけるように、人一倍頑張る必要がある、という意識を持っています。


ー印象に残っている仕事はありますか?

今年3月の衛星打上げです。
JAXA時代は(私はエンジニアではないので)しっかりガラスで囲まれた、いわゆるみなさんが想像するカッコいい管制室の外から運用を見守っていましたが、日本橋という東京の都心の、オフィスの2階で、エンジニア達は普通に自分の席から運用をしていました。
(もちろん透明ガラスもなければ普通に隣で初期運用の様子を見ることができる!)

JAXAとは環境が違いすぎて(笑)でも、宇宙開発・利用が政府のものだけではない、宇宙が誰にとっても身近で当たり前の時代になったことをリアルに感じました。
あと、隣で見たエンジニア達の嬉しそうな顔や真剣な眼差しも忘れられません。


【きっかけ】「宇宙から見た地球」という視点と出会った。本気で世界平和の可能性を感じた。

ーいまの仕事に至る経緯を教えてください。

実は私が宇宙を志したきっかけが、「Overview Effect」と題するイベントでゲスト登壇してくださった竹村教授の「触れる地球」との出会いだったんです。
まさにイベントで伝えた内容を、多くの人に伝えたいと思って、宇宙業界を志しました。

外交官を志していた大学時代、国連のボランティアをする中で「触れる地球」と出会いました。
これは、リアルタイムの地球の様子、データの蓄積により地球を過去から遡り、現在、未来までの姿を映し出す、体感1mくらいの大きなデジタル地球儀でした。
地球温暖化の変遷、地震がどのように世界各地に波紋していくか、渡鳥やクジラがどう移動していくか、大陸がどう動いて今の形になったのか、今の地球の昼と夜の姿などなど、本当に様々観点から、地球の様子を捉えていました。
後にこれらが衛星のデータを使ったものだとわかり、ものすごく衝撃を受けました。

それまで外交の道で地球を良くすることを考えていたのですが、政治は、技術や経済や文化の上に成り立つものであり、その基礎や方向性をつくるのは、ひとつ下のレイヤーだなと感じたんです。
国境・民族・宗教など、人間が作った枠を取り払って、1つの地球という概念をより多くの人が持てたら、もう少し、この世界は平和な場所になるんじゃないかと本気で思いました。

その後、宇宙大国ロシアで、宇宙開発が人々の心理、社会、文化に与えた影響や、宇宙開発をめぐる政治と科学の関係などを研究し、宇宙のポテンシャルを確信して、JAXAに応募しました。
(日本の宇宙開発の全体像を学び、目の前で体感させてもらった、感謝でいっぱいのJAXAでの日々から今ここまでの話をすると夜を越すので割愛します(笑))

一言に“宇宙から地球を見る”といえど、感じることは一人一人違うはずです。
でも、各々が“宇宙視点”で得た自分なりの気付きを大切に生きていけば、この地球は、地球で暮らす我々と自然と技術との関係は、より良い方向に向かうだろうと、今でも強く信じています。


ーロシア留学も経験されていますが、なぜロシアを選択されたのでしょうか。

高校2年の時、米国企業の奨学金プログラムに参加し、 ワシントンD.C.やニューヨークなど東海岸で国連やIMFなど国際機関の第一線で働く人とお話をさせてもらいました。
以来、自分も世界平和の実現に携わりたいと、外交官を志しました。

当時、英語はある程度話せていたので、他言語も学びたいと考えました。
日本に身近な国で、かつ未解決の課題に取り組むことで貢献もしたい、と考えて選んだのがロシアでした。
ロシアは日本とすごく近いのに、あまりよく知らない方が多い。
良いイメージを持たれている風潮も感じなかった。
地球の陸地の6分の1を占める巨大な国で、ロシア語が話せれば、自分の目と耳、足で、この未知の世界を冒険できるんだという好奇心も、大きな原動力でした。

が、いざ学び始めてみると、ロシア語が難しすぎて、この言語を選んだことを後悔しました。
例えば、ブロック体と筆記体が違いすぎる
(筆記体で出てくる「m」はブロック体では「t」)。
英語と混じって最初は訳がわからなくなっていました(笑)
名詞も、男性・女性・中性という日本語にはない概念が登場、全ての単語に核変化がついてきて、何度挫折しかけたことか(笑)

最終的には、現地の大学の入学試験(日本でいう大学のセンター試験)を全てロシア語で受けて合格、授業もロシア人に混じって受け、ロシア語で数十ページの論文を書けるほどになりました。
今では誇りを持って言える、大好きな第二の故郷です!

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ロシア留学中の写真(2015年クラスメイトと)


ー広報部はどんな人に向いていると思いますか。

情熱と冷静さの両方を持つことが大切だと思っていて、自分も日々そんな姿を目指しています。


ーリフレッシュや趣味は?

世界放浪旅が好きです。
観光名所も素晴らしいですが、現地の人々が生きる街をぶらぶらと歩いて、地球や文化、生き方の多様性を知ることが一番好きです。


ー尊敬する人は?

自分の周りで頑張っている人々は皆、私のモチベーションです。
海外で自分が目指す世界を実現させるべく頑張っている友人、サステナブルなファッションブランドを立ち上げた友人、貧しい子供・家族が希望を持って生き、教育を受けられるよう活動する師匠など。
自分も誰かの希望になりたい!といつも励まされています。

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趣味の世界放浪旅(2019年スイス)


【ビジョンとメッセージ】宇宙業界はいま、いちばんおもしろい業界

ー宇宙ベンチャーの広報の仕事の今後の動向や求められることはありますか?

宇宙ってかっこいいでしょ、ということではなくて、自分達が叶えたいビジョンや挑戦のストーリーを伝え、ビジネスとしての実現性をしっかり示すことが大切です。


ー最後に、宇宙業界を目指す方へのメッセージをお願いします。

宇宙は今、一番面白い業界だと思っています。
空想世界のものと思われてきたことが、どんどん現実的なものになり、更にはビジネスとして成り立ってきている。
人工衛星を筆頭に、どんどん宇宙が地上の社会インフラとして使われるようになってきました。

これからもっともっと資金や人材が入ってきて、地上にある技術と宇宙特有の技術が融合され、発展し、業界として拡大するでしょう。
まだまだ開拓の余地のある業界なので、こんなことがしてみたい、こんなアイデアはどうか、こんな技術が使えるのではないか、など、挑戦を面白いと思える方にはすごく向いていると思います!!


ー本日はありがとうございました。


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〇宇宙のお仕事図鑑とは?

このプロジェクトのきっかけは、「宇宙関係の仕事につきたかったけど、宇宙飛行士や天文学者しか知らなかった。」という声がコスモ女子のメンバーからたくさんあがったことでした。
宇宙のお仕事図鑑では、宇宙関連のお仕事をされている方々に取材をした記事を発信していきます。
文系の職種も理系の職種も(文理で区分する必要もないかもしれません)、大きな組織の中でのお仕事から、宇宙ベンチャーや個人でのお仕事まで、「宇宙のお仕事」をこのnoteで発信していきます。

〇コスモ女子とは?

「コスモ女子」は、宇宙業界で活躍したい女性中心のコミュニティです。

宇宙に関する知識を身につける「宇宙の基礎講座」や、宇宙に詳しくなくても楽しめる交流会などのイベントを毎月開催!

コスモ女子から発足した、コスモ女子アマチュア無線クラブが人工衛星を2024年に打ち上げる予定です。

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