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【コスモ女子×せりか基金】指定難病ALSと「宇宙兄弟」からまなぶ「生きる」ということ~「せりか基金」の挑戦~

はじめに

株式会社Kanatta・インターン生の小埜功貴(ONO Koki)です。

Kanattaのプロジェクト・コスモ女子が、4月20日(火)に「コスモ女子×せりか基金(宇宙兄弟ALSプロジェクト)チャリティイベント」を開催し、一般社団法人せりか基金から代表の黒川久里子様と広報担当の小西康高様にご登壇して頂きました!

今回の記事では、イベントで実際に語られた宇宙兄弟とALSの関わりやせりか基金の取り組み、ALSという病とそれを抱える方々のリアルについて一参加者である小埜から紹介できればと思います。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は【話す】【呼吸する】【食べる】【体を動かす】・・・といった運動神経系に徐々に障害が生じていく疾患であると定義づけられています。
(参考:日本ALS協会

ALSの症状が生じるのはあくまで運動神経系であり、視覚や聴覚といった5感を捉える知覚神経にはほとんど影響しないことが大きな特徴の1つです。


『宇宙兄弟』とALS

『宇宙兄弟』(作者:小山宙哉)は2021年4月下旬現在で第39巻まで刊行されている大人気のコミック。
2012年には小栗旬や岡田将生、麻生久美子(敬称略)が主演で実写映画化もされました。

原作コミックのあらすじは以下の通りです。

2025年、NASAは日本人宇宙飛行士・南波ヒビトを含む、第1次月面長期滞在クルーのメンバーを発表。時を同じくして日本では、自動車の設計をしていた南波ムッタが会社をクビに。大きく異なった運命を歩んでいたふたりの兄弟。
しかしそれぞれの未来が、幼少時代に交したある約束によって、動き出そうとしていた。

幼少時代、星空を眺めながら約束を交わした兄・六太と弟・日々人。
2025年、弟は約束どおり宇宙飛行士となり、月面の第1次長期滞在クルーの一員となっていた。一方、会社をクビになり、無職の兄・六太。弟からの1通のメールで、兄は再び宇宙を目指しはじめる。

<参考>
『宇宙兄弟」既刊一覧 講談社コミックプラス
『宇宙兄弟』公式サイト

幼い頃に宇宙飛行士になることを夢見て、毎日宇宙のことばかりを考えて幼少期を過ごしてきた兄弟。

やがて兄は、その夢を断ち宇宙とは異なる自動車設計の会社に就き、一方で弟はまっすぐ宇宙飛行士を目指し続けて、初の日本人かつ最年少の宇宙飛行士となり・・・というのが主なあらすじです。

この物語とALSとの関係は、映画でいうところの中盤あたりに登場する、伊東せりかという女性です。
彼女は父をALSで亡くし、それをきっかけに医者になることを決意。夢を実現させ医療の道を歩みますが、現実世界と同様、彼女の父が患ったALSはまだ根本的な治療法が見つかっていません。

そこで彼女は、「父を苦しめたALSをこの世から無くしてしまいたい」という信念のもと、ALS治療薬開発に大きく近づく無重力環境で実験を行うため、宇宙飛行士を志望します。
(参考:伊東 せりか | 『宇宙兄弟』公式サイト



この伊東せりかの意思を現実世界に引き継いで実践をしているのが「せりか基金」です。

登壇された黒川様のプレゼンのなかでも、ALSを研究する際に無重力環境で行うことの可能性について、非常に丁寧にご説明していただきました。

わたしたちのいる地球環境で神経系に関する調査や対照実験する際、ひとつの要素だけを変化させて比較することは難しく、たとえば温度や湿度といった外部要因がどうしても入ってしまうという難しさがあります。

また、神経の異常を調べる際にその神経のみを抜くということができず、ALSにおいてはその症状等々の変化が短期間で激しく生じるため何が起こっているのかを突き止めるのにも困難を極めています。

それでも、ALSを引き起こす原因究明の研究の中からともしかしたらこれが原因の一つなのではないかというタンパク質の異常が発見されました。
そのたんぱく質の結晶化ができたらALSの原因を調べる、または治療法を発明するために有効なのではないかと考える研究者もいます。

宇宙という無重力空間であればALS研究の大きな進展となりうるTDP-43たんぱく質の結晶化に成功するのではないと『宇宙兄弟』の作中で、伊東せりかが宇宙飛行士を目指す決意をしたというエピソードに繋がります。


「せりか基金」の取り組み

今回のイベントに登壇してくださった黒川様をはじめとする方々によって、2017年に立ち上げられた「せりか基金」。ALSの治療方法を解明するべく研究に従事する研究者へ寄付を行うという取り組みが行われています。

支援者は「せりか基金」が提供しているチャリティーグッズを購入、または寄付することによってせりか基金の活動を支援することができます。

集まった寄付金は、「せりか基金」で実施される、年に一度の研究助成「せりか基金賞」にて選出された研究者に助成金として渡されます。
(参考:せりか基金 STORE


2020年の12月には第4回目の授賞式が開催されました。これらの取り組みが歩まれていくなかで、昨年の2020年2月に大ニュースがありました。

「せりか基金賞」第1回の受賞者である東京医科大学・浅川和秀准教授によるALSのメカニズムに関する論文が、世界的に権威のある科学雑誌「Nature Communications」に掲載されたのです。

TDP-43という、体内の組織や細胞のなかで恒常的に発現するRNA結合のタンパク質が、通常は集合しないところに集まることでALSなどの症状が発生しますが、浅川准教授は、これよりも前の段階ですでに運動ニューロンが機能を失い始めるということを証明してみせました。

それまでの先行研究では、TDP-43がALSや前頭側頭葉変性症の病巣で蓄積されていることまでは判明されていましたが、「なぜ集まるのか?」や「そもそもTDP-43を取り扱う研究や実験をするのが困難ではないか?」といった疑問や課題が掲げられていました。

浅川准教授による研究ではこのような課題を、開発した光技術によって意図的にTDP-43を集合させたり、ヒトの構造と多くの点で似ているゼブラフィッシュという動物モデルを用いることによって、克服しました。
(参考:せりか基金助成金から初! 第一回受賞者・浅川先生の研究が成果に。 | 『宇宙兄弟』公式サイト


せりか基金賞から世界に名を轟かせる研究が世に放たれた、その第1弾といっても過言ではありません。


「せりか基金」とALS患者

「せりか基金」では支援者から寄付された資金を研究費として学術研究に寄与するのみならず、ALSという難病を抱える方々のありのままを発信する活動も行っています。

メディアへのPRは直接対面でコミュニケーションをとったうえで、「せりか基金」の活動を紹介しています。ネットニュースはもちろん、新聞記事に掲載されたことも!

「ALS患者だって電子音声で親子ゲンカする」 母でも、娘でも、妻でもある日常 ALSを患いながら、病気についての情報提供を続ける、酒井ひとみさん。(リンクに飛びます)


そもそも「せりか基金」が発足された経緯は、『宇宙兄弟』で描かれたALSが治療可能な病気となる世界を実現させようという信念があります。



ただ、ALS当事者でない立場の我々に何ができるのか?



現状の問題点として、たとえば車椅子ひとつでも、保険適用外として扱われてしまったり、症状の進行具合によっては何度か車椅子の形状も変えないといけなかったり・・・などといった制度と実態の齟齬はたしかに存在します。極めて、改善されなければならない問題です。

しかしながら『宇宙兄弟』に描かれているように、もっとALSを抱える方々の「生」に寄り添って声を広げなければならない・・・。

ALSの症状のひとつとして痰を出したり呼吸をすることが難しくなることがあります。その際には気管切開を行い、人工呼吸器を直接挿入するという処置を行います。

この人工呼吸器は一度装着すると、二度と外すことができないというのが現在の日本の法律上の決定です。
そのため、病状がより進行して精神的に耐えられなくなっても、生きるのに必要不可欠な人工呼吸器を取り外すことはできない。

「この先の人生を生きたいと思えるかどうか」が装着を決める際の大きな判断基準になるのです。

わたしの研究している社会学の分野では、「生きがい」をめぐる議論は度々なされています。そのなかでは自身の「生」を考えるのは「死」を考えることと表裏一体という通念があります。

例えば、井上俊という社会学者は「死にがいの喪失」という論文のなかで、このような議論を見出しています。
戦争を経験して「死」と隣り合わせにあった世代と比べて、戦争という時代が終わってもはやそれとは無縁になった時代の人たちのほうが「生きがい」について考えられなくなった。
(参考:筑摩書房 死にがいの喪失


黒川さんはご講演のなかでALSを抱える方々を「スーパーヒーロー」と表現していました。

黒川さん曰く、3割の患者が呼吸器をつけるという選択肢を選んでいるとのことで(もちろん、これを選ぶ/選ばないにかかわらず)そこには生をめぐる葛藤があります。

ALSという病気を背負うことになった現実への苦しみと戦いながら、乗り越えながら、生きています。

多くの方々と接するなかで、この症状を抱えていないひとたちと同様に冗談を言い合ったり時にケンカしたり、自分はお酒は飲めないけれど友だちが家に遊びにきたときにそれを振る舞ったり。
時には食事を取り寄せて作ってくれたりするといったエピソードも紹介されました。


「もともとは関係のないように見えたわたしたち多くの人たちが、協力しあう。」
「それぞれの夢、生きる意味が重なる場所がある。」
「生身の人間」としての彼/彼女らと接してきたなかで、このような信念が導き出され、黒川様は以上のメッセージを提示します。

ALS患者もわたしたちも、どんな人たちでも何かしらのカタチでにつながりあって、助け合いながら生きています。

そんな想いを馳せたときに、人と人との互恵的な関係を構築することはそう難しくなく、むしろ当たり前のように実践していることかもしれません。


おわりに

「せりか基金」、ALSをめぐるご講演のなかで、社会のこと、生きること、人と人をつなぐ利他のこと・・・を考えながら約1時間半を過ごし、この先ずっと心に残って忘れることもないであろうメッセージを学ぶ今回のイベントとなりました。

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