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地球環境の未来を研究しながら、ロケットの未来にも貢献。宇宙業界のマルチタスクプレーヤー。

髙橋円(たかはし まどか)

【プロフィール】 
日本電信電話株式会社 宇宙環境エネルギー研究所
(株)MJOLNIR SPACEWORKS 事業企画 Pro bono
大学院ではJAXAの研究生として、地上用静電浮遊炉での材料研究に従事した。その後、国際宇宙ステーションの運用業務、宇宙飛行士の訓練支援、宇宙実験のインテグレーション、新規事業企画など幅広く担当。重工メーカーに転じ、航空宇宙/エネルギー材料研究、研究計画管理、技術企画、女性活躍等を推進した。現在は、NTT宇宙環境エネルギー研究所にて、情報戦略や地球環境未来予測技術を担当する傍ら、ハイブリッドロケットエンジンのスタートアップである(株)MJOLNIR SPACEWORKSにて、世界中から簡便な宇宙輸送の実現をめざしている。


【仕事について】地球環境の未来を予測し、社会に役立てていく仕事

現在は、NTT宇宙環境エネルギー研究所で地球環境未来予測の研究を担当しています。

地球の約7割の面積を占めている海洋のデータを分析し、気象・気候・生態系などの環境・生物化学的メカニズムを解明してモデル化し、デジタルツインコンピューティング上でシミュレーションすることで、起こり得る変化を未来予測することをめざしています。

具体的な事例をいくつか挙げると、ひとつは台風の予測円や進路予測です。

台風の予測円が今より小さくなり、進路予測が現在よりも早く正確に予報されれば、より効果的・効率的に事前に手立てを講じることができることから、経済効果につながります。人々もより豊かに安心した生活が送れることになるでしょう。

もうひとつは生物多様性に関する予測です。

人口増加や人々の生活様式の変化に伴い、食物連鎖のピラミッドが崩れてきており、生物種は年間4万種ほど絶滅していると言われていますので、生物と人類が共存できるようにするためには、環境の変化や人間活動から未来を予測し、最適な生態系について理解を深め、人間活動を見直し、人々の行動変容につなげていく必要があります。

その他にも、宇宙環境エネルギー研究所では、宇宙太陽光発電技術や宇宙放射線電磁バリア技術など、社会課題の解決のために、必要な研究をしています。

また、株式会社MJOLNIR SPACEWORKS(ミヨルニア・スペースワークス)の事業にもプロボノとして携わっています。MJOLNIR SPACEWORKSは、「ロケットを自動車のような大量生産に」をビジョンとして、ハイブリッドロケットエンジンと無溶接タンクを開発している北海道の企業です。
弊社は、ロケットエンジンの大量生産を可能な技術を有しており、他の企業と水平分業によって、世界中からロケットの実現をめざしています。
2030年には、年間約3300機の小型衛星の需要が見込まれていますが、現時点での技術では、打ち上げ可能数は、わずか500機/年前後です。
現在のロケットの打ち上げ数が少ない理由は、冷戦時代に開発した液体ロケットエンジンの製造方法が主流となり、資金や製造期間を考えると大量生産に向かない状態だからです。

しかし、MJOLNIR SPACEWORKSが開発しているハイブリッドロケットエンジンは、「安全性」「シンプル」「安価」がキーワードです。
これまでの液体ロケットエンジンや固体ロケットエンジンでは、予期せぬ爆発による安全性が危惧されていました。MJOLNIR SPACEWORKSは、エンジンにホームセンターでも手に入るようなプラスチックと液体酸素を使用しており、爆発しない極めて安全なエンジンを開発しました。そして、これまで複雑に入り組んだ構造をしていたロケットエンジンを、圧倒的にシンプルな構造にしました。
また、MJOLNIR SPACEWORKSは、溶接をしないタンク(無溶接タンク)の技術開発により、検査コストを削減でき、安価に作ることに成功しています。そのため、「安全性」「シンプル」「安価」を達成でき、年間3300機の小型衛星需要に耐えうるエンジンを提供することができるのです。

▲ MJOLNIR SPACEWORKSがS-booster2022で最優秀賞を受賞したとき

ー仕事でやりがいを感じることは?

私は、世界に影響を与えるような大きな仕事に携わり、社会に変革を起こすことを目標としているため、その一部でも貢献できたと実感したときにやりがいを感じます。

これまで、国際宇宙ステーションの運用業務や宇宙飛行士の訓練、ロケットエンジンの開発などの宇宙関係のキャリアを積んできましたが、まだまだ世界に影響を与えたと言えるところまではできていません。
現在、総務省Beyond5G新経営戦略センターのお仕事で、XG Igniteという取り組みに参画しており、“宇宙をみんなの身近にするスペース・トランスフォーメーションをめざす”をビジョンとし、「宇宙×通信」で新たな産業を巻き込みながら、新しい事業提言をまとめる活動をしています。

Beyond5Gの2030年代には、さらにセンシングやAIコンピューティングが発展しているので、人工衛星によるマクロデータと地上によるミクロデータを組み合わせることで、需要予測や気候変動による生産・収量予測などの精度を向上し、新たな価値を創出できるのではないかと考えています。

日本が世界に先立つ新しいサービスやソリューションを提案し、それらを実現することで、社会に変革を起こせたら嬉しいですね。

ー印象に残っている仕事を教えてください。

前職である、有人宇宙システム株式会社(JAMSS)で仕事をしていた頃の話ですが、宇宙飛行士の船外活動訓練サポート業務が印象に残っています。国際宇宙ステーション(ISS)は、日本、米国、ロシア、カナダ、欧州などの15カ国が協力して建設した、地上約400km上空にある人類史上最大の有人実験施設です。

私がJAMSSにいた頃は、ISSに日本の実験棟「きぼう」を船外活動にて建設するときだったので、その模擬訓練をWETSと呼ばれる無重量環境試験設備で、宇宙飛行士の方々と一緒に水深6メートルの水槽に潜水して行いました。この船外活動の模擬訓練サポート業務を行ったときには、実際に宇宙に行った気分になったことで、今でもとても印象に残っている経験です。

ー高橋さんの仕事には、どんな適性が必要だと思いますか?

現在の仕事に関しては、未来志向の方が向いていると思います。視野が広くて地球規模で考えたり、逆にミクロに分析できたりする力も重要です。

あとは、根気強さが必要かなと思います。5~10年と長い時間をかけて研究を続けていくので、今実施している研究が直接なにか形になって現れることは少ないです。
未来を見据えながら、1つ1つのパズルのピースを組み合わせていき、地球規模で俯瞰してみて気づいたり、別の方が研究した成果と組み合わせたりすることで、徐々に形にしていく力が必要だと思っています。

ー1日のスケジュールは?

現在、横浜に在住しており、勤務地の三鷹までは2時間半くらいかかります。
在宅勤務と出社を組み合わせながら、仕事をしています。
6時半~7時くらいに家を出て、
9時~9時半くらいから始業し、
たいていミーティングが10件前後入っていて、
お昼は、ランチの後に会社のジムで運動し、
18時頃終業します。
出勤日の夜は、飲み会が入ることが多いです。
在宅の日は、なるべく子供との時間を大切にしています。

▲ 高橋 円さん

【きっかけ】兄弟と観ていたSFアニメに引き込まれた

ー宇宙を好きになったきっかけは?

幼い頃、父がよく宇宙について話してくれました。
宇宙には果てがないとか、地球という惑星ができたのは奇跡だとか、生物や人間はなぜ生きているのかなど、まるで哲学者のような父の話を聞いて、子供ながらに自分が生きる意味などについて考えるようになりました。

また、幼少期から未来もののアニメが好きで、宇宙戦艦ヤマトやガンダムなどを兄弟とよく観ていました。
宇宙飛行士に憧れてはいましたが、当時まだ日本には宇宙飛行士がいない時代で、どんな勉強や準備をしたら宇宙飛行士になれるのかが分かりませんでした。
「体力をつけておけばよいのかな?」という発想で、小中学校ではバスケットボール部、高校ではハンドボール部に入りました。
高校生の時に、宇宙飛行士の毛利衛さんがスペースシャトルで材料実験をしているのを観て「これだ!」と思い、大学では材料工学科に進みました。

ーどんな大学生活でしたか?

大学でも体育会のハンドボール部で身体を鍛える毎日を過ごしていました。
ちょうど部活動を引退後に、日本科学未来館(東京)ができたので、開館初日に来場し、ボランティアを募集しているのを見て応募しました。ボランティアをしているとの休憩室に、ふらっと毛利宇宙飛行士が入ってこられて、偶然にもお話をする機会がありました。
「私、毛利さんがきっかけで材料工学を学んでいるんです!」
と毛利さんご本人にお伝えする機会があったのは、とても印象に残っています。
大学院の時には、JAXAの研究生になって、微小重力環境における材料研究に
従事しました。そして、参加した学会でも毛利さんにお会いすることができました。
大学時代から、憧れの宇宙にたくさん関わることができ、とても充実していました。

ー大学院卒業後から現在にいたる経緯を教えてください。

大学院卒業後は、少しでも宇宙飛行士の近くで働ける仕事に就きたいと思い、有人宇宙システム株式会社(JAMSS)に入社しました。
JAMSSでは、宇宙飛行士の訓練や国際宇宙ステーションの管制業務などに携わっていました。
実際にたくさんの宇宙飛行士の方々とお会いするなかで、宇宙飛行士のような特別な才能をもった人たちだけでなく、私のような普通の人間も、宇宙に行けるような世の中にしたいと思うようになるという気持ちの変化がありました。

また、これからの宇宙業界は民間主導の時代になることを感じ、民間大手の重工メーカーに転職をしました。重工メーカーでは、研究所に所属し、航空宇宙/エネルギー材料研究、研究管理、研究企画などに関わりました。
そのなかで結婚・出産も経験しました。また、宇宙には技術だけではなく、ビジネスについての知見も必要だと感じ、子供を育てながらMBAも取得しました。

ーリフレッシュ方法やオフの過ごし方を教えてください。

体を動かすことが好きで、運動をしています。
出勤の日は、会社内にジムがあるので、昼休みなどを活用して筋トレをします。休みの日もよく運動をしていて、先日はソフトボールで地区の大会にも出場しました。運動をしている方が、リフレッシュもでき、仕事の生産性も上がるなと感じます。

▲ 会社内のジム。お気に入りのローイングマシーンは、4人でボートレースができる。

【これから】みんなが当たり前に宇宙にいける世の中に

ー今後、仕事を通じて実現したいことは?

2つあります。

1つ目は、「みんなが宇宙に行ける世の中にしたい」です。
JAMSSに勤めていた20年以上前のからずっと思い続けていることですが、MJOLNIR SPACEWORKSで実現できるのではないかと思っています。

2つ目は、「宇宙事業を通じて、次の世代により良い地球を残したい」です。NTT宇宙環境エネルギー研究所で実現したいと思っています。通信とセンシング、コンピューティングなどの技術が高度化することで予測モデルを精緻化し、行動変容につなげる技術を構築したいと考えています。

ー宇宙業界をめざす方にメッセージをお願いします。

もし夢をお持ちでしたら、年齢や子供がいるからなどを気にされるのではなく、まずやってみると良いかなと思います。
考えてしまうと、いくらでもできない理由は探すことができてしまうからです。
あまり考えずに、まずチャレンジしてみる、興味を持ったら行ってみるなど、行動を起こすことが大事なのではないかと思います。
あとは、ご縁を大事にしてほしいですね。
今の仕事を紹介していただいたのも、実は小さなご縁からなんです。
家族や会社といった、毎日関わりのある強いつながりだけでは、情報が限定されがちです。

ぜひ、弱いつながりを積極的に作り、そのつながりを保っていくとチャンスも増えてくるのかなと思います。
私自身も、大きなビジョンに向けて弱いつながりを大切にしていきたいと思っています。


ーありがとうございました。

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〇宇宙のお仕事図鑑とは?

このプロジェクトのきっかけは、「宇宙関係の仕事につきたかったけど、宇宙飛行士や天文学者しか知らなかった。」という声がコスモ女子のメンバーからたくさんあがったことでした。
宇宙のお仕事図鑑では、宇宙関連のお仕事をされている方々に取材をした記事を発信していきます。
文系の職種も理系の職種も(文理で区分する必要もないかもしれません)、大きな組織の中でのお仕事から、宇宙ベンチャーや個人でのお仕事まで、「宇宙のお仕事」をこのnoteで発信していきます。

〇コスモ女子とは?

「コスモ女子」は、宇宙業界で活躍したい女性中心のコミュニティです。

宇宙に関する知識を身につける「宇宙の基礎講座」や、宇宙に詳しくなくても楽しめる交流会などのイベントを毎月開催!

コスモ女子から発足した、コスモ女子アマチュア無線クラブが人工衛星を2024年に打ち上げる予定です。


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