催眠療法は、最古で最新の心身セラピー

催眠というのは、簡単に言えば自分自身の潜在意識とコンタクトをとり疎通するものである。
そして、ヒトの人生というものは、実は全てが自己催眠(自己暗示)で成り立っている。
ほんの端的に例をあげれば、学習も催眠であるし、友人と話し込んでいる時や盛り上がっている時も催眠であるし、夢を見ている時も潜在意識が活発に働いている催眠、起きている日常の中でも人は何度も何度も頻繁に催眠状態を出たり入ったりする。
催眠というのは、「催眠」という言葉をわざわざ使ってしまえばややこしいかもしれないが、実はこれ以上ヒトと密接な現象はないというくらい、当たり前の現象なのである(それと表裏一体、表現の角度が違う単語である「解離」もだが…)。

そのため、あまりに日常に当たり前過ぎて通常の人は自分で気付かない。
自分の呼吸しているのを24時間気付いていて、心臓の動きを24時間どきどき感じていて、不思議で仕方がないと言い続けている人はなかなかいないだろう。それくらい気付かない程当たり前過ぎる現象なのだ。
それでも、呼吸や肺や心臓の研究者がいるのと同様に、催眠を研究する人たちもいるというだけである。

さて、そんな当たり前の現象であるからこそ、当然ながら対人関係や医療には、当たり前のようにずっと使われていた。自覚されて利用されていた場合もあれば、自覚もなくいつの間にか利用されていたものもある。
しかし、古代の哲学者や識者たちは、ヒトの心のはたらきというものにいろいろな角度から興味を持ち、あらゆる考察をしていた。

そして、そんな古代の医療施設などにおいては、いつの間にか当たり前のように、今でいう「催眠療法」が使われていた。

催眠療法の走りが少なくとも最初に発見されているのは、古代ギリシャやローマの「眠りの寺院」の記録である。
例えば古代ギリシャにおいてはギリシャ神話の医神を祀る寺院があり、癒されたいという巡礼者が絶えず訪れていたという。彼らは決まった手順を踏んで行動しながら寺院に入り、湯治をしたり森林浴をしたり神官医師団の治療を受けたりした後、設えてあるベッドで眠り、ギリシャ神話の医神アスクレピオスの夢を見ると、病が治癒したという。
他にも、やはり癒されたい人たちに同じような手順・行動を踏ませ、決まった順路を経て最後の部屋に辿り着かせ、そこの部屋に待機している祈祷師の祈祷を受けることで治癒する、というような施設もあったようだ。

つまり、古代の時代より、今で言えば催眠状態に入っていくような催眠誘導的手順を踏ませ、さらに患者本人の自己催眠能力での自己治癒力の開花を利用していたのである。
これを自己治癒力だとか自己暗示、自己催眠だなどという考え方はまだなかったため、アスクレピオスの夢のおかげだとか祈祷師のおかげだとか、要するに今でも言われるスピリチュアル的なものとして「外側」のあらゆるものの力のおかげとしてしまって、原理が同じだということにはならなかったのだが、しかし経験的体験的に利用してきた原理は全て同じ、ただ単に「ひとが生まれてから育つ」力を利用しているのである。そして、それは、時に本当にはかりしれない驚きの効果を発揮するほどの強力、無限大のものなのである。

ちなみに決まった順路を通らせることでだんだんと人を神聖な気持ちにさせてある種のトランスに入れていくというのは、今も日本の神社などで良く使われているが、これらも別に「催眠」という現象を学問的に扱ってわざと利用しているわけではなく、体験的・経験的なものなのである。

人は神社で荘厳な雰囲気を感じたり自然の偉大さを感じたりする。その「とてつもないもの」「はかりしれないもの」こそ、自然のエネルギーとまさに繋がって一体である宇宙であり潜在意識の存在なのである。


中世の時代になっていくと、これは「権威・権力」に利用された。
つまり、王族や特別なヒトのみの能力である、とされ、例えば彼らが癒されたい人に手をかざすと奇跡の力が現れ治癒する、というようなものとして使われたのである。この時代だけでも千年近く続いた。


その後は、やはりある意味特別な人たち…錬金術師や霊媒師という人たちに利用されていたが、その中でも”毒性学の父”として知られるパラケルススというどちらかといえば医学者に近い博識の錬金術師は、この神秘の現象、力を、医学に繋げようとした。
しかしこの時はまだ、手を翳したり、磁石を使ってその磁力に効果があるのだ、などとしか解釈することが不能であった。
というのも、ひとは「表面」から見れば、心や身体の問題に「苦しんで」いる。その本人である、それぞれのひとの心の中の潜在意識に、そんな偉大な自己治癒力があるとは、理論づけることはできなかったのだろう。
しかし、パラケルススは、こんな言葉を残している。

「心して"黄金の磁石"を探せ。それを見つけた暁には、汝の悲しみの種はすべて取り除かれる。 心して『汝自身を知れ』という掟を追究せよ。そうすれば、二度と欺かれることはない。」
「人はみずからがこうあると思い描けば、そのようになるのである。人が今あるその姿は、みずからがそうあると思い描いたものなのである 。」


現代でもほぼ誰もが名前を知る、音楽史における天才作曲家、モーツァルトと時代を同じくして催眠の歴史に現れ世界に大きな渦を巻き起こしたのが、フランツ・アントン・メスメルという医者であった。
彼は、この不思議な現象を外側のものではなく、ヒトの中のものであるとの発想をしながら、これを「動物磁気」と名付けた。
磁石というのはこれまたやはり不思議な力を持つ対象物だったのだろう。磁力という考え方ではあるが、彼は、ヒトの体内に動物磁気というエネルギーのようなものが流れているのではないかと主張し、自分自身の動物磁気を患者にわけることができるというような考え方で、治療を行った。
彼の理論はメスメリズムと呼ばれ世界中に広まり、同時に世界を二分させる大きな波を起こした。
結局のところこれの詮議のために設立された王立諮問委員会により、動物磁気に科学的な根拠はなく、いかさまであると結論付けられてしまったが、「動物磁気」であるかどうかはともかくとしてこの催眠下での不思議な奇跡的な治癒力は、水面下であらゆる人たちによって研究されるようになった。

メスメリズムの大きなうねりの影に隠れて、ピュイセギュール侯爵、アッべ・ファリアといった人たちが、実は既に、これは動物磁気の力でもセラピストや特別な人の力でもなく、それぞれの魂の隠された力を解放するだけなのだということに、気づき始めていた。
彼らは「磁気」という考え方から脱し、これらが暗示の力だけではたらくことを主張、これらを科学的に研究し、自己暗示を実証して言語的な暗示を実用化し始めた。ピュイセギュール侯爵は深いトランスで現れる夢遊状態を発見し、メスメルも晩年、夢遊状態を研究しながら地域の人たちの治療を行っていたという。


フランス革命により一時催眠研究の流れは衰退を見るが、その後も医学者たちが、”動物磁気”を引き継ぎながらも、その中から科学的手法としての暗示や一点凝視法などを発見していく。
ジェームズ・エズデイルは、麻酔がなく手術の死亡率が非常に高かったこの時代、催眠によって人を深く深くトランスに入れることで全身麻酔状態(昏睡状態だが、催眠者の声が聞こえていて無痛状態を作り出すことができる)にすることができることを発見し、手術の死亡率を大幅に下げることに成功した。

その後、リエボーとベルネームという医師たちによって、また、解離症状を研究していたシャルコーによってそれぞれ催眠研究を行う研究所(学校)が作られ、歴史上の多くの催眠研究者たちがここで学びを得ることになる。
無意識や精神分析を提唱した、19世紀の心理学の風雲児、フロイトもこれらのスクールで学びを得たという。
フロイトが精神分析や独自の理論でヨーロッパを席巻している一方、アメリカではウィリアム・ジェームズとヴィルヘルム・ヴントが、心理学を初めて「学問」として大学で講義するようになる。
それまで、ヒトの心という領域は哲学であったり文学であったり、身体の状態と繋げるにしても医学の角度からでしかなかった。
ヒトの心というものそれ自体を、研究する領域が区分けされるようになったのであった。


フロイトやピエール・ジャネによって無意識という、ひとが自分自身で気付くことができていない心の領域やはたらきがあると提唱され、そこから、あらゆるメカニズムが発掘されるようになった。
心理学を知らない人でも名前を聞いたことのあるほど有名なフロイトは、いろいろな理由から、結局自分は自分流に催眠現象を使った自由連想法という治療法を編み出したものの、いわゆる「催眠による暗示技法」は取り入れなかったという。そのため、催眠という言葉自体は少々後ろに隠れてしまったが、それでも、潜在意識から出てくるあらゆる症状に対応するため、催眠技法は利用され続け研究され続けた。


催眠療法や自己啓発の領域では有名な名前であるが、エミール・クーエが自己暗示の技法を開発。彼はもともと薬剤師であり、薬を渡す患者への声掛けや薬効の説明をするしないなどの違いで患者の回復度に大きく差が出ることに気づいたことが発端であったという。
現代でいわれる「プラセボ効果」とは、彼が発見したものだといえる。
今「プラセボ効果」というと、それは確かにビタミン剤などを薬効があると嘘八百を並べ高額で売り付けたり、求めているものが患者にはっきりとあるのにそれに背いて勝手に本当は薬効が証明されていないようなものを処方すれば問題(金銭利益的問題・また倫理的問題)であるが、プラセボ効果自体は、それを暗示として自己回復力・自己治癒力を高める強力な自己催眠(自己暗示)として機能するものなのだ。
そして、これ自体には、大きなはかりしれない効果が、何やら科学的な測定は難しいものの「確実に在る」ものとして、古代より実証されている。

ちなみに測定が難しいのはなぜか。
「他人が与える」ものではなく、「個々のヒトの中で起こる現象」だからである。

更にちなむと、今はプラセボ効果の他に、ノセボ効果という言葉もある。これはプラセボ効果の逆で、望ましくない変化を起こすものをいう。
ノセボ効果でなくとも、実はヒトは、「自分は治らない」と潜在的に自己暗示を強固にかけていれば、例えどんなに科学的に強烈な薬効が証明されている薬であっても、まるで効かない。寧ろそれこそそこで、自分で気付かぬうちに潜在意識に強固に「自分は治らない(これで治っては困る)」暗示をかけているがゆえに反動のようにノセボ効果として現れてしまう場合もある。

ある意味、これは当たり前なのだが、それでいて社会がどうにも認めようとしない風潮が大きいが…、どんな医療もどんな薬も、自己責任ということなのである。
例えそれがどんなものであれ、「治してやる」ことは不可能なのだ。
治るか治らないかは、本人が決める。
(ただ、これが本人たちの顕在意識にのぼっておらず、彼らの顕在意識と潜在意識が疎通できていないねじ曲がった関係性になってしまっている場合があるから厄介である。しかし、どんなひとも、自分の言動行動には必ず全て目的があり、更には、自分の生き方や人生の終え方までも自分で自分にプログラムし決めている。これは、例えばではあるが交流分析の人生脚本理論と催眠の潜在意識の説明を併用した理論などにおいて説明し得るものである。)


その後も、例えばフロイトの弟子のユングは、個人の無意識の更に繋がったところには、人類全体が普遍的に繋がっている集合的無意識を提唱、潜在意識の不思議さ広大さを世に知らしめ、一方でクラーク・ハルやレスリー・ルクロン、ウェットゼンホッファーなどは、科学や心理学・医学で催眠(潜在意識)を説明しようと膨大な論文や著作を世に送り出した。


一方、ジョージ・エスタブルックという医学博士は、米軍の権威であった。
彼は催眠を武器として戦争に用い、催眠によって米軍兵士に多重人格を作り出し完璧なスパイを作り出した。

全くと気を同じくしてデーブ・エルマンという人物は、エンターテイナーであったが、彼の編み出した即効催眠やわかりやすい技法を、米国の医療業界に教え、マニュアル通りに暗示をしていけば誰でも短時間で催眠にかけ、麻酔を作り出すことのできる技法を広めることで、当時米国で問題になっていた麻酔の使用ミスによる死亡率を減らす貢献に成功した。


同じくアメリカで天才心理療法家と謳われた精神科医のミルトン・エリクソンは、非常に庶民的なやり方で、患者たちの日常や家族に密接な形で、まるで気付かれもしないレベルですべての場面に催眠を利用し、患者たちがいつの間にか気付いたら治癒している(自分で自分を克服している)ような治療法を生涯かけて行った。


1958年、米国医師会は催眠を有効な治療法であるとして承認し、それからは科学的心理療法の領域として、A・M・クラズナー博士によって1982年、American Board of Hypnotherapy(米国催眠療法協会)が設立され現在では所属する会員は世界中に広がっており、ミルトン・H・エリクソン財団はエリクソン博士の手法を現在も世界に広め、そのエリクソン博士の言語パターンなどを組み込んで今、日本における企業などにも使われている最新の自己啓発・人間関係構築の技法、NLPやタイムラインセラピーの開発、それに伴い年齢退行療法・前世療法やデイヴィット・クイグリー博士によるソマティックヒーリングなどパーツセラピーもどんどん進化して様々な形が現れ、更にヒトの身体と心と魂の深い深い問題を扱うことを可能としてきている。


催眠とは、他に類を見ず、一番古い時代から最新の時代を貫き、ヒトの魂・心・身体・社会を貫いて様々な領域のベースを跨っては貫いて存在する領域なのである。


今回の記事では、催眠療法が一番古くて一番最新というのは一体どういうことなのか、という角度から、催眠の歴史の大きな流れをごくごくかいつまんで綴ってみた。

しかし、催眠とは潜在意識の在り方そのものの変遷であるので、戦争や疫病流行、政治的な動き、医療や文明の利器の発明など、すべてと密接に絡んでいる。催眠の歴史を学ぶことは、世界そのものの歴史があなたの中に染み込んでいくことにもなる。

ちなみに、日本には明治初期にメスメリズムが入ってきたようである。そこから「手かざし」などとしての面が大きく広まったとされる。
日本の催眠療法は、明治時代に、ヨーロッパの中世のものが入ってきたに近い。今、そこから成長している最中であるが、実際、催眠をスピリチュアルと混同してみている人も多いものである。


来年より、催眠療法や催眠をベースに組み込んだカウンセリングや心理療法の講座を開催していきます。
今回紹介した催眠の歴史においても、時代の大きなうねりの更にかいつまんだ部分だけでなく、考え方や位置づけ、技法の変遷など色々な角度から、余すことなくお伝えしていきます(催眠の歴史についての記事はこちらもぜひご覧ください)。
もちろん歴史だけではなく、理論、技法、そして多くの催眠療法スクールでは最低限の技法のみをある程度教わって資格を取得しますが、それ(催眠技法)を本当の意味で対人支援、心理療法に繋げ活かしていくところまで、理論・実践を両立させ濃密に、組み立ててゆきます。

まず自分を癒し自分を知り自分を整理し自律させたい人や、
その癒しを他者や周りにも広がるように行動していきたい人、
そのような意味で対人支援やカウンセリング・セラピーとしての潜在意識や心理療法やカウンセリングを学びたい人に向いています。

潜在意識というのは、ヒトにとって一番深淵の世界ですが一番身近で日常に密接、私たちの言動行動のすぐ下に全てに流れ影響しています。我々のたった一文字の言動、言い間違い、何気ない反応、行動、全ては潜在意識に支配されています。
顕在意識は実は、全て先に潜在意識が仕組んだ上で、あらゆることを「自分で決めて言ったりやったりしている”つもりに”ならせてもらっている」だけなのです。

そんな広大で偉大な潜在意識と、仲良くなって信頼し合って前に進んでみたくはありませんか?
自分自身の自己治癒力、回復力、可能性のフタを開いて解放することを、あなたの潜在意識は待っています。自分自身の人生の宝を、使うべき時に使いませんか?
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